研究課題/領域番号 |
23K17195
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉永 司 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 助教 (50824190)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 声帯 / 流体構造連成解析 / 声質 / 有限要素法 / 仮声帯 / 披裂喉頭蓋 / 狭窄 / 病的声帯 / 軟組織 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,声の個人差まで捉えられる精度で予測できる発声シミュレーション手法を確立し,臨床現場における発声障害の治療に活かせる数値解析技術を構築する.医療画像から3次元の声帯モデルを構築し,病的な声帯振動から発生する音を予測できるようにする.解析により予測した音は,被験者の音声と比較することにより精度を検証し,音声の個人差が生まれる要因や,喉頭炎やインプラント挿入による声質への影響を明らかにする.さらに,手術前後における声の変化を予測することにより医師と連携して最適な治療術の提案を試み,病的声帯発声の治療へ貢献する.
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研究実績の概要 |
声の個人差まで捉えられる精度で予測できる発声シミュレーション手法を構築するため,主に声帯振動の3次元モデル化に取り組んだ.これまでの先行研究で用いられている声帯の単純形状モデルに対して,固有値解析により算出した各固有周波数の振動モードを足し合わせることにより,外力の時間変化に対応する過渡応答解析を実施し,3次元気流モデルと連成することにより,声帯の自励振動を表現した.3次元気流モデルではナビエストークス方程式を構造格子上で計算し,Volume Penalization法と呼ばれる埋め込み境界法の一種を用いることで,気流の計算格子を変形させることなく,声帯壁の領域を変化させ,3次元的な声帯の振動を気流の計算格子の中で表現した.この手法により,声帯同士の完全な接触も表現できる.これらの手法により,声帯が3次元的に振動した際の声帯周りの気流と音の発生を精度良く予測できるようになった.そして,声帯の上下振動がより強い場合には,声道での音の共鳴と連成し,声帯振動が不安定になることを明らかにした. また,声帯の下流にある仮声帯と呼ばれるひだや,披裂喉頭蓋と呼ばれる披裂軟骨と喉頭蓋による狭めが声質に与える影響を明らかにするため,声道を模擬した流路に向きの異なる狭窄流路を設置し,3次元的な空気の流れが声帯振動に与える影響を調べた.その結果,ひだの向きにより声帯振動に与える影響が異なり,声帯と同じ向きの仮声帯狭窄の方が披裂喉頭蓋よりも効率的に声を発声できることを示した. さらに,感染症拡散の原因となるエアロゾルが声帯振動からどのように発生するのかを調べるため,シリコーン樹脂でできた声帯模型に対して粘液を付着させて振動させることで,声帯からどのようにエアロゾルが発生するのかを計測した.その結果,声帯がより強く接触する振動において,より細かな粒子が多く発生することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は計画していた声帯モデルの構築以上に,様々な現象を調べることができた.まず,3次元的な声帯振動モデルを構築する上で,声帯の上下方向の振動を抑制できるモデルを構築してその影響を調べた際,特定の条件において声帯が不安定な振動を起こし,嗄声のように乱れた声となること見つけた.そしてその原因を調べていくと,声道の共鳴周波数と声帯の振動周波数が特定の倍数の比を持つ関係であることがわかった.つまり,音の共鳴周波数における強い圧力変動が声帯振動に大きな影響を及ぼし,声帯振動を不安定にさせることがわかった.一方,一般的なヒトの声帯振動となるように上下振動を抑制すると,この不安定な振動は抑制され,よりクリアな声となった.これらの結果から,声帯の上下振動を抑制することが声帯の音源と声道の共鳴のインタラクションを減らし,安定した声を出せることを示した.この結果はアメリカ音響学会誌に掲載された. さらに,シリコーン声帯モデルを構築する立命館大学の徳田功教授のグループとの共同研究として,声帯の振動がどのように感染症にかかわるエアロゾルの発生に影響するのかを明らかにした.振動様式の異なる2つの声帯モデルを用意して,それぞれのモデルに粘液を付着させて気流により振動させると,声帯が完全に閉じずに小さな声となった場合にはより大きな飛沫が発生するのに対し,声帯が閉じてより大きな声を発声させた場合には,より細かなエアロゾルが多く生成されることを明らかにした.この結果はJournal of Aerosol Scienceに掲載された.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては,医療画像から声帯や喉頭周りの軟骨および筋線維走行を抽出することで個人差を表現する声帯モデルを構築する.そして,筋線維モデルに収縮応力を与え,声帯ひだがどのように変形するのか,そしてその結果どのように声質が変化するのかを明らかにする.つまり,筋線維モデルへの刺激度合いを変化させることで声帯の内転時の形状変化を調べ,それらが気流によりどのように振動するのかを明らかにする.また,内喉頭筋と呼ばれる声帯周りの筋線維の走行は主に5種類あり,それぞれに違った刺激を与えた際にどのように声帯の振動特性が変化するのかを明らかにする.これらの解析により,どのように個人が様々な声色を使い分けることができるのかを明らかにする.さらに声帯の個人差や,病的声帯の声の変化を予測し,病的声帯からなぜ上手く声が出せないのかを明らかにすることを目指す.
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