研究課題/領域番号 |
23K15142
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分53020:循環器内科学関連
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
高田 卓磨 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (10836670)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 同期性 / コネキシン43 / 心筋細胞 / 配向性 / iPS細胞由来心筋組織 / 同期的収縮 / 収縮能 |
研究開始時の研究の概要 |
生体心筋組織の心筋細胞の配向は効果的な拍出に重要であるが、その制御機構は不明である。本研究では、配向制御したヒトiPS細胞由来心筋組織の張力が、心筋細胞の同期的収縮によって向上する知見を踏まえ、配向制御を介した心筋細胞の同期的収縮促進因子の同定を行う。さらに非配向心筋組織や心疾患モデル動物における候補因子の制御による同期的収縮の影響を評価し、障害心筋組織における配向の乱れと心筋細胞間の収縮同期性の不一致および非効率的な収縮、弛緩の関与を検証し配向の乱れを介した心疾患の病態解明を目的とする。
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研究実績の概要 |
健常生体心臓は配向性のある多層の心筋組織から構成されるが、不全心では、配向性の乱れが認められる。我々はiPS細胞由来心筋組織の配向制御により局所の心筋組織内の個々の細胞が一方向性に収縮するだけでなく、同期的収縮を介し、組織全体としての収縮力の向上に寄与することを報告した。2023度は、配向制御による組織内同期的収縮促進因子の同定を行うべく、iPS細胞由来配向心筋組織と非配向心筋組織のRNA sequenceを行い、いくつかの候補因子を同定した。また心筋組織の同期的収縮に関与し、心疾患患者で低下すると報告されているコネキシン43 (Cx43)に着目した。Cx43は、Gap結合を構成し、心臓電気抵抗を下げ、効率的な伝播を可能にする。一方で、Cx43の発現程度とヒト心筋組織全体の収縮力ならびに同期性に与える影響は明らかではない。そこでアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて、配向性が乱れた非配向心筋組織のGJA1遺伝子の過剰発現または機能抑制(shGJA1)を行なった。GJA1過剰発現組織ではCx43の発現量が対照群の約1.9倍に上昇したが、収縮同期性に有意差を認めず、収縮力は対照群と同等であった。一方で、shGJA1処理組織は、対照処理群よりCx43の発現量が約0.18 倍に低下したが、収縮同期性に有意差を認めず、収縮力は有意に向上した。配向心筋組織においてもshGJA1処理にて、収縮力の向上が認められた。RNA sequenceにて細胞増殖に関わる遺伝子が検出され、DAPI陽性細胞数に対するNkx2.5陽性細胞率は、shGJA1処理群にて対照群よりも増加傾向であった。これらの結果から、Cx43の発現が一定以上存在する場合、発現量と収縮同期性は相関せず、Cx43の抑制が心筋細胞増殖を介して収縮力向上に寄与した可能性が示され学会発表を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は当初、ヒトiPS細胞由来配向心筋組織ならびに非配向心筋組織からRNA sequencingを行うことで配向制御による組織内同期的収縮促の同定を目指していた。サンプル数を確保した上でRT-PCRを行うことに時間を要し、一部の候補因子の同定をしたが、その確立にまでは至っていない。しかし、心疾患患者でCx43の低下が報告されていること、心疾患患者では、病初期より心筋組織の配向性の乱れが認められ、疾患が重症化し症候性の心不全(Stage C)に至ると配向の乱れだけでなく非同期的収縮が起こり両心室ペーシングによる心臓同期療法が必要となる患者が存在することからCx43に着目した。Cx43の制御に関して、AAVのMultiplicity of Infectionの設定、Cx43の制御状態を把握するためのRT-PCRやWestern blottingに時間を費やした。2023年度の成果として、ヒトiPS細胞由来心筋組織のGJA1遺伝子の一定範囲内の制御は、組織全体の収縮同期性には大きな影響を与えないことが判明した。さらにGJA1遺伝子の機能抑制を行うことで細胞増殖を部分的に介した収縮力の向上の可能性が示唆された。すなわち、配向の乱れが想定される心疾患患者でのCx43の低下は生体の代償機構なのかもしれない。組織内同期的収縮促進因子の確立には、iPS細胞由来心筋組織だけでなく、配向の乱れが想定される心疾患動物モデルに比し健常心臓で発現が上昇した遺伝子の探索を追加検討している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度にGJA1過剰発現iPS細胞由来心筋組織とshGJA1処理組織心筋組織から共通して変動する遺伝子を検出したため、2024年度は、その遺伝子を制御することによる心筋組織機能への影響を検証する。iPS細胞由来心筋組織では配向、非配向にかかわらずshGJA1処理にて収縮力の向上が認められたが、より成熟した心筋組織であるが細胞増殖能が残存する新生仔動物においても、心肥大や心臓重量の増加など細胞増殖を示唆する所見が認められるのかを検証する。さらに正常または疾患モデル動物でもshGJA1処理により心臓収縮力が向上するのかを検討する。並行して、配向の乱れが想定される心疾患動物モデルに比し健常心臓で発現が上昇した遺伝子の検索を追加し配向制御による組織内同期的収縮促進因子の探索を継続する。
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