研究課題/領域番号 |
23K14593
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
益池 靖典 大阪大学, 大学院医学系研究科, 招へい教員 (20781701)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 食道癌 / 転移 / タイトジャンクション / 細胞間接着 |
研究開始時の研究の概要 |
食道癌は診断例の5年生存率40%程度と他癌腫に比して予後不良な難治性癌である。癌細胞の進展機序としてこれまで様々な細胞構造に着目した研究が行われてきたところではあるが、細胞間接着構造の一つであるタイトジャンクションの役割はいまだ十分に検討されていない。本研究では「食道癌がタイトジャンクション機構を維持しながら、partial EMTを起こすことにより高い浸潤・転移能を有しているのではないか」という仮説を立てて、臨床検体、食道癌細胞株、動物モデルを用いた実験を行い、食道癌の浸潤・転移におけるタイトジャンクションの役割を解明し、新規治療標的となり得るか検証する。
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研究実績の概要 |
Claudin (CLDN)は細胞間接着のタイトジャンクションを構成する代表的なタンパク質であり、ヒトでは27種類のサブタイプがこれまで同定されているが、臓器ごとに発現の違いがある。食道におけるclaudinファミリーの発現状況について、GTExデータベースに登録されている555例の正常食道のRNA発現を解析したところ、正常食道ではCLDN1,4,5,7を発現していた。続いてこれら4種類のclaudinサブタイプについて、TCGAデータベースで正常部18例と癌部185例の発現を比較したところ、癌部でCLDN1とCLDN4の発現が有意に上昇しており、生存期間解析ではCLDN1高発現群が有意に予後不良であった。上記の結果から食道癌においてはCLDN1発現が進展に寄与していると考え、CLDN1に着目して研究を行っていくこととした。食道癌細胞株TEシリーズについて、qRT-PCRおよびWBを行ってCLDN1の発現を評価し、TE5/TE10をCLDN1高発現株、TE6/TE11をCLDN1低発現株として以後の研究に用いることとした。他癌種ではCLDNの細胞内局在変化を示唆する報告があることから、CLDN1高発現株のTE5/T10について細胞膜と細胞質、核内のタンパクをそれぞれ抽出してWBでCLDN1発現を評価したところ上記全ての分画でCLDN1の発現が見られた。また、蛍光免疫染色でも細胞質内でのCLDN1の発現を確認し、食道癌においても細胞膜および細胞質でのCLDN1発現があり、細胞内シグナル伝達を変化させている可能性が示唆された。切除標本のホルマリン固定検体についてCLDN1の免疫染色をすすめているところであり、臨床検体においてもin vitro同様に正常部では細胞膜のみが染色されていたが、癌部では細胞膜のみならず細胞質での染色が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度においては、細胞株と臨床検体を用いた実験および解析を行い、おおむね順調に進捗している。標的とするタイトジャンクション構成タンパクについて、public databaseを利用して効率的に絞り込みを行うことにより、CLDN1高発現が食道癌における予後不良因子であることを発見した。CLDNはタイトジャンクション構成タンパクであるため、通常は細胞膜に発現しているものであるが、悪性黒色腫や甲状腺癌といった他の悪性腫瘍ではCLDNがプロテインキナーゼC(PKC)を介したリン酸化を受けることで細胞内に取り込まれ、PKCの賦活剤や阻害剤によってCLDNの局在や遊走・浸潤能が変化することが報告されている。これらの報告を参考に、食道癌においてもCLDNの細胞内局在が変化することにより遊走・浸潤能が亢進するのではないかという仮説の下、食道癌細胞株と臨床検体を用いた実験を行い、食道癌においてもCLDN1の細胞内局在変化が生じていることを発見した。遊走・浸潤能の評価については、E-cadherinやN-cadherinなどのEMTマーカーに加えて、Epcam/CD106/CD51/CD61といったpartial EMTとの関連が報告されているマーカーの解析を行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度はCLDN1高発現株であるTE5/TE10についてsiRNAによるCLDN1 knockdownを行うとともに、低発現株のTE6/TE11に対してはCLDN1 overexpressionを行ってCLDN1の発現を変化させることによる遊走・浸潤能の変化を検証する。一方で、CLDN1の細胞内局在が遊走・浸潤能に与える影響を評価するため、PKC賦活剤・阻害剤を添加することによって細胞内局在を変化させて遊走能や浸潤能が変化するか検証する。これらの遊走・浸潤能の評価においては、E-cadherinやN-cadherinなどの従来のEMTマーカーに加えて、partial EMTとの関連が報告されているEpcam/CD106/CD51/CD61についてもqRT-PCRおよびWBによる測定解析を行う。また、TGF-βによりEMTを誘導した食道癌細胞株でCLDN1の発現および細胞内局在がどのように変化しているか検証する。これらの細胞株については動物実験でも使用することとし、免疫不全マウスの尾静脈から細胞株を注入して肺転移モデルを作成して転移形成能や転移巣でのCLDN1の発現・細胞内局在を検証する。臨床検体を用いた研究では免疫染色によってCLDN1の発現および細胞内局在を評価して、予後を含めた臨床病理学的特徴との関連を検討する。
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