研究課題/領域番号 |
23K15495
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分55020:消化器外科学関連
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
前平 博充 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (30564918)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 癌関連線維芽細胞 / heterogeneity / 膵癌 / 低酸素環境 |
研究開始時の研究の概要 |
癌は病巣で癌微小環境を形成し、そこでは様々な細胞に低酸素環境を反映した代謝変化が見られる。癌微小環境に存在する癌関連線維芽細胞(Cancer-associated fibroblast: CAF)は、癌促進的および癌抑制的な効果を示すものが多様性に存在している可能性があり、癌治療における問題点となっている。。 我々は、これまでに膵癌CAFの多様性を示した。本研究では、膵癌細胞と線維芽細胞の低酸素環境における相互作用と代謝変化を3次元培養や低酸素チャンバーを用いた共培養を駆使して解析し、CAFの誘導因子と代謝変化による癌への影響を解明することで、癌微小環境を標的とした新規治療法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
これまでに3例の患者の膵癌組織から、安定して増殖して実験に使用可能な癌関連線維芽細胞(CAF)株の樹立に成功し、PDGFRαやDesminmなどの線維芽細胞で特異的に高い遺伝子が実際に高いことをqPCRを用いて確認した。それらのCAFに対し、低酸素・低pH・低栄養条件で刺激実験を行ない、αSMA、FAP、FSP-1といった線維芽細胞マーカーやCOL1A1、MMP1、LOXといった機能マーカー、GLUT1やLDHAといった代謝マーカーの遺伝子発現量を確認したところ、低酸素では予想通りGLUT1などの解糖系酵素やLOXなどのコラーゲン修飾酵素の遺伝子発現が上昇することがわかった。しかし、低栄養および低pH条件では特筆すべき変化は認めなかった。次に、異なる発現状況を示し、種類の異なる線維芽細胞株が樹立できていることが明らかとなった。また、これらの線維芽細胞に対し、myCAFの誘導因子と考えられるTGFβ1とiCAFの誘導因子と考えられるIL-1αで治療を行なったものと既存のヒト膵癌細胞株(T3M4、BXPC3、PANC1)と共培養を行なったものの遺伝子発現量を確認したところ、それぞれの線維芽細胞株の表現型および機能マーカーが変化することが明らかとなったが、それらの変化は他の細胞株の遺伝子発現の特徴をoverlapすることはなかった。 以上から、これまで広く知られていた「CAFは可塑性を保ったまま周囲の状況に合わせて表現型と機能を変化させる」という定説では説明しきれない現象を認め、CAFの表現型や機能のheterogeneityにつながる何らかの背景が存在することが示唆された。この後、今回認めたこの現象について研究を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前から継続している膵癌患者からの線維芽細胞株の樹立は、実際にin vitroで増殖するものは年間3-4例程度であるが徐々に進んでおり、現在実験に使用している3種類以外にも多数の症例で樹立に成功している。実験に使用している3種類については、表現型解析と機能解析が進み、それぞれが異なる表現型および機能を持っていることが明らかになり、今後研究するべき方向性を確認できている。また、共培養による癌細胞の増殖に対する影響は活性化刺激に関する条件設定が非常に煩雑で、結果のばらつきが非常に大きいため、マウスを用いたin vivoでの解析が必要であることが判明するなど、今後重要となるデータを収集する方法が明確になってきている。 以上から、CAFに対する表現型および機能解析を中心に研究は進行しており、今後これらのheterogeneityに影響を及ぼす因子を同定するために、引き続き解析を行なっていく。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度以降の計画として、まず第一に、令和5年度に引き続き、追加で判明した様々な線維芽細胞のサブグループの表現型・機能・代謝に ついての解析を行う。低酸素、低栄養、低pH環境に加え、サイトカイン(IL-1、TGFβ1)や癌細胞との接触・非接触型共培養などの刺激を行い、それぞれの線維芽細胞がどのような表現型を呈し、どのような機能、代謝を亢進させるかを解析する。表現型解析には、新たにTHY-1やGLUなどの遺伝子発現を中心にmyCAF、iCAFの細分化を行う。機能解析には、EGFPを遺伝子導入した癌細胞とtdTomatoを遺伝子導入した線維芽細胞のマウスへの共移植を行い、増殖・浸潤・転移能を評価する。(共培養による癌細胞の増殖に対する影響は活性化刺激に関する条件設定 が非常に煩雑で、結果のばらつきが非常に大きいため、マウスを用いたin vivoでの解析が必要であることがわかった。) 代謝解析には、解糖系酵素の発現量の評価のほかに、OCRやOXPHOSを測定し、実際の解糖系および酸化的リン酸化の亢進の有無を評価する。特に癌細胞との共培養およびマウスへの共移植実験で特徴的な機能を示した線維芽細胞のサブグループに関しては、表現型、機能、代謝解析のため、NGSを用いた網羅的な遺伝子解析と培養上清や細胞内のmetablitesを測定する網羅的な代謝解析も行う。次に、線維芽細胞の分化(表現型変化)に関与する分子を同定するため、癌細胞および線維芽細胞の網羅解析からkey moleculeをピックアップし、それらの遺伝子をknock downあるいはover expressionした細胞株を癌細胞、線維芽細胞でそれぞれ適宜作成し、ピックアップした分子が実際に寄与しているかをin vitroおよびin vivoの実験で表現形、機能、代謝変化を解析し、新規治療薬として応用可能かを評価していく。
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