研究課題/領域番号 |
23K14611
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分50020:腫瘍診断および治療学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片野 厚人 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (80822410)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 定位放射線治療 / 肝臓がん / 息止め / 画像照合 / 照射中画像 / 放射線治療 |
研究開始時の研究の概要 |
肝臓がんの体幹部定位放射線治療における最大の問題は呼吸性移動である。最も直接的な呼吸位相の監視法は金属マーカーの留置であるが、肝臓がんという疾患の特性上、肝機能障害に由来する止血系異常を認めることも多くマーカー留置自体がリスクとなる。マーカー非留置の方式で代表的なものに息止め方式があり、当院でも照射開始時の投影画像による呼吸位相確認を用いた息止め方式にて肝臓への定位放射線治療を実施してきた。本研究では、実際の照射中の横隔膜面の投影画像をモニタリングすることにより肝腫瘍に対する新たな定位放射線治療を提案する。
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研究実績の概要 |
肝臓がんは、日本における臓器別がん死亡数の第5位であり、未だ予後が良くない疾患である。近年の放射線治療技術の進展に伴い、限局性肝腫瘍の治療においては従来の局所治療に加えて体幹部定位放射線治療が新たなエビデンスを築きつつある。一方で、肝臓は呼吸性移動がある臓器であり、かつ放射線に対して脆弱である。そのため、呼吸性移動対策は肝臓への放射線治療の最大の課題の一つであり、本研究はその問題を解決するために開始された。 研究初年度では、肝腫瘍マーカーレス定位放射線治療プロトコルの検討を行った。具体的には、回転照射中に取得される横隔膜面のプロジェクションストリーム画像と治療計画CTから再構成したDRR(Digitally Reconstructed Radiograph)をリアルタイムに比較する手法の検証を行い、ファントム実験により解析時間による線量誤差の解析を実施した。さらに、患者固定法、計画CT撮像タイミング、標的照射体積、線量計算アルゴリズム、横隔膜位置ずれ量の閾値、治療効果判定法などについても検討し、安定した実施が可能な体制整備に努めた。また、後方視による検証前向き試験との比較データとして、当院で従来行われていた肝腫瘍に対する体幹部定位放射線治療の後方視研究も実施しました。電子カルテや放射線治療計画データから年齢、性別、Karnofskyパフォーマンスステータス、原発巣・転移の有無、組織診断、放射線治療の線量・スケジュールなどを抽出し、局所応答率、局所再発率、全生存率、有害事象、治療完遂割合などを網羅的に評価するデータベースを作成した。 今後の対応策としては、呼吸状態の被治療者へのフィードバックやVMATにおける線量投与アルゴリズムの変更などが必要性が抽出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の成果として、金属マーカー留置を行わずに肝臓の定位放射線治療を実施する手法の実現可能性を再検証し、新しいマーカーレス技術の基盤を構築することができた。特に医学物理的な検証においては、有意な進展が見られた。治療中における180ミリ秒ごとのDRR(Digitally Reconstructed Radiograph)とフルオロスコピックX線投影画像との横隔膜の照合手法を検証し、今回開発した横隔膜追跡システムの初期検証を行い、その特性を査読付き英語論文として報告した。同報告においては、胸部ファントムを用いて、リニアックシステムからのストリーミングデータ(プロジェクション画像とビーム角度)を外部のPCに転送し、DRRとプロジェクション画像との画像相互相関に基づいて、横隔膜の登録精度とビームオフの遅延時間を180ミリ秒ごとに測定した。この計測により、ビームオフの平均遅延時間は249.5ミリ秒であり、横隔膜の登録誤差の平均は0.84ミリメートルであることが示された。結論として、胸部ファントムを用いた腹部腫瘍の息止め照射における本システムの初期検証では、得られたビームオフの遅延時間と横隔膜の位置誤差が臨床的に許容範囲内であることが示された。また、前向き検証との比較に用いる後方視研究に関しては、統合的なデータベースの作成が計画通りに進捗している。 一方で、一部の患者では定位放射線治療中の息止め画像取得が安定しないことが、一定の割合で存在することが明らかとなり、今後の研究課題である。前向き臨床試験に関しては当初予定していた方式を当院の倫理委員会と調整中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在の研究では、肝臓腫瘍に対する反復止め法による定位放射線治療が安定して実現できることが基盤となる。治療の精度と正確性を向上させるために、リアルタイムでの治療中の横隔膜照合を活用しているが、ファントム実験では精度高く検証可能なものの、実患者においては安定した画像取得が困難なことが明らかとなった。また、息止めの位相に関しても再現性不良のケースが存在した。治療計画CTと参照画像の照合アルゴリズムを見直し、安定した位置照合の実現することを志向する。また、呼吸状態の被治療者へのフィードバックやVMATにおける線量投与アルゴリズムの変更なども導入する必要があると考えられた。 その他の今後の方策として、研究で開発されたマーカーレス定位照射システムのさらなる改良と実用化を目指し、治療中のリアルタイムXVI画像とDRRの比較に基づく横隔膜変位検出の精度向上に取り組む。照射中の精確な横隔膜位置の追跡および照射量の算出を高度・安定化する。また、マーカーレス定位照射システムの臨床応用に向けた臨床試験を実現し、実際の肝臓への照射精度と被ばく量の評価を行う。この新しい照射方式が治療成績や安全性に与える影響を包括的に評価し、従来の治療法との比較を行う。 アウトプットとしては、研究成果を国内外の学術誌で継続的に発表し、マーカーレス定位照射の新しい手法がもたらす治療効果や安全性に関する情報を広く共有する。治療中のXVI画像を再構成して照射量を算出する手法の新規性を強調し、同様のアプローチが他の臓器や疾患にも応用可能か検討する。更には治療の安全性や効果に関するデータを積極的に患者や医療関係者に提供し、治療選択や計画に役立てる。 これらの方策を通じて、マーカーレス定位照射の臨床応用と技術革新に貢献し、治療の効率性と安全性の向上を実現する。
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