研究課題/領域番号 |
23K16982
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分61060:感性情報学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
升森 敦士 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (10870165)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 身体性認知科学 / 大規模言語モデル / ニューラルセルオートマトン / プロテウス効果 / 身体化された心 / バーチャルリアリティ / 身体拡張 / 時間認知 |
研究開始時の研究の概要 |
心は身体、環境との関係性の中に立ち現れるものであると考えられる。そのように身体と心は不可分であるならば、身体性や環境が変化することで心も変わるはずである。仮想現実 (VR) の技術やロボティクスなどの身体拡張の技術を用いて容易に身体性を変化させることができる。本研究では、身体的特性の変化が行動や認知、生体情報に与える影響に関して、(1) VRや身体拡張を用いて身体変容を体験する認知実験、および (2) 深層学習モデルによるシミュレーション実験をベースとした理論研究を行う。これらの研究結果をもとに、身体性変容にともなう心の変化に関する理論を提案する。
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研究実績の概要 |
心は身体、環境との関係性の中に立ち現れるものであると考えられる。そのように身体と心は不可分であるとならば、身体性が変化することで心も変わるはずである。 本研究では、身体的特性の変化が行動や認知、 生体情報に与える影響に関して、(1) VR技術を用いた身体変容を体験する認知実験、および(2) 深層学習モデルをベースとした理論研究を行う。
本年度は、主に、VR技術を用いた時間知覚変容の実験、心拍センサーを用いた生体情報の変容の予備実験などの認知実験、および、大規模言語モデル(LLM)に身体性を与えるモデルの予備実験、Neural cellular automata (NCA) に身体性を与える研究のモデルなどの理論研究について進めた。LLMやNCAなど当初は予定していなかったが、近年の両モデルの重要性から本研究の計画に組み込むかたちで計画を修正した。
VR技術を用いた時間知覚変容の実験では、視覚情報の時間遅れやフレームインターバルが大きくなるほど、運動速度が遅くなり、その結果、主観時間も変化することが示された。この研究成果は、国際学会ALIFE2023で口頭発表を行なった。LLMに身体を与えて、身体性の違いによる認知や個性の変化を検証するにあたり、新しい身体性へ適応できるかどうかの予備的実験を行なった。その結果、ゼロから新しい身体の身体図式をLLMが探索的に自らプロンプトを書き換えていくというフレームワークだけでは、ある程度は身体図式をつくることができるが、認知や個性の変化を検証できる段階には到達していない。NCAに身体性を持たせるNCAロボットの研究では、身体性を変化させた場合の内部ダイナミクスの変化などはまだ検証できていないが、NCAロボットの新しいモデルを提案し、形態発生や歩行運動をうまく進化させることが確認できており、次年度の国際学会にて発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VR実験は当初の予定通り実験を行い、その成果をまとめて国際学会ALIFE2023で口頭発表を行なった。理論研究については、当初の計画を軌道修正して、大規模言語モデルやニューラルセルオートマトン(NCA)という最新の研究を取り込みながら進めることとした。計画は変更したが、LLMは予備実験の実施ができ、NCAロボットの研究では新しいモデルの提案まで進めることができた。NCAロボットの研究は次年度の国際学会で発表する予定である。また、前回の若手研究の成果をもとに執筆した論文が論文誌に採択され公開された。この成果は本研究でのNCAロボットの研究に活かされる予定である。また、アウトリーチ活動としてアート作品『Mind Time Machine Ⅱ』の制作に参加し、研究成果の一部をアート作品へと応用し、一般の参加者の体験展示を行なった。この成果は国際学会で発表された。このように当初の計画からの修正はあったが、VR実験、理論研究ともに順調に成果が出てきている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) VR実験について。VRを用いた認知実験では、タスクの達成度が経過時間の推定に影響を与えている可能性もあり、今後、タスクの達成度が明示的にならないような状況を用いて実験をデザインする必要がある。また、VR空間で本来とは異なる身体に憑依する場合に、その身体性が大きく異なる場合は、本来の身体のもっている固有受容感覚がある限りその新しい身体に対する現実感には限界があることが分かってきた。そこで、固有受容感覚を抑制するための方法論やデバイスの研究を行うことを計画中である。
(2)LLMと身体性について。本年度は、LLMが、身体マップなどの事前情報なしに、試行錯誤を通して与えられた新しい身体に、適応できるかについて予備的実験を行なった。その結果、新しい身体を用いて運動の試行錯誤を通してある程度の身体図式をつくることができているが、認知や個性の変容を比較できるほどには、その学習がうまくはいかなかった。今後は、まずはよりシンプルな実験設定として、身体マップなどの事前情報をあたえつつも、身体特性が異なる場合に、認知や行動、発話内容などの個性に変化が生じるかを検証していく。さらに、LLMで生じる変化と、人での場合との違いについても議論して、シミュレーション変容と適応変容の理論についての考察を深めていく。
(3)NCAと身体性について。新しいNCAロボットのモデルを提案できた。今後は、このモデルが身体性の変化に適応できるように拡張して、実際に身体性が変化したときに内部ダイナミクスがどのように変化していくかをみていく。これはシミュレーション変容ではなく適応変容のモデルとして捉えることができる。上記のLLMの研究やヒトのVR実験の研究などと総合して、身体性の変化による心の変容の理論を構築することを目指していく。
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