研究課題/領域番号 |
23K14778
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分52020:神経内科学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
赤谷 律 神戸大学, 医学研究科, 学術研究員 (30910004)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 制御性B細胞 / 形質芽細胞 / プラズマブラスト / 視神経脊髄炎スペクトラム障害 / インターロイキン-6 / インターロイキン-10 / CD200 / B細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、自己抗体による免疫性神経疾患の病態解明が進み、多発性硬化症や視神経脊髄炎スペクトラム障害に対する生物学的製剤が相次いで承認されている。しかし、B細胞枯渇療法の問題点も指摘され、感染症やワクチン効果の減弱等が懸念される。研究代表者は、B細胞の病原性と制御機能の両面に注目し、フローサイトメトリーや遺伝子発現解析、in vitro細胞培養を用いて患者のB細胞の特徴を解析し、インターロイキン6(IL-6)シグナル阻害により抑制的なプロファイルを持つB細胞を誘導する手法を開発した。本研究では、これらの知見を基に、病態保護的なB細胞を誘導する治療の開発を目的としている。
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研究実績の概要 |
まず、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)患者の末梢血におけるB細胞の亜分画について縦断的に解析を行った。急性期においてはB細胞中のダブルネガティブB細胞(DN)およびプラズマブラスト(PB)の割合が健常者と比較して有意に拡大していた。これらの亜分画は臨床的に寛解期に至るにつれて減少し、健常者のレベルに近くなっていたが、臨床的には寛解期と考えられても発作から半年程度と間もない患者では減少しきっていない症例もみられた。このことは患者の病期とその免疫学的背景を認識することの重要性を示している。 次に、疾患活動期のNMOSD病態を模したin vitroのモデルを用いて、IL-6阻害群でB細胞におけるIL10発現の上昇がみられた。またこのモデルで誘導されたPBを分取し、RNAシークエンスを行い、IL-10と同様に治療群で上昇した発現変動遺伝子の中から病態保護的PBのマーカーとしてCD200を同定した。 細胞表面のCD200タンパクは、B細胞亜分画の中ではナイーブB細胞優位に発現がみられることが明らかとなった。in vitroモデルにおいては、ナイーブB細胞よりもメモリーB細胞の方がよりIL-10産生性PBに分化することも判明した。 最後に、NMOSD患者の末梢血で、CD200陽性PBの割合を検討した。急性期NMOSD患者と比較して抗IL-6受容体抗体薬であるサトラリズマブ治療中で寛解期の患者では、PB中のCD200陽性細胞の割合が高いことが明らかとなった。また、これらの患者でCD200陽性PBの割合と臨床パラメータとの相関をみたところ、CD200陽性PBは年齢と負の相関を、年間再発率と正の相関を示した。すなわち、CD200陽性PBがこうした臨床的背景(若年で再発頻度が高いなど)をもつ患者において、例えば抗IL-6受容体抗体薬の治療反応性の指標として使用できる可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に関連して、病態保護的B細胞の候補として具体的にCD200陽性プラズマブラスト(PB)に焦点をあてこの細胞群の特徴を明らかにした。また病期の異なる視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の患者およびその他の神経疾患の患者、健常者においても累計80例以上で循環B細胞中のCD200陽性PBの割合を検討することができた。NMOSDの患者内で病期あるいは治療薬による差がみられたことから進展があったものと考えている。 ただ、計画では脳脊髄液検体での評価や病態保護の機序にせまる実験の実施を予定していたが、昨今の治療法の進歩などにより再発検体の数が減少し、また焦点を絞っている細胞群が少なすぎることから脳脊髄液検体での評価が十分に行えていない。加えて、short hairpin RNAによるRNA干渉の技術を用いてCD200ノックダウンを試みたものの、ヒト一次B細胞へのレンチウイルス感染によりCD200発現が低下してしまいこの点も計画通りには進まなかった。
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今後の研究の推進方策 |
B細胞が免疫性神経疾患の病態を保護する機序としては、現時点でも二次リンパ組織におけるT細胞や樹状細胞、または炎症組織(中枢神経)におけるミクログリア、アストロサイトを細胞間接触により直接抑制する仮説を想定している。分取したB細胞と同個体の各細胞との共培養を行う予定である。具体的には、Carboxyfluorescein diacetate Succinimidyl Ester(CFSE)を用いた標的細胞の細胞分裂、viability dyeおよびAnnexin Ⅴを用いた細胞死の評価、Cytometric Beads Array法による培養上清の炎症性サイトカイン(インターフェロンγ, Tumor Necrosis Factor α, IL-1β, IL-6, IL-12, IL-17A, IL-23, IL-33)定量などを行う予定である。 また、NMOSDに限らず広く神経疾患における免疫細胞の役割を想定して、マウスの一次神経細胞培養を用いて、B細胞と神経細胞との相互作用を解明する方針である。
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