研究課題
若手研究
多発性骨髄腫(MM)は全身に骨破壊病変を形成し骨髄内で進展する悪性腫瘍であるが、薬剤耐性を獲得し再発すると、骨に依存せず遠隔組織で増殖する予後不良の髄外MM病変(EMD)を形成する。これまでEMD形成の分子メカニズムの全容は解明されておらず、有効な治療法も確立されていない。申請者は、不動はEMDの形成を誘導することを報告したが、今回新たに不動によってMM骨髄で豊富にdipeptidyl peptidase 4 (DPP4)が産生されることを見出した。本研究では、EMD形成においてDPP4が果たす役割と、DPP4阻害による治療効果を明らかとし、EMDに対する有効な治療法を開発する基盤研究を行う。
多発性骨髄腫(MM)は、顎骨を含む全身の骨に骨破壊病変を形成し骨髄内で進展する形質細胞の悪性腫瘍であるが、薬剤耐性を獲得し再発すると、骨に依存せず遠隔組織で増殖する予後不良の髄外MM病変(EMD)を形成し、新たな臨床上の問題となっている。しかし、EMD形成の分子メカニズムの全容は解明されておらず、有効な治療法も確立されていない。CD26とも呼ばれるセリンプロテアーゼdipeptidyl peptidase 4 (DPP4)は、N端から2番目にあるプロリンまたはアラニンの場所でアミド結合を切断し、多彩な生理活性物質の活性を制御している。今回、MM患者骨髄生検の免疫染色から、脂肪組織、破骨細胞およびその近傍のMM細胞にDPP4が高発現することを新たに見出し、MMマウスモデルの骨病変組織でもDPP-4の旺盛な産生を確認した。MM骨病変部や不動状態での骨髄でのDPP4の発現亢進の実態を解明するため、DPP-4がMM細胞に発現するかどうかを検討した。MM細胞自身はin vitroでは無刺激状態ではDPP4の発現はあまりみられないものの、破骨細胞との共培養によってそのDPP-4発現は亢進した。そこで、DPP-4を強制発現させた5TGM1-DPP-4細胞を作成し右側後肢脛骨骨髄内に移植してMM腫瘍進展を観察したところ、コントロールと比較し5TGM1-DPP-4細胞は全身への転移が促進し旺盛なEMD形成が観察された。これらの結果からDPP4がその多くの基質の活性を同時にダイナミックに変化させ、EMDの形成を含むMM病態を形成・修飾している可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度の成果から、DPP-4が骨髄腫髄外病変の形成と全身への転移を促進することがin vivoでおおむね証明できた。そのため、今後はDPP-4阻害薬の効果について検討するとともに、ノックアウトマウスを用いた解析と、その分子機序について詳細を検討する計画に移行する。
ヒトMMの臨床像をより忠実に再現できるMMモデルとしてVk12598 MM細胞の脛骨内移植モデルを用い検討する。Vk12598 MM細胞は正常免疫を有する同系C57BL/6マウスの体内でのみ継代が可能で、骨髄微小環境に依存した増殖と骨病変の形成を示す(Blood. 120(2): 376-385, 2012)。このVk12598 MM細胞をLuc標識し、CRISPR/CAS9システムでDPP4をノックアウトしたマウスの脛骨内に移植し骨髄腫モデルを作成、移植効率、進展速度、骨病変形成、EMD形成などをIVISやマイクロCTで評価、比較する。さらにDPP4を過剰発現させたVk12598 MM細胞を作成し、gain of functionとloss of functionの両面からDPP4のMM腫瘍進展での役割を明らかにする。DPP-4阻害薬Sitagliptinを投与し、MM腫瘍に対する治療効果を、ケモカイン受容体や接着分子とテトラスパニンの発現変化、循環血中MM細胞、EMD形成や骨病変形成から解析する。1.原発(脛骨)組織、2.循環血液中、3.EMD部から腫瘍細胞を回収して、RNA-Seq解析にて網羅的解析を試みる。得られた標的候補から、N端から2番目にプロリンまたはアラニンを持つDPP4の直接標的となるもの、もしくはSDF-1やneuropeptide Y(NPY)のような既知のDPP4基質の機能変化によって間接的に標的となりそうな因子を抽出する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Antioxidants
巻: 12 号: 1 ページ: 133-133
10.3390/antiox12010133