研究課題
若手研究
特発性肺線維症(IPF)は慢性進行性に高度の線維化と肺胞構築の改変を呈する致死的な肺疾患である。肺内細菌叢は肺線維症の病態形成に関与していることが複数の研究で示されているが、その機序は不明である。本研究の目的は肺線維症マウスモデルを作製し、in vivo 実験によって、気管支上皮細胞の障害・アポトーシスに重要な役割を果たしている肺内細菌叢由来細胞死誘導因子であるcorisinに対するモノクローナル抗体を作製し、肺線維症モデルにおいて病態抑制効果を検討することにより、新しいIPF治療薬としての可能性を見出し、臨床応用への展開を計る研究基盤を構築する事を目的とする。
我々は以前に細菌が放出するペプチドcorisinが肺胞上皮細胞のアポトーシスを誘導し、肺線維症の病態に関与することを報告した。そこで本研究では、細菌由来ペプチドcorisinの活性を阻害するモノクローナル抗体を作製し、corisinの治療標的としての有用性について検討を行った。C57BL6Jマウスの気道内にLPSを投与し急性肺障害を誘導した後に、抗corisin抗体またはcontorol IgGを投与し効果を検証した。抗corisin抗体投与群ではcontorol IgG投与群と比較し、肺CTスコアの改善を認め、肺組織への炎症性細胞浸潤が抑制され、気管支肺胞洗浄液および肺組織中の炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1β、TNF-α)が有意に低値を示した。また抗corisin抗体投与により、肺胞上皮細胞のアポトーシスが有意に抑制された。本研究では急性肺障害に対し、予防的ではなく病態を誘発後にcorisin抗体を投与し、その治療効果が得られることが明らかとなった。肺線維症急性増悪は急性肺障害と類似の病態であることから、細菌叢由来ペプチドcorisinが肺線維症急性増悪における治療標的として有用である可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
in vivo実験の解析を終え、論文化した。
急性肺障害/肺線維症急性増悪の病態が誘導された後でも、corisinを抑制することにより病態が改善することが明らかとなり、将来的な臨床応用の足がかりとなる知見が得られた。一方で、corisinが病態を促進するアポトーシス誘導以外の機序については未だに不明な点が多い。Corisinが病態を誘導する詳細なメカニズムについてさらに解析を進める。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
J Thromb Haemost.
巻: S1538-7836(24)00118-1. 号: 7 ページ: 1919-1935
10.1016/j.jtha.2024.02.014
Int J Mol Sci.
巻: 24(7) 号: 7 ページ: 6695-6695
10.3390/ijms24076695
American Journal of Pathology
巻: 23 号: 6 ページ: 740-754
10.1016/j.ajpath.2023.03.003