研究課題/領域番号 |
23K14565
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐井 和人 京都大学, 医学研究科, 助教 (30962310)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 上皮組織 / がん / 細胞競合 / メカノトランスダクション / synNotch / PIC / EDAC |
研究開始時の研究の概要 |
上皮細胞層の中にがん原生の変異を持つ細胞が生じた時、周囲の正常細胞との細胞競合によって変異細胞が排除されるという現象が示されている。しかし、この細胞競合制御の分子機序は未だよく分かっていない。そこで本研究では、培養上皮細胞層の特定の領域のみを選択して遺伝子発現解析を行う領域特異的トランスクリプトーム解析により、変異細胞と隣接する正常細胞で特異的に変化の見られる因子を探索する。同定された因子の細胞競合への関与を調べることにより、これまで明らかになっていなかった正常細胞による変異細胞の認識機構、及びその下流で変異細胞の排除を担う細胞内シグナル経路の解明が期待される。
|
研究実績の概要 |
本研究計画は、上皮組織における正常細胞とがん細胞間の細胞競合の分子機序の解明を目的としている。申請者は領域特異的トランスクリプトーム解析を可能にするsynNotchシステム、並びにPICを用いたスクリーニングの結果、Etv4/5, Prkg2, Mmp3を含む多数の新規細胞競合制御因子の同定に成功した。スクリーニングで得られた新規制御因子の機能解析の結果、細胞競合において、正常細胞内で転写因子ETVがエフェクター因子PRKG2などの発現量を上昇させることで細胞競合を促進していることを明らかにした。本研究計画において最も重要な目的は、正常細胞によるがん細胞の認識機構の解明である。RasV12発現細胞を初期がんのモデルとして、正常・がん細胞共培養系において上記シグナル伝達経路がどのように駆動されるか調べたところ、興味深いことに、がん細胞の機械的性質の変化(細 胞の大きさ、および細胞膜張力の変化)が、周りの正常細胞においてETV経路を活性化させることが明らかとなった。このことは、がんの超初期において、がん細胞特有の物理的性質変化がメカノトランスダクションを介して正常細胞に伝達され、細胞競合の引き金となっていることを示している。本研究の結果、これまで不明瞭であった正常細胞とがん細胞間の細胞競合制御機構の一端を明らかにすることができた。今後の方針としては、得られた結果をさらに発展させるべく、 がん細胞ー正常細胞間の機械的性質変化を伝えるセンサーの同定、並びにマウスを用いて得られた知見の生体での検証を行なっていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は当初の計画以上に進展している。令和5年度は予定通り、synNotchおよびPICを利用したスクリーニング系の確立に成功し、がん細胞に隣接する正常細胞内で特異的に発現変動している多数の遺伝子を同定した。さらに、それらの因子が細胞競合においてどのように相互作用しシグナル経路を形成しているか、その大部分を明らかにすることに成功した。また、本研究計画最大の目的である正常細胞によるがん細胞の認識機構の解明においても、メカノトランスダクションの関与が明らになるなど、全容解明に向かっている。今後の方針としては、がん細胞ー正常細胞間の機械的性質変化を伝えるセンサーの同定、並びに計画に則ってマウスを用いて得られた知見の生体での検証を行なっていく。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究計画において、申請者はこれまでに、正常細胞とがん細胞間における細胞競合制御機構を明らかにしてきた。特に、正常細胞がわで駆動される転写因子ETVとその下流因子PRKG2が細胞競合を介したがん細胞の排除に重要であることがわかっている。今後の方針としては、(1)正常細胞ががん細胞を認識する際のメカノセンサーの同定、並びに(2)得られた知見の生体における検証を行なっていく。 (1)正常細胞ががん細胞を認識する際のメカノセンサーの同定に関しては、まずキャンディデートアプローチとして、これまで細胞競合への関与が明らかになっている膜タンパク質や細胞骨格構成因子の関与を調べていく。メカノセンサーは細胞競合においてETV経路の上流に位置するはずであるので、上記キャンディデートアプローチと並行して、siRNAスクリーニングなどを通してETV経路の上流因子を同定することでメカノセンサーを探っていく。 (2)得られた知見の生体における検証に関しては、申請者が所属する研究室で確立されている細胞競合モデルマウスを用いて検討していく。このマウスモデルでは、上皮組織特異的K19-CreERTと低濃度のタモキシフェンを用いることで、上皮組織特異的にHRasV12をモザイク状に発現させることが可能である。この時RasV12を発現した細胞の一部は細胞競合によって排除される。この系を用いて、ETV阻害剤であるYK-4-279やPRKG2阻害剤KT5823 が、生体において細胞競合に影響を与えるか検討していく。
|