研究課題/領域番号 |
23K14751
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分52020:神経内科学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
深見 祐樹 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (10929227)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 慢性炎症性脱髄性多発神経炎 / 免疫介在性ニューロパチー / 糖鎖 / 網羅的糖鎖解析 |
研究開始時の研究の概要 |
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の病態は未だ不明であり、病態を反映したバイオマーカーを探索することが喫緊の課題である。これまでにCIDP患者血清の糖鎖解析によりシアル化IgGの低下を認めることを明らかにした。しかし、血液中に微量に存在する糖鎖の変化が病態においてどのように影響しているかは解明されていない。そこで免疫介在性ニューロパチー患者血清中に存在する糖鎖構造を網羅的に解析し、臨床パラメータと関連する糖鎖構造を同定することで病態関与へのメカニズムを解明する。糖鎖の変化を同定することで疾患形成における髄鞘再生や神経炎症の病態解明につながり、糖鎖による新たな疾患修飾薬の開発が期待される。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、免疫介在性ニューロパチーである慢性炎症性脱髄性多発神経炎(以下、CIDP)の病態解明と病態を反映したバイオマーカーを探索することである。背景としてCIDPは再発性もしくは進行性経過を示す慢性疾患であり、病態多様性が指摘される上に病勢を反映するバイオマーカーはこれまで未開発にある。 我々はこれまで血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)がCIDPの軸索障害を反映する新規マーカーとして有用であることを報告してきた。 また、我々はCIDP患者血清とマウスの神経組織を反応させ、免疫沈降法と質量分析をくみ合わせた手法により、ジヒドロリポアミドS-アセチルトランスフェラーゼ(DLAT)に対する自己抗体を同定した。CIDP患者血清の18%にDLATに対する反応性を認め、その多くが感覚性運動失調を有していた。抗DLAT抗体は感覚優位の免疫介在性末梢神経障害のバイオマーカーとして有用な可能性が示唆された。 さらに我々は髄鞘形成や神経炎症に関わる糖鎖に注目し、CIDP患者血清の網羅的糖鎖解析を行い、病態や治療反応性を規定する新規糖鎖バイオマーカーを探索した。グライコブロッティング法およびピラゾロン共存下β脱離反応により、治療前血清のN結合型およびO結合型糖鎖について網羅的に解析した。その結果、対照群と比較しCIDP群で、N結合型糖鎖およびシアル酸含有酸性複合型糖鎖の総量が低値であった。治療反応性に関して、N結合型、酸性複合型およびα2,6結合型シアル酸含有糖鎖の低値が初回免疫グロブリン治療への抵抗性と関連していた。典型的CIDPにおいてN結合型総量およびα2,6結合型シアル酸を含む酸性複合型糖鎖量の低値は、治療反応性を予測する新規バイオマーカーとなる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は2つのアプローチにより、CIDPをはじめとする免疫介在性ニューロパチーの病態解明と新規バイオマーカー候補を探索する。1つはCIDP患者血清における未知の自己抗体の可能性を検証するため、マウス神経組織の抗原に対し、CIDP患者からの血清を免疫沈降法で反応させ、検出された陽性バンドを切り出し、質量解析により候補標的分子を特定した。複数の候補からミトコンドリアの構成成分を標的とするジヒドロリポアミドS-アセチルトランスフェラーゼ(DLAT)に対する自己抗体が示された。これはcell-based assayによる反応性、ならびにマウス後根神経節を用いた検証からも反応性が確認された。本自己抗体を有する患者の共通点として、感覚優位の神経障害ならびに感覚性運動失調を伴うことが明らかとなった。IVIgへの治療反応性は比較的良好であることから、本抗体はIgG4サブクラス抗体のように補体やFcを介したエフェクター惹起ではなく、細胞性免疫の介在が示唆されている。以上を検証し論文化した。 さらに、糖鎖バイオマーカーにおいては、これまでにCIDP患者血清の糖鎖解析によりシアル化IgGの低下を認めることを明らかにしてきた。しかし、血液中に微量に存在する糖鎖の変化が病態においてどのように影響しているかは解明されていない。そこで免疫介在性ニューロパチー患者血清中に存在する糖鎖構造を網羅的に解析し、臨床パラメータと関連する糖鎖構造を同定した。正常対照と比較しCIDP患者血清において、N結合型糖鎖およびシアル酸含有酸性複合型糖鎖の総量が低値であった。治療反応性に関して、N結合型、酸性複合型およびα2,6結合型シアル酸含有糖鎖の低値が初回免疫グロブリン治療への抵抗性と関連していた。これらの結果について現在論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
抗DLAT抗体が感覚優位の免疫介在性末梢神経障害の診断バイオマーカーとして有用である可能性が示された。抗DLAT抗体を有する患者の臨床的特徴に焦点を当てたさらなる研究が、この疾患の定義をより明確にするのに役立つと考えられる。また、自己抗体の細胞毒性が示されなかったことから、病態への直接的関与はT細胞介在性など他の要因が背景にある可能性が考えられ、さらなる検証が必要であると考えらる。今後、さらなる病態解明に向け、多検体で検証し、エピトープの解析およびバイオマーカーの意義を検証する予定である。 また、典型的CIDPにおいてN結合型糖鎖および酸性複合型糖鎖量は健常者と比較し、有意に低下しており、初回治療への反応性を予測する新規バイオマーカーとなる可能性が示された。糖鎖バイオマーカーに関しても、多検体においてさらなる検証を行い、病態関与へのメカニズムを解明していく予定である。糖鎖の変化を同定することで疾患形成における髄鞘再生や神経炎症の病態解明につながり、糖鎖による新たな疾患修飾薬の開発が期待される。 これらの研究から得られた知見をもとに、CIDPの新たな個別化医療に向けた治療開発を目指す。また、研究成果は国内および海外での学会で積極的に発表するとともに、名古屋大学神経内科ホームページ、機会があれば報道機関などを通して研究成果を社会・国民に発信していく。 以上のような計画遂行で、CIDPの病態を究明し新規治療法の開発へつなげることができると考える。
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