研究課題/領域番号 |
23K14676
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分51010:基盤脳科学関連
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構直轄研究施設) |
研究代表者 |
大橋 りえ 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構直轄研究施設), 生命創成探究センター, 助教 (40867529)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
中途終了 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 局所翻訳 / mRNA輸送 / 樹状突起 / Arf GEF, GAPファミリー / 3’UTR / スパイン / 長期記憶 |
研究開始時の研究の概要 |
神経樹状突起へのmRNA輸送及び神経活動依存的な局所翻訳は、長期記憶に必須のシナプス長期増強をもたらす。しかし、輸送されるmRNAの知見は限定的であり、また、神経活動に応答した局所翻訳制御は神経培養細胞での報告に留まっている。そこで、独自の方法で同定した局所翻訳新規候補遺伝子群に着目し、これらmRNAの樹状突起輸送をマウスで低下させ、シナプス強化や長期記憶に与える影響を解析する。更に、mRNA輸送低下マウスにおいて神経活動依存的にmRNA輸送を回復させる実験系を確立し、表現型を解析する。以上により、神経発火と局所翻訳との関連という新たな視点から長期記憶形成機構の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
神経樹状突起内のmRNA輸送とそれに伴う局所翻訳は、長期記憶形成の基盤となるシナプス長期増強に不可欠である。しかし、どのmRNAがこのプロセスに関与するかは未解明の点が多い。本研究では、独自の方法で同定した局所翻訳新規候補mRNA群(Arf GEF, GAPファミリーのmRNA)に着目し、局所翻訳と長期記憶をつなぐ新たな分子メカニズム解明を目指している。 今年度は、Psd (Arf GEF) mRNAの樹状突起への輸送責任領域 (DTRS) を欠損させたマウスを用い、Psd mRNAの樹状突起輸送とそれに伴う局所翻訳がシナプス強化と長期記憶に与える影響を解析した。その結果、PsdΔDTRSマウス由来の神経初代培養細胞では野生型マウスと比較して、AMPA受容体の細胞表面発現は同程度であった一方、スパイン形成が顕著に低下した。さらにPsdタンパク質はスパイン内でF-アクチン束形成因子と共局在し、DTRS欠損によりその共局在が低下することを明らかにした。以上から、Psdの局所翻訳がF-アクチン束の形成・安定化を制御し、スパイン形成・成熟化に関与する可能性が示唆された。次に、Psd mRNAの樹状突起輸送の低下が空間記憶と恐怖記憶に与える影響を解析した。その結果、PsdΔDTRSマウスでも学習・記憶形成は正常であった。よって、Psdの局所翻訳はスパイン形成に関与するものの、今回解析した種類の学習・記憶には大きな影響を与えないことが分かった。そこで他の学習課題や行動様式に対する影響についての解析を検討している。また、現在はGit1 (Arf GAP) mRNAについてもGit1ΔDTRSマウスを作出して解析を進めている。これらの解析を進めることで、神経樹状突起におけるArf活性化/不活性化因子の働きとその関連を明らかにし、局所翻訳がもたらす新たな制御機構の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Arf GEF, GAPファミリーのうち、Psd (Arf GEF) ついてmRNAの樹状突起への輸送責任領域 (DTRS) を欠損させたマウスを作出し、Psd mRNAの樹状突起輸送がもたらす影響を解析した。このマウスでは、Psdタンパク質の細胞体での発現は維持されるが、Psd mRNAおよびPsdタンパク質の樹状突起局在は顕著に低下することを確認済みである。 Psd mRNA輸送責任領域欠損マウス(PsdΔDTRSマウス)を用い、シナプス強化と長期記憶への影響を解析した。具体的には、スパイン形成およびAMPA受容体細胞表面発現について、神経初代培養細胞を用いて解析を行った。その結果、PsdΔDTRSマウスでは野生型マウスと比較してAMPA受容体細胞表面発現は同程度であったが、スパイン形成は顕著に低下した。このことから、Psd mRNAの樹状突起局在とそれに伴う局所翻訳がスパイン形成に関与することが示唆された。そこで次に、スパイン形成・成熟化に関与する複数の因子とPsdとの関連を解析した。その結果、Psdはスパイン内でF-アクチン束形成因子(アクチニン)と共局在し、PsdΔDTRSマウスではその共局在化が低下することを明らかにした。これらの結果から、Psdの局所翻訳が、F-アクチン束の形成・安定化を制御し、スパイン形成・成熟化に関与する可能性が示唆された。 次に、Psd mRNAの樹状突起輸送の低下が学習・記憶に与える影響を解析した。バーンズ迷路および恐怖条件付け学習課題を行った結果、PsdΔDTRSマウスでも学習および記憶形成は正常であることが分かった。以上から、Psdの局所翻訳はスパイン形成に関与するが、今回解析した種類の学習・記憶には大きな影響を及ぼさないことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
PsdΔDTRSマウスにおいて学習および記憶形成に影響が出た場合、神経活動依存的にmRNA輸送低下をレスキュー可能なマウスを作出し、神経活動とmRNA輸送の関連を解析することを計画していた。しかし、PsdΔDTRSマウスにおいて学習・記憶が正常であったことから、別の学習課題や行動解析を実施する。 また、他のArf GEF, GAPにも着目する。Arf GAPのひとつであるGit1について、そのmRNAの輸送責任領域を同定し、その領域を欠損させたGit1ΔDTRSマウスを既に作出済みである。PsdとGit1は同じArf6の制御因子であるが、前者は活性化、後者は不活性化に働く。両者ともにmRNAは樹状突起へ輸送されるが局所翻訳産物の機能は分かっていない。そこでGit1ΔDTRSマウスを用いてシナプス強化と長期記憶への影響を解析し、神経樹状突起におけるArf活性化/不活性化因子の働きとその関連を明らかにする。その後、当初の予定である神経活動との関連の解析に着手する。
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