研究課題/領域番号 |
23K15622
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分55060:救急医学関連
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研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛 |
研究代表者 |
瀬野 宗一郎 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 救急部, 講師 (60972255)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 頭部爆傷 / 重症頭部爆傷 / pCREB / Cresyl violet / レーザー誘起衝撃波 / 即死 / 高次脳機能障害 / 神経新生 |
研究開始時の研究の概要 |
テロリズムなどで用いられる爆発物による爆傷において、頭頚部を受傷した重症爆傷は即死しやすく、軽症の頭部爆傷であったとしても、慢性期に高次脳機能障害を認めることがあると言われている。本研究の目的は、照射部位や強度を自由に選択できるレーザー誘起衝撃波を脳幹部に照射し、重症頭部爆傷及び軽症頭部爆傷のモデルマウスを作成し、即死や高次脳機能障害が発生するメカニズムを解明することである。神経細胞そのものの損傷や、高次脳機能障害発生のメカニズムとして注目されている神経新生に関わる蛋白質に着目し、受傷したマウスの大脳や海馬を病理学的に検討する。最終的には、爆傷における頭頚部保護の重要性を提言していきたい。
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研究実績の概要 |
爆風による衝撃波を再現できる装置であるレーザー誘起衝撃波(Laser-induced shock wave: LISW)をマウスの頭部に照射して頭部爆傷モデルマウスを作成し、頭部爆傷における即死や高次脳機能障害発生のメカニズムを解明することを目的とする。今回は致死率の高い重症頭部爆傷に焦点をおいて研究を進めてきた。先行研究にて上頸部(脳幹部)に高強度のLISWを照射すると呼吸が抑制され短時間で死亡するマウスが有意に増加することが知られており、A群:左頭頂部のみ1回照射、B群:左頭頂部+上頸部に2回連続照射の2群に分けてバイタルサインおよび死亡率の比較、また病理学的評価として特に海馬の神経細胞に注目して評価した。 結果としてバイタルサインについては呼吸数がB群で受傷30秒後に有意に低下(p<0.01)し、それに伴いSpO2;が受傷30秒後(p<0.01)、60秒後(p=0.037)、90秒後(p=0.012)に有意に低下した。死亡率はA群で7.1%(1/14匹)、B群で55.6%(10/18匹)であり、生存率に統計学的有意差を認め(p=0.036)、先行研究とほぼ同様の結果となった。 次に病理学的評価では上述のA・B群に加えて無処置群(Naive群、群:N群)の3群で評価した。免疫組織染色として神経新生に関与する機能性蛋白の遺伝子発現に必要な転写因子であるpCREB(phosphorylated cyclic adenosine monophosphate response element binding protein)、ニッスル小体を染色し細胞形態を評価できるCresyl Violet染色の2つを用い、LISW受傷7日後(亜急性期)の海馬の歯状回とCA1の神経細胞を評価した。pCREBの発現量は歯状回・CA1ともに3群間で有意差なく、Cresyl Violet染色ではCA1においてB群の壊死細胞数が有意に増加(p<0.01)した。以上より、高強度のLISWを左頭頂部と上頸部に連続照射すると亜急性期において海馬CA1の壊死細胞数が有意に増加することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の研究には重症頭部爆傷モデルマウスの作成が必要であったが、LISWを用いた頭部爆傷モデルにおいて「重症」相当の強度や照射部位については現在のところわかっていないため、ある程度の死亡率となるようなLISWの設定を自分で探すところから計画する必要があった。今回の研究ではフルエンス(LISWの強度)を6.0 J/cm²で頭頂部+脳幹部に連続照射すると死亡率55%の「重症」相当の頭部爆傷モデルマウスを作成することに成功した。ただし補助実験では上頸部照射のみでも死亡率は66%と上記連続照射群と同様であったため、今後は上頸部照射のみを研究の主軸にしてよいかもしれない。また病理学的評価としてpCREBとCresyl Violetを使用した結果後者は亜急性期の海馬評価に有用であることを示せたため、今後もCresyl Violet染色を主軸として亜急性期の海馬評価に使用していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
左頭頂部+上頸部の連続照射以外にも上頸部照射だけでも同程度の死亡率と予測されるため、左頭頂部+上頸部照射 vs 上頸部照射で追加実験を行い、死亡率やバイタルサインの比較、Cresyl Violetなど病理学的評価を追加して今後の重症頭部爆傷モデルの主軸を決定していきたい。 今後の研究テーマとしては「LISWによる頭部爆傷モデルマウスに対するミノサイクリンの亜急性期における有効性の検討」とする。ミノサイクリンはテトラサイクリン系抗菌薬であり、これまで抗炎症作用・抗アポトーシス作用・血液脳関門維持による脳浮腫軽減作用・鉄の蓄積の予防作用など様々な効果が知られており、頭部外傷モデルの動物実験でその有効性が示されてきた。Kovesdi Eらはshock tubeを用いた軽症頭部爆傷モデルマウスにミノサイクリンを腹腔内投与すると、受傷46日後の慢性期の行動実験(空間記憶)においてミノサイクリン投与群で有意な改善を認め、受傷51日後に様々な炎症性およびグリアタンパク質マーカーの有意な低下を認めた。このように慢性期の軽症頭部爆傷に対するミノサイクリンの有効性が示されたが、亜急性期の重症頭部爆傷に対するミノサイクリンの有効性を調べた先行研究は調べた限りなさそうである。よって今後はLISWを用いた重症頭部爆傷モデルマウスに対するミノサイクリンの効果について、亜急性期(受傷7日後)の脳病理所見を観察しその有効性を評価する方針とする。具体的にはLISW受傷後ミノサイク抗炎症作用の評価としてGFAP、Iba-1を、抗アポトーシス評価でTunel染色を、脳浮腫にはAQP-4(Aquaporin 4)を、外傷や低酸素の傷害による軸索損傷評価でβAPP(amyloid-beta precursor protein)などの免疫組織化学染色を追加して評価していきたい。
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