研究課題/領域番号 |
23K16988
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分62010:生命、健康および医療情報学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
堀江 和正 筑波大学, 計算科学研究センター, 助教 (60817112)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 機械学習 / 深層学習 / 生体信号処理 / Dropout / 選択的不感化ニューラルネット / 連合学習 / 小モデルアンサンブル |
研究開始時の研究の概要 |
生体信号の認識課題において,被験者の属性に合わせた複数の特化モデルを用いることで,個人差の影響を最小化することができる.一方,学習サンプルが多く必要になるという問題を抱えている. 本研究では,Drop Outや選択的不感化ニューラルネットの操作を基に,深層学習モデルの内部処理をある値に合わせて切り替える機構を開発・提案する.異なるグループの被験者に対し,深層学習モデルを一部共有することで,従来よりも少ない学習サンプルで対応できる可能性がある. 本研究では,生体信号からの睡眠ステージ(レム睡眠等)判定課題を対象に,本提案手法の有用性を検討する.
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研究実績の概要 |
本研究は,睡眠臨床における重要な検査の一つである睡眠ステージ判定の自動化に関するものである.近年では深層学習による判定モデルが主流であるものの,被験者の個人差(年齢・病歴等)によって判定精度が安定しない課題を有している.選択的不感化と呼ばれる浅層ニューラルネットの手法を応用した処理の切り替え機構を用いることで,睡眠特徴波の違いやステージの割合,変遷の違いに対応できると考えている. 2023年度は,本切り替え機構のプロトタイプ実装を行うとともに,主に被験者の年齢と睡眠時無呼吸症候群の重症度の2点について本手法を適用,その効果を検証した.結果としては,切り替え機構の導入により判定精度の向上が見られたほか,各被験者グループに特化したモデルを併用する場合よりも正確な判定が得られた.特化モデルとは異なり,異なるグループから得た学習サンプルを利用できるために特化でありつつ,学習サンプル数低下の影響を受けづらい構造になっていると思われる. 一方,手法の導入方法やハイパパラメータ設計に際してドメイン知識を多く必要とすることも判明した.また,本手法の導入により,モデルが過剰適合しやすくなる傾向もみられた.本提案手法は睡眠以外の領域にも適用できるが,ドメイン知識や学習サンプルの必要量を鑑みるに,医療分野への適用が最も有用ではないかと思われる. なお,本成果は国内会議DEIM2024データ工学と情報マネジメントに関するフォーラムにて公表済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中核的なアイデアであるパターンコーディングと選択的不感化を用いた深層学習モデルの切り替え機構の開発・実装が完了した.また,実際に睡眠ステージ判定モデルへ導入し,その有用性を確認できた.初期評価はほぼ完了しており,順調に進んでいると言える. 一方,本提案機構の導入方法についてはさらなる検討が必要であることが分かった.実験結果からは,今回実験に用いたモデルでは睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者に対する有用性が限定的であることが判明している.これは切り替え機構の導入方法に強く依存している可能性が高く,SAS患者に適した導入方法,モデル構造を検討する必要性が生じている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては,(1)切り替え機構の導入方法を含めた,睡眠ステージ判定モデルのさらなる改良,(2)アテンション機構との比較,(3)ステージ判定モデルのパーソナライズ化(4)連合学習との関連性の検討,さらなる適用範囲の拡大,の4点を検討している. (1)23年度の研究では,SAS患者に対する精度の改善効果があまり見られなかった.これはステージ分布・変遷といった,「健康的な被験者とSAS患者の違い」と特徴波の違いに焦点を当てた「提案手法のモデル導入方法」の食い違いによるものと思われる.ステージの分布や変遷の違いに対応しやすい形で提案手法を導入,評価を行う必要がある.また,ステージ判定モデル自体も,より精度の高い,判定対象の前後エポックを考慮したモデルに変更する予定である. (2)今回提案している切り替えの操作は,アテンション機構を用いても再現できる可能性がある.提案手法の方が判定精度や計算量に優れることが予想されているが,これを実験的に確かめる必要がある. (3)患者一人一人に対して適切なマスクパターンを与えることで,睡眠ステージ判定のパーソナライズ化が可能と考えている.被験者本人の計測記録を大量に学習させなくとも,似た睡眠特徴波,睡眠傾向を持つ人から得たサンプルが十分にあれば高精度の判定が可能と予測される.ただし,現時点では睡眠特徴波や睡眠傾向を参照して適切なマスクパターンを生成する方法がなく,開発することが望ましい. (4)研究を進める中で,本手法は連合学習の一手法と捉えられる可能性に思い至った.連合学習のように2つ以上の異なるコホートを上手に組み合わせて学習を進めることも本切り替え機構であれば可能であると思われ,その可能性を検討する必要がある.
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