研究課題/領域番号 |
23K14546
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分49070:免疫学関連
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
加納 規資 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (90970666)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | エンハンサー / eRNA / ヒストン修飾 / 炎症応答 / 自然免疫 |
研究開始時の研究の概要 |
自然免疫細胞は外来微生物の感染に応答し炎症性サイトカインの産生を介して、炎症応答を引き起こす。その発現制御機構は転写や転写後調節、翻訳後調節など複数の段階があるが、エンハンサー領域から転写されるエンハンサーRNA (eRNA) による炎症応答制御が注目されている。申請者は、CRISPR/Cas9システムを用いたKOスクリーニングで、新規因子ENZ-1がeRNAの制御を介して炎症応答を制御していることを見出した。本研究では、ENZ-1によるeRNAの発現制御機構の解明を目指す。炎症応答に関与するeRNAの発現制御機構は未解明な点が多く、新たな治療領域の確立に貢献できることが期待される。
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研究実績の概要 |
ENZ-1機能欠損マクロファージ細胞株 (ENZ-1 KO細胞) ではエンハンサーRNA (enhancer RNA; eRNA) の発現亢進が観察される。また、ENZ-1 KO細胞では、複数の炎症性サイトカインの発現上昇も観察されている。一方で、ENZ-1によるこれらの遺伝子発現制御機構の全貌は未だ明らかになっていない。今年度は、ENZ-1による遺伝子発現制御機構を明らかにするために、ENZ-1 KO細胞およびマクロファージ特異的ENZ-1欠損マウス (cKOマウス) を用いて、eRNAに焦点を当て解析を行った。解析の結果、IL-6の推定エンハンサーと考えられる領域から転写されるeRNAがcKOマウス由来の腹腔マクロファージ、骨髄由来マクロファージで発現上昇していた。また、LPSの腹腔投与によるマウス敗血症モデルを導入し、肝臓でのeRNAの発現を評価したところ肝臓でのeRNAの発現変動が観察された。さらに、ENZ-1 KO細胞を用いてIL-6推定エンハンサー領域の欠損実験を行ったところ、IL-6発現量の減弱が観察された。一方で、無関係な (エンハンサーとして機能しないと推定される) 近傍領域の欠損はIL-6発現量に影響を及ぼさなかった。これらの結果から、今回同定した領域はIL-6エンハンサーとして機能しうると同時に、ENZ-1機能欠損細胞を用いたエンハンサー領域の推定が有用であることが示唆される結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ENZ-1 KO細胞の解析から、ENZ-1が炎症性サイトカインの推定エンハンサー領域を介して炎症性サイトカインの発現制御に関与していることを見出した。今年度はGRO-seqを用いた網羅的なeRNAの発現制御を解析する予定であったが昨今の物価高騰の影響で解析が困難であったため、代わりに翌年度以降に行う予定のENZ-1欠損マウスを用いて、in vivoでのENZ-1の機能解析を行った。興味深いことに、マクロファージ特異的ENZ-1欠損マウスの骨髄細胞から分化したマクロファージ (ENZ-1 KO BMDMs) では炎症性サイトカインIL-6の推定エンハンサー領域から転写されるeRNAの発現上昇が観察された。また、この結果は、腹腔マクロファージでも同様に観察された。このことからENZ-1はin vivoにおいてもeRNAの発現制御に関与する可能性が示唆された。また、この推定エンハンサー領域を欠損した細胞を作製し、Il6の発現を評価したところ、Il6発現量の減弱が観察され、これらの領域がエンハンサーとして機能しうることも見出した。一方で、エンハンサーとして機能することが低いと推定される領域を欠損させた場合はIl6の発現量に大きな変化は観察されなかった。これらのことから、今回同定した領域はエンハンサーとして機能しうることを裏付ける結果となったと同時に、ENZ-1欠損細胞を用いたエンハンサーの探索の有用性が示唆される結果となった。これらの結果の一部は、Int Immunol誌に投稿済みである。現在、ENZ-1によるeRNAの発現制御機構と炎症応答の包括的理解のため、ゲノムの高次構造を捉えることのできる3C法 (chromosome conformation capture) の準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、疾患とENZ-1、そしてeRNAの関連性を明らかにしていく予定である。具体的には、関節リウマチや乾癬、アレルギーのマウスモデルをENZ-1 KOマウスに導入することで、病態の増悪化やそれにともなって発現上昇する遺伝子群、あるいはそれらの遺伝子のエンハンサー領域の活性やeRNAの転写制御などを解析する予定である。また、ヒトにおけるeRNAの発現変動と疾患の関連性を明らかにするために、ヒト炎症性疾患患者由来のデータセットを下に解析を進めていく。また、ヒト由来細胞株を用いたENZ-1機能欠損細胞の作製も行う予定である。
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