研究課題/領域番号 |
23K15499
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分55020:消化器外科学関連
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
松井 洋人 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (60780781)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 大腸癌 / 免疫療法 / マクロファージ / 腫瘍微小環境 / 抑制性免疫 / 腫瘍免疫 / 複合免疫療法 |
研究開始時の研究の概要 |
切除不能大腸癌に対する免疫療法の治療限界の原因の一つとして腫瘍浸潤マクロファージをはじめとした腫瘍微小環境における抑制性免疫が重要である。申請者は、教室で免疫療法を施行した大腸癌組織の網羅的蛋白解析を行い、腫瘍内マクロファージに発現するシアル酸結合免疫グロブリン様レクチン7(Siglec-7)が、免疫療法の効果を予測する因子として同定された。Siglec-7は腫瘍免疫に関してはこれまで主にNK細胞における役割が報告されている。しかし、腫瘍関連マクロファージにおける役割は不明な点が多い。本研究の目的は、大腸癌の腫瘍関連マクロファージにおけるSiglec-7の役割を明らかにすることである。
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研究実績の概要 |
Siglec-7の腫瘍関連マクロファージ(TAM)における役割は不明な点が多い。本研究の目的は、大腸癌のTAMにおけるSiglec-7の役割を明らかにし、抑制性の腫瘍微小環境を改善しうる新たな治療ターゲットとなり得るかを検討することである。令和5年度は教室でペプチドワクチン療法を受けた大腸癌切除検体63症例を対象として、Siglec-7のリガンドであるシアル酸の発現状況を免疫組織学的に検討し、Siglec-7発現程度との関係を解析した。結果、シアル酸は大腸癌細胞の細胞膜と細胞質に発現していた。癌細胞膜におけるシアル酸発現とSiglec-7発現程度は相関する傾向を認めた(P=0.073)。一方で、癌細胞質におけるシアル酸発現とSiglec-7発現程度に相関は認められなかった。続いて、シアル酸およびSiglec-7発現状況と予後の関係を解析した。結果、癌細胞膜にシアル酸が発現しており、かつマクロファージにSiglec-7が発現している症例は、それ以外の症例と比較して有意に予後が不良であった。最後に、腫瘍浸潤リンパ球数(CD3+、CD4+、CD8+およびFOXP3+T細胞)を測定し、Siglec-7発現程度との関係を検討した。結果、腫瘍浸潤リンパ球に関しては、その数とSiglec-7発現の間に有意な相関は認められなかった。 以上の検討結果より、癌細胞膜におけるシアル酸発現の程度が腫瘍浸潤マクロファージにおけるSiglec-7発現に関与している可能性が示唆された。さらに、マクロファージにおけるSiglec-7と癌細胞膜におけるシアル酸発現状況はペプチドワクチン療法の治療効果予測バイオマーカーとなる可能性が示唆された。そのメカニズムとして癌細胞膜に発現するシアル酸にマクロファージ上のSiglec-7が結合することで治療効果に影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和5年度の目標は、①大腸癌切除標本を対象として癌部と正常組織のシアル酸の発現状態を免疫組織学的染色で評価する事、②癌部と正常部のRNA-seq解析によって患者毎のシアル化関連酵素(ST3GAL1、ST6GAL1等)の発現状況を検討する事、③シアル酸に関するデータを含めた臨床病理学的背景因子と、TAM上のsiglec-7発現程度の相関を評価し、患者毎のsiglec-7発現程度に影響を与える因子を検討する事、さらにin-vitrroで④大腸癌細胞とsiglec-7の反応性を評価する事であった。 ①および③は達成し、癌細胞膜状のシアル酸発現状態がsiglec-7陽性マクロファージの数に影響を及ぼす可能性を得た。また、その組み合わせにより臨床学的予後と相関する可能性が確認された。②に関しては、蓄積標本の遺伝子発現をNGSで評価予定であったが、費用の問題から当該年度に施行には至らなかった。④に関しては、大腸癌細胞株およびRecombinant human siglec-7 Fc癒合タンパクを準備しており、その結合に関して現在in-vitroで解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
まず令和5年度に引き続き種々の大腸癌細胞株とRecombinant human siglec-7 Fc癒合タンパクとの結合に関してin-vitroで評価し、以下の実験で使用する大腸癌細胞株を選定する。腫瘍局所において単球がどの様なフェノタイプを持つマクロファージへと分化するのか解析するため、シアル酸発現を確認した種々の大腸癌細胞株と末梢血単核球から分離した単球をin-vitroで共培養を行う。その過程におけるシアル酸/siglec-7の関与を解明するため、シアル化関連遺伝子をノックアウトした大腸癌細胞株やsiglec-7に対するブロッキング抗体を使用する。さらに、従来のM-CSF/CSF1R経路との関係性も評価するため、CSF1Rに対するブロッキング抗体も使用する。分化したマクロファージのフェノタイプはフローサイトメーターだけでなくシングルセルRNA解析(scRNAseq)を行い、単細胞レベルで遺伝子発現を解析する。介入群間での分化したマクロファージの差違を遺伝子発現レベルで検討することで、従来のM1/2という分類を超えた詳細なマクロファージ分化に関するメカニズムを明らかにする。上記を達成した後に令和7年度では大腸癌マウス腫瘍モデルを用いて、siglec-7に対するブロッキング抗体を投与し抗腫瘍効果(腫瘍サイズと生存期間)や腫瘍微小環境に及ぼす影響を解析する。後者は、治療後の腫瘍を摘出しCD45+免疫細胞を抽出、scRNAseqを行いコントロール群との変化を解析する。マクロファージを初めとした腫瘍微小環境のリモデリングが確認された場合は、免疫チェックポイント阻害剤との併用療法の可能性に関しても検討する。
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