研究課題/領域番号 |
23K15505
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分55020:消化器外科学関連
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
後町 武志 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (40338893)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 膵臓癌 / ライソゾーム / フェロトーシス / フェロトーシス細胞死 |
研究開始時の研究の概要 |
膵臓癌患者は化学療法を含めた治療の進歩に関わらず依然予後不良である。膵臓癌は血管新生が乏しい腫瘍であり、低酸素、低栄養環境のもと増殖可能なように細胞が自らの一部を分解し細胞内エネルギーであるATPを産生するオートファジーにより腫瘍の成長を促進することが悪性化の一因と考えられる。本研究ではオートファジーの最終段階であるライソゾーム酵素を阻害することに注目した。さらに近年、鉄代謝に依存した過酸化脂質の蓄積による細胞死“フェロトーシス”が注目されており、本研究ではライソゾーム酵素がフェロトーシスに関与する機序を解明し、ライソゾーム酵素の抑制による膵臓癌に対する革新的治療法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
膵臓癌は乏血性腫瘍であり、低酸素、低栄養環境下で増殖可能なようにオートファジーが亢進していることが特徴である。またオートファジーの最終段階であるライソゾーム酵素に注目し、ライソゾーム酵素が糖脂質代謝を介してフェロトーシスに関与する機序を解明する。そして、そのライソゾーム酵素を抑制することで膵臓癌に対する革新的治療法の開発を目指す。 フェロトーシスに関与するライソゾーム酵素の同定:膵癌細胞におけるフェロトーシス誘導によるRNA発現量の評価 (in vitro) ヒト膵癌細胞株(PANC-1、MiaPaca-2、AsPC-1、BxPC-3)を用いてフェロトーシス誘導によるRNA発現量を確認した。それぞれの膵臓癌細胞株において生体膜の過酸化脂質をアルコールへ還元するグルタチオンペルオキシダーゼ4をsiRNAで阻害することにより、過酸化脂質を蓄積させ、フェロトーシスを誘導することを確認した。 フェロトーシス誘導前後の膵癌細胞株を用いてフェロトーシス誘導前後にけるライソゾーム酵素遺伝子の発現量の変化を確認するためにRNA-seq解析を行った。その結果フェロトーシス誘導後にはライソゾーム酵素である酸性αグルコシダーゼ(GAA)と酸性セラミダーゼ(AC)の発現が増加していることを確認した。 次に上記膵癌細胞株(PANC-1、MiaPaca-2、AsPC-1、BxPC-3)を用いてライソゾーム酵素である酸性αグルコシダーゼ(GAA)と酸性セラミダーゼ(AC)の発現を阻害したところ、狭小化したミトコンドリアの蓄積とミトコンドリア膜電位の低下が認められ、ライソゾーム酵素阻害によりフェロトーシスが誘導されたと考えられた。ライソゾーム酵素はフェロトーシスの誘導に必須の分解系であり、ライソゾーム酵素による糖脂質代謝異常の誘導がフェロトーシスにおいても重要な役割を果たしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では極めて予後不良な膵臓癌において、糖脂質代謝異常が誘導する鉄依存性細胞死であるフェロトーシスがアポトーシス、ネクローシス、オートファジーとは異なる機序の細胞死として癌に対する新治療法となり、さらに既存の薬剤に対する耐性を克服する機序としての有用性について検討することを目的としている。 これまでの本研究の成果から、フェロトーシスがその過程中に鉄代謝異常を生じ、過酸化脂質と狭小化したミトコンドリアが蓄積することを確認した。 以上よりライソゾーム酵素の阻害により誘導されたフェロトーシスが膵臓癌における重要な治療標的となる可能性が示唆され、今後研究を継続する中で、ライソゾーム酵素が膵臓癌の発癌や癌進展においても重要な役割を担っていることを解明できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で確認されたライソゾーム酵素阻害によるフェロトーシス誘導についてin vitroで標的ライソゾーム酵素阻害によるフェロトーシス誘導を評価する。 ヒト膵臓癌細胞株に対し、siRNAを用いたRNA干渉で標的のライソゾーム酵素を阻害し、細胞増殖能を測定する。死細胞の増減をフローサイトメトリー(Annexin V-FITC assay)で定量評価し、ウエスタンブロッティングを用いて細胞死シグナルを評価する。 次に標的のライソゾーム酵素阻害時の鉄代謝を評価するため、細胞内とミトコンドリアにおける鉄、脂質過酸化を蛍光顕微鏡とフローサイトメトリーで評価する。フェリチンの選択的オートファジーであるフェリチノファジーを評価するために、オートファジー関連タンパク質、ライソゾーム関連膜タンパク質をウエスタンブロッティング法で評価する。 その後電子顕微鏡による細胞内オルガネラの観察を行うことで、免疫蛍光染色を用いてミトコンドリアの蓄積やライソゾーム活性を評価する。ミトコンドリア機能の評価として、ミトコンドリア膜電位を測定する。細胞内、ミトコンドリア内の活性酸素種の蓄積をフローサイトメトリーで測定する。 マウスを用いたフェロトーシス誘導による癌治療法開発のため、担癌マウスモデルでのフェロトーシスによる抗腫瘍効果 (in vivo)を確認する。ヌードマウスの皮下に膵臓癌細胞を接種し、皮下腫瘍モデルを作成する。shRNAを搭載したアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を作成し、治療標的候補となるライソゾーム酵素を阻害する。皮下腫瘍にウイルスベクターを局注し、抗腫瘍効果を確認する。抗腫瘍効果が増強したライソゾーム酵素について、癌細胞特異的に遺伝子導入できるプロモーターを導入する。膵臓癌腹膜播種モデルに対しライソゾーム酵素を遺伝子導入し、予後改善効果を確認する。
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