研究課題/領域番号 |
23K17025
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分63010:環境動態解析関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渋谷 未央 北海道大学, 低温科学研究所, 非常勤研究員 (70794973)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 海棲哺乳類 / 栄養段階 / 安定同位体 / アミノ酸 / 尿素サイクル / 同位体交換 / 高次捕食者 / CSIA-AA / グルタミン / グルタミン酸 |
研究開始時の研究の概要 |
アミノ酸の安定窒素同位体比を用いた栄養段階解析法は、生物の栄養段階を高精度で推定できるが、海棲哺乳類(海洋生態系の高次捕食者)には適用できない。海棲哺乳類では尿素サイクルに伴い、グルタミン酸-グルタミン間で同位体交換が起こるため、そして、その交換の影響を補正するために必要なグルタミンの同位体比分析法が確立されていないためである。そこで本研究では、①グルタミンの同位体比分析法を開発し、②①の分析法と標準添加法を組み合わせて、グルタミン酸-グルタミン間の同位体交換を評価する方法論を構築する。これらは、海棲哺乳類の栄養段階の正確な解析と、海洋生態系全体の物質循環の正しい理解をもたらすと期待される。
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研究実績の概要 |
アミノ酸の安定窒素同位体比を用いた栄養段階解析法(アミノ酸法)は、生物の栄養段階を高精度で推定できることから、生態系における物質循環の研究にブレイクスルーをもたらした。しかしアミノ酸法は、海棲哺乳類(生態系全体に影響を及ぼす頂点捕食者)に対して適用できないという重大な課題を持つ。その主な要因は、海棲哺乳類では尿素サイクル周辺において、グルタミン酸-グルタミン間で同位体交換が起こるためである。本研究の目的は、「①グルタミンの同位体比分析法の開発、および、②開発した分析法と同位体的マスバランス法を組み合わせて、グルタミン酸-グルタミン間の同位体交換を評価する方法論の開発」を行うことである。本研究の達成により、尿素サイクルに伴う同位体交換を補正し、海棲哺乳類の栄養段階の正確な解析の実現と、それによる頂点捕食者を含む生態系全体の物質循環の正しい理解をもたらすことが期待される。 本年度は、海棲哺乳類の体内で生じるグルタミン酸-グルタミン間で起こる同位体交換の影響を補正するために不可欠となる、「グルタミンの2つのアミノ基の窒素同位体比を別々に測定するための分析法」の開発を試みた。具体的には、同位体比が既知である標準試薬を用いて、グルタミン酸の同位体比はピバロイルイソプロピルエステル法で、グルタミンの同位体比はイソプロポキシイソプロピルエステル法(Shibuya & Chikaraishi, 2021)で、それぞれ誘導体化処理を行い、GC-IRMSで測定した。次に、得られた測定値と、同位体的マスバランス法を組み合わせることで、算術的にグルタミンの2つのアミノ基の窒素同位体比を導出することができた。これにより、現在は、開発した方法論を生体試料に対して応用するために、本検証に適した生体試料の検討と、生体試料からグルタミンを抽出する実験方法の検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、同位体比が既知である標準試薬を用いて、これまでに開発したグルタミンの同位体比分析法と、同位体的マスバランス法を算術的に組み合わせて、「グルタミンの2つのアミノ基の窒素同位体比を別々に測定する導出法」を開発することができた。これは、「海棲哺乳類の尿素サイクル周辺で生じるグルタミン酸-グルタミン間の同位体交換を定量的に評価する方法論」を確立するために不可欠である。今後は、開発した導出法を生体試料に応用するため、検証に適した生体試料の検討と、その生体試料からグルタミンを抽出する詳細な実験方法の検討をした上で、尿素、尿酸サイクルを持たない魚類などの生物で予備実験を行い、尿素サイクルを持つ海棲哺乳類への応用に繋げる必要がある。以上から、本年度は、本研究の基盤となる「グルタミンの2つのアミノ基の窒素同位体比を別々に測定するための導出法」を構築することができたため、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、同位体比が既知である標準試薬を用いて、本研究の基盤となる「グルタミンの2つのアミノ基の窒素同位体比を別々に測定するための導出法」を開発できたため、次年度以降は、「海棲哺乳類のグルタミン酸-グルタミン間の同位体交換を定量的に評価する方法論」の実用化と、確立に向けて、適切な生体試料の選定(どのような生物のどの組織、部位を本研究の測定試料として用いるか)と、選定した生体試料からグルタミンを抽出するための詳細な実験方法を検証する。グルタミンは、通常の誘導体化処理(GC-IRMSで測定するための前処理実験)の際に必要となる加水分解処理を行うと、グルタミンのδ位のアミノ基が脱離してグルタミン酸に変化してしまうため、グルタミンを抽出するための他の実験方法を検討し、それが適切かどうか検証する必要がある。それらを検証し、実験方法を確立した上で、まずは、尿素、尿酸サイクルを持たない魚類などの生物を用いて予備実験を行い、本年度に開発した導出法により、「予備試料におけるグルタミン酸-グルタミン間の同位体交換」の定量的な評価を試みる。最終年度には、それまでに構築した方法論を実際に海棲哺乳類に応用し、海棲哺乳類への実用化と、当該方法論の確立を目指す。
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