研究課題/領域番号 |
23K15066
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
金子 俊 東京医科歯科大学, 東京医科歯科大学病院, 助教 (60801959)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
|
キーワード | 慢性肝疾患 / 長期予後 / 肝細胞癌 / 肝発癌 / iPS細胞 / B型肝炎ウイルス |
研究開始時の研究の概要 |
肝細胞癌の薬物療法は飛躍的に進歩し肝疾患診療は大きく変化しているが、予後不良例も依然多く存在しており、改めて背景肝疾患、肝発癌機構が注目されている。現状のバイオマーカーだけでは十分解明できない肝発癌機構の存在が示唆されており、独自に構築した2000例以上からなる慢性肝疾患患者のコホートデータベース、およびこれまでに確立してきたヒトiPS細胞の肝前駆細胞誘導、肝細胞成熟化誘導、および肝炎ウイルス感染機構研究の学術・技術基盤に基づいて、基礎科学と臨床医学との融合研究を企図し、慢性肝疾患の進展を阻止しうる精緻肝発癌サーベイランスシステムの開発を行う。
|
研究実績の概要 |
臨床情報データベースを用いた探索解析として、2023年度では約20年間の間に当院にて非進行肝細胞癌(BCLC 0/A/B stage)に対して診断・治療を行った566例を対象に背景肝疾患の推移とその予後に関する検討を行った。肝癌薬物療法療法の進歩に基づいた分類[2002年2月~2009年4月を期間I(肝癌薬物療法がない時代), 2009年5月以降を期間II (肝癌薬物療法使用可能な時代)にわけて解析を行ったところ、期間Ⅱの症例は期間Ⅰに比べ高齢、低ALBI score、低AFP、抗ウイルス薬導入率が高い集団であった。予後についてはAFP,ALBI scoreを予後因子としてもつBCLC B stageでは予後改善はみられなかったものの、年齢、ALBI scoreを予後因子としてもつBCLC stage 0/A stageではFine-Gray競合リスクモデルによる解析にて期間Ⅱにおける肝関連死の有意な減少(HR: 0.656; 95%CI: 0.442-0.972, P = 0.036)が認められた(Kaneko et al. PLOS ONE. 2024)。一方で、進行肝細胞癌についても切除不能肝細胞癌に対してアテゾリズマブ+ベバシズマブを導入したコホート213例では多変量解析による予後因子解析ではCRP1mg/dL以上, AFP100ng/ml以上, mALBI gradeが有意な独立した因子であり(Kaneko et al. Hep Res. 2024)、腫瘍の悪性度のみならず背景肝、基礎炎症所見が重要であることが分かった。そのため予後改善のためには肝癌薬物療法のみならず、その背景肝疾患の病態理解をした上で、患者個人のリスクを評価した精緻な肝癌サーベイランスによる早期発見早期治療、肝予備能を改善または維持する診療戦略が必要である事が確認された。基礎的検討においても、肝癌ゲノム情報に基づき、KMT2Bの特定exon領域のHBV integrationに注目した。ゲノム編集によって再現したiPS細胞を樹立することに成功し、肝細胞系譜へ誘導し、形質を比較検討することで、癌発生プロセスの一部を再現できるかについて、検証・解析している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績概容にも示すように早期stageで治療をうけている症例では肝関連死の減少が、進行肝細胞癌についても背景肝病態、基礎炎症マーカーが予後に関連しており、慢性肝疾患に対していかに精緻なサーベイランスを行うかという事が重要である。背景肝疾患は変遷しており、非ウイルス性肝疾患、抗ウイルス薬使用中のB型慢性肝疾患、SVR後のC型慢性肝疾患などが主体になっている。平行して進めている基礎的検討においても、肝癌ゲノム情報databaseに基づき、KMT2Bの特定exon領域にHBV integrationがあると相互排他的にこれらの変異はないこと、HBV integrationはKMT2B領域などに集積して多いことが示されている。KMT2B領域への組込みをゲノム編集によって再現したiPS細胞系での解析では、Integrationそのものは、iPS細胞からの肝分化に影響は与えなかったが、樹立した肝前駆細胞レベルであるiPS-HPCを用いた解析により、増殖性が亢進していることがわかった。更にマイクロアレイによる網羅的解析も増殖性亢進を示す結果が得られた(in submission)。
|
今後の研究の推進方策 |
臨床データについては各種背景肝疾患毎の症例、早期および進行肝細胞癌症例をさらに集積し、より精緻な解析を行う。さらに現在もフォローが継続している症例が主であり、予後に関する追加調査も可能な上、基礎的研究で抽出された標的分子に関しても臨床検体を用いた検証を予定している。
|