研究課題/領域番号 |
23K16059
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分57040:口腔再生医学および歯科医用工学関連
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研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
柴口 塊 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 助教 (50845196)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | 顎骨隆起 / 自家骨移植材料 / 骨造成材料 / 骨質評価 / 間葉系幹細胞 / 自家骨移植 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトの口腔内で無症候性の骨膨隆として出現する「顎骨隆起」について、自家骨移植に応用することの科学的妥当性の評価を行うことを目的とする。近年では切除した下顎隆起を骨補填材として利用した骨造成や歯周炎による垂直性骨欠損部への歯槽骨量の回復を行った報告が散見されるが、このような下顎隆起の応用手段についての科学的な妥当性は十分ではない。そこで本研究では骨移植材としての顎骨隆起の応用について、従来の自家骨移植と比較して同等の結果が期待できるかの科学的な根拠を得るため、治療目的で切除された顎骨隆起の組織切片の観察や構成細胞の同定、さらに石灰化能や機械刺激への細胞応答、遺伝子群の発現強度について調査する。
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研究実績の概要 |
第132回日本補綴歯科学会学術大会にて演題名:「骨移植材としての下顎隆起における骨質の評価」でポスターセッションを行なった。発表内容として、本研究での下顎部分床義歯製作上の都合等のため下顎隆起の切除を行なった8名の患者を対象に、術前CT画像においてCT解析ソフトを使用して水平断面及びクロスセクショナル断面における下顎隆起の基部、中央部、最大膨隆部の3点に分けたCT値算出により骨密度を調査した。さらに、切除した下顎隆起の組織切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行なった上で光学顕微鏡下にて組織学的な構造の観察を行なった。下顎隆起部及び正常皮質骨それぞれの測定箇所3点におけるCT値の比較では、下顎隆起の基部、中央部、最大膨隆部においていずれも200 HU(Hunsfield Unit, HU)以下の相違で且つ1,400 HU以上の骨密度を有していおり、Mischによる骨質分類において最も予知性が高いとされる1,250 HU以上のグレードD1に相当するものであることがわかった。調査した8サンプル全てにおいて健常皮質骨との間でCT値に差を認めたが、いずれも1,400 HU以上の骨密度を有していた。切除した下顎隆起骨組織切片のヘマトキシリン・エオジン染色により、正常皮質骨に通常見られる層板骨構造やハバース菅の構造を同様に有していることが認められ、且つそれらの構造が正常皮質骨におけるものと酷似していることがわかった。これらの結果より、顎骨隆起を健常皮質骨の代替として骨移植材に利用することの科学的妥当性を示す1つの知見を得ることができた。また同内容において論文執筆を行い、「Journal of Oral and Maxillofacial Surgery」への投稿を完了しており、現在のところAccept待ちの状態である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに顎骨隆起部の骨密度としてCT値の調査では健常皮質骨に匹敵する骨密度を有しており、且つ隆起の基部、中央部、最大膨隆部のどの領域においてもおおよそ同程度の骨密度を有することがわかった。また、切除した下顎隆起骨組織切片のヘマトキシリン・エオジン染色により、正常皮質骨に通常見られる層板骨構造やハバース菅の構造を同様に有していることが認められ、且つそれらの構造が正常皮質骨におけるものと酷似していることがわかった。これらより、少なくとも放射線学的また組織学的な見地からは顎骨隆起を構成する骨組織が健常皮質骨のものと近い性質を有していることが予想され、骨移植材としての科学的妥当性を示す情報の1つとなった。 さらにこれまで、切除した8症例の下顎骨隆起由来の骨組織より細胞の単離を試みてきた。磁性乳鉢と乳棒を用いて切除した下顎隆起の骨組織を細かく粉砕後、コラゲナーゼを作用させ細胞を単離、培養を行なった。組織より単離される細胞数が十分ではなかったが、プロトコルに見直しとともに作業方法の改善を図り、十分量の細胞数を確保し継代まで行うことが可能となった。これにより、切除した顎骨隆起の骨組織より単離・培養した細胞について、顎骨隆起を構成している主となる細胞の種類の同定(フローサイトメトリーにて)を行い、間葉系幹細胞の存在が認められることを目標とする。またさらに石灰化度の調査(アリザリン染色にて)、ALP活性の調査(ALPアッセイにて)、機械刺激に対する細胞応答試験、構成細胞の遺伝子発現の違いの有無評価(マイクロアレイ、次世代シーケンサーにて)等、当初より第2段階として行う予定としていた実験段階に進むことができると予想され、概ね順調に研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、切除した顎骨隆起の骨組織より単離・培養した細胞について、顎骨隆起を構成している主となる細胞の種類の同定を行う。具体的には細胞表面上の受容体(CD29/44/73/90/105/146/14/34, Stro-1, SSEA-4)に結合する蛍光標識マーカーを用いてフローサイトメトリーにて同定する。 顎骨隆起の構成細胞における骨石灰化能に違いがあるか確認を行うため、顎骨隆起由来の細胞に対してアリザリン染色による石灰化度の調査とALPアッセイによるALP活性の調査を行う。 顎骨隆起由来の細胞に対し機械刺激に対する細胞応答試験を行う。具体的には、伸展刺激付加用ストレッチチャンバープレート表面プラズマコーティング+コラーゲンⅠ・フィブロネクチンコーティング処理を施した後、プレート上に顎骨隆起骨由来の間葉系幹細胞を播種し培養を行う。メカニカルストレス付与時の細胞反応を確認する方法として、カルシウムイオン蛍光指示薬を用いて細胞内カルシウムイオンの動向を可視化することにより行う。 顎骨隆起の種類による構成細胞の遺伝子発現の違いの有無評価を行う。具体的には、マイクロアレイを用いて顎骨隆起部の骨組織由来のMSC特有に発現している候補遺伝子の有無を確認する。まず顎骨隆起由来の細胞群と正常皮質骨由来の細胞群の2群に分け、各MSCからそれぞれDNAを抽出し、マイクロアレイを用いて各DNAから写したmRNAの塩基配列を網羅的に調査することにより、顎骨隆起部の骨組織由来MSCに特異的に高発現もしくは低発現する遺伝子の有無や強弱の相違を認めるかの検討を行う。具体的には、Notch3遺伝子、Hey1, 2遺伝子、Osterix遺伝子を始め、最終的に骨組織の増生に関わる可能性のある遺伝子発現の強弱について検討を行う。
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