研究課題/領域番号 |
23K16527
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分58080:高齢者看護学および地域看護学関連
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
深井 航太 東海大学, 医学部, 講師 (00813966)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 混合軌跡モデリング / トラジェクトリー解析 / 潜在クラス分析 / 経時データ解析 / 肝機能検査 / 糖尿病 / 産業保健 / 一般定期健康診断 / 健康診断 / 職域疫学 / 実証研究 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、地域・職域保健の健康診断データを活用し、経時データの実装化に焦点を当てる。現状では、評価方法は横断的な基準値に基づくが、年齢という重要な要素が考慮されていない。研究目的は、混合軌跡モデルを用いて年齢依存の変化パターンを類型化し、疾患発症リスク評価を行い、保健指導を提示するシステムを構築すること。リアルタイムに変化パターンとリスクが表示されるアプリケーションを開発し、本システムの有効性を実証する。これにより、健診データの経時データ活用と年齢の考慮という2つの課題を解決することが期待される。また、この手法を用いれば高齢期の保健指導対策も多面的に検討できる。
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研究実績の概要 |
本研究では、Group-based trajectory modeling(トラジェクトリー解析)を用いて、一般集団における様々な健康情報を経時的に解析し、アウトカムとの関連をみることが目的である。 初年度は、職域集団における肝機能検査の現状と、それに基づいた糖尿病発症リスクの検討を行った研究を行った。日本国内の製造業グループ企業に勤務する35歳から74歳までの男女29,824名を対象に、2000年から2021年までの健康診断データを基に、トラジェクトリー解析と多重ロジスティック回帰分析を用いて実施した。本研究の主要な課題は、肝機能検査(ALT、AST、γ-GTP値)の基準値とそれが糖尿病発症とどのように関連しているかを明らかにすることとした。特に、ALT値に着目し、その基準値超え回数が糖尿病発症リスクに与える影響を評価した。 結果として、トラジェクトリー解析により、ALT値は6つの異なる群に分類され、年齢が上昇するにつれてALT値は低下する傾向にあることが示されたが、高値群に属する者は若年時に高い値を示し、糖尿病発症リスクが高いことが明らかにされた。さらに、ALT値が30を超える回数が多いほど、糖尿病発症リスクも高まることが確認された。このことから、糖尿病の早期発見および予防において、経時的な変化を考慮した肝機能検査の基準値設定が重要であることが示唆された。一方で、AST値やγ-GTP値では、基準値超え回数と糖尿病リスク増加の明確な関連性は見られなかった。 本研究は、職域集団に特化したものであり、選択バイアスの影響も否定できないため、他の集団における検討も必要である。さらに、糖尿病発症予測においては、ALT値の基準値を超える頻度だけでなく、その経時的な変化を考慮することが推奨される。これにより、かかりつけ医や専門医に紹介する際の基準値の設定にも影響を与える可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗状況はおおむね順調である。その理由は、まず、日本国内の製造業グループ企業の健康診断データを活用し、大規模な疫学データが利用可能であったことが挙げられる。このデータは、2000年から2021年までの期間にわたり、29,824名の男女を対象にしたものであり、のべ356,512件の健診レコードを含んでいる。これにより、統計的な信頼性と妥当性を確保し、幅広い年齢層における長期的な健康影響を検討する基盤を築くことができた。次に、統計解析の手法としてSASのProc Trajマクロを用いたトラジェクトリー解析が実装できたことも進捗の要因である。この解析手法は、個々の肝機能検査の値の変化パターンを時系列で捉え、潜在的な変動パターンを明らかにするために有効であり、研究の精度を大いに高めるものであった。また、本年度の研究テーマとして肝機能検査のトラジェクトリー解析を選択したことも、進捗に寄与した。肝機能の変動を長期にわたり追跡調査することで、糖尿病といった重要な健康アウトカムへの影響を科学的に評価することが可能となり、公衆衛生上の意義が大きい。さらに、アウトカムとして肝臓疾患のハードアウトカムではなく、糖尿病を選択したことが、標本集団の特性に基づいた適切な研究設計であると評価できる。肝機能異常が糖尿病発症に与える影響を探ることにより、より広範な公衆衛生問題への対応策を考える上で重要な知見を提供している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方針として、まず、肝機能検査に限らず、一般定期健康診断で収集される他の生体指標データを積極的に分析に取り入れることである。具体的には、血圧、脂質検査、血糖検査、BMI(体格指数)などのデータを追加し、これらが肝機能異常や糖尿病発症とどのように関連しているかを検討する。これにより、肝機能異常だけでなく、総合的な健康リスクの評価や管理に貢献することが期待される。次に、本年度に使用した標本集団だけでなく、より大規模な集団に対して同様の解析を実施し、得られた知見の一般性と再現性を確認することである。異なる地域や産業に勤務する集団を対象に、肝機能検査の結果と健康アウトカムの関連を再検証することにより、研究の信頼性を高める。さらに、新たに得られたデータを元に、個々の対象者がどのトラジェクトリーグループに属するかを自動的に判断するアルゴリズムの開発を進めることである。このアルゴリズムにより、新規データの迅速な分類が可能となり、リアルタイムでの健康リスクの評価が行えるようになることを目指す。最終的には、これらの分析を包括的に行い、結果を自動で出力するアプリケーションの開発を行う。このアプリケーションは、医療従事者が患者のリスク評価や介入計画を立てる際に役立つツールとして機能し、効率的かつ精確な健康管理を実現するための一助となる。これらの方策を実行に移すことで、今後の研究がさらに深まり、公衆衛生の向上に貢献する成果が期待される。
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