研究課題/領域番号 |
23K16998
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分62010:生命、健康および医療情報学関連
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
坂 知樹 東京電機大学, システム デザイン 工学部, 助教 (60826577)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
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キーワード | 深層学習Perfusion / AI血流解析 / 多入力系ファントム / 肺血流 / 深層学習 |
研究開始時の研究の概要 |
2023年は各種疾患の患者のPerfusion MRI・CTの画像データを取得し、血流解析の精度と速度の向上を図るための研究を行う。また、血流解析ツールに肺領域の自動選択機能を搭載することも目指している。2024年には、血流解析の定量解析精度評価、結果と病変の進行度の相関の分析、論文初稿を行う予定である。具体的には、肺シンチグラフィ所見との比較を行うことで定量値の解析精度を検証することや、各種症例のPerfusion画像に対して機能血管と栄養血管を分離して、それぞれの系の血流量、血液量、平均通過時間と病気の進行を表す指標との相関を分析する。2025年には精度を改善し、論文受理を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、深層学習のアルゴリズムを搭載したPerfusion AI血流解析を通じて、Covid2019後遺症(以下、コロナ後遺症と称する)の病態を解明し、診断・治療の効率化を目指している。具体的には、Perfusion MRIやPerfusion CTを活用し、コロナ後遺症患者と健常者の血流パターンを比較し、コロナ後遺症のメカニズムを明らかにすることを計画している。これにより、コロナ後遺症の病態の理解を深め、効果的な診断法や治療法の開発に貢献することを期待している。
研究実績として、大容量GPGPU搭載のサーバを導入し、血流解析の並列処理を大幅に増やすことで処理の高速化を実現した。この取り組み、および血流解析アルゴリズムの改良により、膨大なデータをより効率的に処理し、研究の進行を加速させることができた。また、計画当初は予定していなかったが、「IFAC World Congress 2023, Yokohama, JAPAN」で発表を行った。これにより、国際的な舞台での研究成果の発信が早期に実現された。
さらに、これまではCUIで作成したサンプルであったが、医師にとっては扱いづらいという課題があった。そのため、GUI化して改善を試みている。このGUIを用いた解析と、従来の血流解析手法との精度比較実験を実施し、提案手法の高い精度を確認できたため、The International Federation of Automatic Control (IFAC)に論文を投稿し、現在査読中である。この論文を通じて、研究成果の詳細な分析と有益な知見の共有を目指している。コロナ後遺症患者のデータ取得については今後も懸念が残るが、血流解析システムとして汎用性を高めて多くの病態解明に繋げたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺血流Perfusion解析の研究では、深層学習アルゴリズムを搭載した「モデルレスの血流解析手法」を提案した。また、提案手法と従来のモデルベースおよびモデルレスの手法との比較を行い、その有効性を実験によって評価した。具体的には、深層学習の畳み込み演算を活用して、インパルス応答を直接推定し、多入力の血流成分を同時に解析することを実現する手法を提案した。この比較実験により、提案手法は実装が容易であり、低い推定誤差を示すことが確認された。また、波形解析を通じて提案手法を評価し、従来手法では解析が難しかった造影剤入力の遅延や分散の特性を示した場合でも、従来手法よりも優れた精度で解析できることが示唆された。さらに、左肺動脈が欠損している患者に対する血流解析が行われ、右肺では通常通り肺動脈血流が血流全体の9割を占めることが示され、他方で左肺は欠損している肺動脈の血流成分がほとんど流れておらず大動脈の成分が大部分を示された。これにより、提案手法の導入によって肺動脈の血流成分と大動脈の血流成分の両方を同時に解析できることが示された。以上の進捗をIFACの論文誌に投稿しており、おおむね順調に進展していると言える。
さらに、大容量のGPGPUを搭載したサーバを導入したことで、解析を多くのプロセスで並列化できるようになり、血流解析の処理速度が向上した。また、現在は医療機関で提案手法を実用するフェーズに向けて、CUIからGUIへの変換作業を進めている。GUI化により、医師がより直感的に操作できるツールを提供することを目指し、医師からのフィードバックを積極的に取り入れながら開発を進めている。
しかし、「定量解析」という点では評価ができていない。肺の血流の真値を求めることは難しく、血流の総量を心拍出量や肺シンチグラフィといった他の所見と比較する実験を行い、定量解析の評価を行っていくことが今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は2024年4月から8月まで育児休業を取得しているが、それが明け次第、血流解析アプリケーションの充実、共同研究先の医療機関におけるAI血流解析の環境構築、および多入力系の血流解析ファントム作成による定量解析精度の評価を行っていく。具体的には以下に示す。 まずは、医師が提案手法(AI血流解析)を容易かつ直感的に扱えるようなGUIを整備する。現在もGUIを構築中であるが、医師のフィードバックを反映しながらアプリケーションの最適化を図る。 次に、血流解析対象のデータの充実を図る。研究代表者の所属機関移籍に伴い、医用画像データの倫理審査が再度必要になった。研究代表者の所属機関では既に継続の審査が完了しているが、共同研究先の医療機関の審査が終わっていない。これを行うことにより、コロナ後遺症も含む多数の医用画像データで血流解析を行えるようになる。 さらに、共同研究先の医療機関にて、GPGPUサーバを用いて提案手法を使用できるようにインターネット環境を整える。これにより、サーバは研究代表者の所属先に設置しながら、研究代表者のみならず、共同研究先の医師が多数の症例で血流解析を行えるようになる。さらに、医療機関が直接血流解析できるようになることで、研究代表者には提供が難しかった秘匿性の高いデータの解析もできるようになる。これにより、症例の大幅増加が見込まれる。 その一方で、「定量解析」についての検討も深める。具体的には、肺に流入する肺動脈と肺静脈の2つの血管系を再現するファントムを予算内で構築できるか検討する。簡易的にでもこのファントムが実現できれば、これまでは難しかった多入力系の定量解析の評価が行えるようになる。このファントムを対象に提案手法とシンチグラフィ等の他所見と比較を行い、定量解析の精度を検証する。 以上の方策を通じて、肺血流Perfusionを用いたコロナ後遺症の病態解明の研究をさらに前進させる。
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