研究課題/領域番号 |
23K15486
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分55020:消化器外科学関連
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
新津 宏明 愛知県がんセンター(研究所), がん標的治療TR分野, 主任研究員 (60964335)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 大腸癌 / KRAS阻害薬 / がん微小環境 / がん関連線維芽細胞 / 大腸がん / 間質細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
ここ数年、KRAS阻害薬やBRAF阻害薬などのMAPKシグナルに対する阻害薬開発が急速に進んでいるが、奏功率向上のためには、有効な併用療法や耐性機序の解明・克服が急務である。本研究では、KRAS阻害薬やBRAF阻害薬などのMAPKシグナルに対する阻害薬について、がん間質細胞を介した薬耐性機序や、がん間質細胞への抗EGFR抗体薬の効果を、共培養系(in vitro)およびマウス大腸癌細胞同系移植モデル(in vivo)を用いて検討し、がん間質細胞のEGFRに着目した新規治療法・バイオマーカー開発を目指す。
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研究実績の概要 |
KRAS遺伝子変異大腸癌に対する新規分子標的治療薬の開発は、KRAS G12C特異的阻害剤であるソトラシブをはじめとして、急速に進んできている。一方で、臨床試験においてKRAS G12C変異大腸癌に対するKRAS G12C阻害薬の奏功率は期待されたほど高くはなく、薬剤耐性・不感受性に対する対応が必要である。本研究では、がん微小環境、とくにがん関連線維芽細胞に着目し、KRAS G12CおよびKRAS G12D遺伝子変異を有する大腸癌細胞株に対する、薬剤感受性への影響について検討を行なった。 まず、がん関連線維芽細胞の有無によるKRAS遺伝子変異大腸癌の増殖能の変化、ならびにKRAS阻害薬の感受性への影響を検証するために、がん関連線維芽細胞とKRAS遺伝子変異大腸癌のin vitroでの共培養系構築に取り組んだ。ヒト大腸癌の新鮮切除標本を、細かく刻んで、細胞培養液に懸濁し、細胞培養ディッシュ上で数日後培養を行うと、腫瘍片の近傍を中心に線維芽細胞が増生している所見を得た。腫瘍片を取り除いた後も、この細胞はディッシュ上に付着し、増殖したため、これをがん関連線維芽細胞の初代培養細胞系と定義し、合計5例について初代培養系を樹立し、それらすべてを凍結保存した。 続いて、共培養ディッシュを用い、上層のカルチャーインサートに初代培養したがん関連線維芽細胞を、下層のプラスティックディッシュにKRAS遺伝子変異大腸癌細胞株を撒くことで、共培養系を確立し、共培養の有無の条件下で、KRAS阻害薬剤感受性について確認を行なった。共培養により全体的な細胞増殖能は亢進したが、共培養条件下では、全体としてKRAS阻害薬投与後の感受性は温存されており、共培養による特異的な耐性化は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本検討では、共培養により全体的な細胞増殖能は亢進したが、それに対するKRAS阻害薬の感受性の変化は認められなかった。これらのことから、がん関連線維芽細胞は、大腸癌細胞株のベースラインとしての増殖能を増加させることがわかったが、私共の共培養系においてKRAS阻害薬に対する耐性を誘導しているような所見は得られなかった。今回、私共が共培養に用いた系は、カルチャーインサートを用いて、液性因子を主に介して細胞増殖に働きかける系であるため、線維芽細胞から増殖因子が分泌され、その影響を受けていることが予想されるが、直接的にはKRAS阻害薬抵抗性には関与していなかったことまでは分かった。 一方、実際に、生態環境下におけるがん微小環境には、本検討で行なった液性因子の影響のほかに、直接的な接触を介する細胞ー細胞間あるいは細胞ー細胞外基質の相互作用が存在する。また、がん微小環境には、がん関連線維芽細胞以外にも、免疫細胞、例えば細胞障害性T細胞やマクロファージなどが存在し、これらの影響がKRAS阻害薬感受性に影響を及ぼしている可能性もある。今回の共培養系は、これらの微小環境を過少に単純化していた可能性があるため、より生態環境に近い、例えば遺伝子改変腸管腫瘍発生マウスモデルを用いた検討も合わせて行い、新規応答分子や応答細胞を同定したのち、今回のような単純な共培養系での再検証を行うことが必要であると考察する。遺伝子改変腸管腫瘍発生マウスモデルについては、既存のモデルを用いるため、新規に確立する必要はないが、コロニーの維持・拡張や、腸管腫瘍発生までに一定の時間を要するため、ここでは進捗状況は遅れていると報告した。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように、本検討では、共培養により全体的な細胞増殖能は亢進したが、それに対するKRAS阻害薬の感受性の変化は認められなかった。これらのことから、がん関連線維芽細胞は、大腸癌細胞株のベースラインとしての増殖能を増加させることがわかったが、私共の共培養系においてKRAS阻害薬に対する耐性を誘導しているような所見は得られなかった。一方で、がん関連線維芽細胞は、ウエスタンブロット法による蛋白質定量で、EGFRを高発現していた。先行している臨床試験において、ソトラシブへのEGFR抗体薬(セツキシマブ)の上乗せ効果も認められているため、このモデルはセツキシマブが、がん関連線維芽細胞に作用して、その上乗せ効果を発揮している可能性も示唆される。確立した共培養系における、KRAS阻害薬+セツキシマブの同時投与により、薬剤感受性が改善するかについても、今後検討していく。 さらに、がん関連線維芽細胞以外の他のがん微小環境構成細胞とKRAS阻害薬耐性の関連について、検討を進めていく。私共の行なっているカルチャーインサートを用い、主に液性因子を介した共培養系での検討以外にも、大腸癌自然発生マウスモデルにおけるがん微小環境と薬剤耐性の関連についての面からも、がん微小環境と薬剤感受性についての解析を、網羅的転写産物プロファイリングや蛋白質発現プロファイリングにより、進めていき、新規応答分子や応答細胞種を同定して、それらを阻害・増殖抑制することによりKRAS阻害薬をはじめとした大腸癌治療薬の耐性が解除されるかについて、検討を進めていく。
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