研究課題/領域番号 |
23K15549
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分55030:心臓血管外科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
甲斐沼 尚 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 医長 (40839073)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 人工多能性幹細胞 / 自己組織化ペプチドハイドロゲル / 間葉系幹細胞 / 神経堤細胞 / 心嚢内注入法 |
研究開始時の研究の概要 |
心不全患者に対する間葉系幹細胞(MSC)移植の治療効果を増幅させるために、我々は組織由来MSCよりも大量培養が容易で老化の少ない高品質を維持しやすい人工多能性幹細胞(iPSC)由来MSCを使用し、従来の移植方法よりもドナーMSCの生存を著明に改善できる、自己組織化ペプチドハイドロゲルに封入して心嚢内注入するという新たな方法を開発した。本研究の目的は、この多分野の最新技術を駆使した新規治療法(自己組織化ペプチドハイドロゲルに封入したiPSC由来MSCの心囊内注入)の安全性や治療効果を臨床に即した小動物モデルにおいて明確にすることである。
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研究実績の概要 |
間葉系幹細胞(MSC)移植は心不全動物モデルにおいて有意に心機能を改善することが示されたが、心不全患者に対する治療効果は一定していない。この相反する結果はMSCの品質・機能と投与方法が最適でなかったためである可能性が高い。これらを解決するために、我々は組織由来MSCよりも大量培養が容易で老化の少ない高品質を維持しやすい人工多能性幹細胞(iPSC)由来MSCを開発した。さらに、従来の移植方法よりもドナーMSCの生存を著明に改善できる、自己組織化ペプチドハイドロゲルに封入して心嚢内注入するという新たな方法を開発した。本研究の目的は、この多分野の最新技術を駆使した新規治療法(自己組織化ペプチドハイドロゲルに封入したiPSC由来MSCの心嚢内注入)の安全性や治療効果を臨床に即した小動物モデルにおいて明確にすることである。 小動物モデルの心嚢内注入モデルの作成を達成するために外科的手技の改良を重ね、モデルを安定して作成することに成功した。具体的には、心尖部付近の心膜を覆う脂肪組織周囲に財布ひも縫合(PSS)を行い、PSSの中央で心膜を繊細に穿孔し、24ゲージのSurflow針を用いて、先に形成した心膜穿孔から治療液を投与した。注入直後さらにPSSを固定することにより心嚢内から治療液が漏れないようにすることが可能となった。心不全モデルを作成し、iMSC+パナセアゲル注入の心機能改善効果、その機序を解明するために、4群を作成した:1.iMSC+パナセアゲル、2.iMSC+HBSS、3.HBSS、4.パナセアゲル。外科的な手技の工夫によりこれらの心嚢内投与は実現可能であり、安全に施行できることが確認された。また心機能改善効果は、iMSC+パナセアゲル群においてもっとも顕著であり、そのメカニズムは、梗塞周囲の血管形成を惹起することによる梗塞範囲の縮小、心筋肥大の抑制が関連していると考察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小動物モデルの心嚢内注入モデルの作成を達成するために外科的手技の改良を重ね、モデルを安定して作成することに成功した。具体的には、心尖部付近の心膜を覆う脂肪組織周囲に財布ひも縫合(PSS)を行い、その後細いはさみを用いてPSSの中央で心膜を繊細に穿孔し、24ゲージのSurflow針を用いて、先に形成した心膜穿孔から治療液を正確に投与した。注入直後さらに2針でPSSをしっかりと固定することにより心嚢内から治療液が漏れないようにすることが可能となった。心嚢内に注入された細胞別に以下の4群に分けた:1.iMSC+パナセアゲル、2.iMSC+HBSS、3.HBSS、4.パナセアゲル。治療液は各群ごとに以下のように調製した: iMSC-PG群には、100μLのHBSSに1.0×106個のiMSCを含む細胞懸濁液100μLと混合した0.8%PanaceaGel100μLを用いた。iMSC-HBSS群では、1.0×106個のiMSCを200μLのHBSSに懸濁した。コントロールは200μLのHBSSまたは200μLの0.4% PanaceaGelを用いた。 治療後28日目に施行した心エコー検査では、他の群と比較し、iMSC+パナセアゲル群は統計学的に有意に左室収縮率(EF)が高かった。また、iMSC+パナセアゲル群における左室拡張末期容積、収縮末期容積は他の群よりも小さい傾向を認めた。 治療効果を判定するために治療後28日目に心臓サンプルを採取し、左室梗塞領域(%)=(心内膜瘢痕長/全左室周囲長)×100、およびperi-infarct zoneにおけるcapillary density、心筋サイズを評価した。その結果、iMSC+パナセアゲル群は、HBSS群、パナセアゲル群よりも梗塞サイズが統計学的に小さく、新生血管がより構築され、心肥大は抑制されていた。
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今後の研究の推進方策 |
治療効果の容量依存性(細胞数0.05-2.0x106/animal)、最小有効細胞数、および長期間(12週)の安全性、ならびに治療効果継続性について検討する。また、ドナー細胞の心臓内分布や生存、異所性集積や腫瘍化について評価するために、治療後1週、4週、12週において心臓と他の臓器を摘出し、組織学的探索と遺伝子・タンパク発現の定量評価を行う。ドナー細胞はヒト特異的タンパク・遺伝子を免疫染色及びqPCRで解析することで追跡可能である。HE染色にて過剰な炎症反応や腫瘍の形成が無いことを確認し、パナセアゲルの残存も計測する。。パラクライン効果による心筋組織修復として、心筋梗塞サイズの縮小、心筋間質線維化の軽減、心筋細胞肥大の抑制、などの観点から評価するとともに、 炎症の軽減を CD45 に対する免疫組織染色、また微小血管新生を isolectin B4 染色により評価する。MSC のパラクライン効果におけるニ次的 effector として重要な役割を果たすことが報告されている組織修復マクロファージに関しても CD163、CD206に対する免疫組織染色により評価する。組織修復に関する遺伝子・タンパク発現の心臓組織内経時的変化 を RT-qPCR・western blot により定量的に評価する。この際、摘出した心臓から大血管、心房、および右室無壁を除去して小動物の左室組織サンプルを採取する予定である(各群n = 4-5)。移植後のドナー細胞保持の定量的評価:HBSSを用いたiMSCまたはPGを用いたiMSCの心嚢液注入後3日目および7日目に、霊長類特異的ALU遺伝子のqPCRによりドナー細胞の保持率を測定する予定である(各群n = 4-5)。
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