研究課題/領域番号 |
23K17302
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤澤 利正 東京工業大学, 理学院, 教授 (20212186)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2029-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2028年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2027年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2024年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 低次元電子系 / 非熱的状態 / 朝永ラッティンジャー液体 / エネルギーハーベスティング / 量子ホールエッジチャネル / 熱電制御 / 非熱的準安定状態 / 量子ホール効果 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、可積分系の特徴を示す1次元系(朝永ラッティンジャー液体)と離散準位を示す0次元系(量子ドット)を結合した低次元電子系を用いて、この系特有の非熱的準安定状態とその輸送現象を探究することで、従来の平衡条件に近い熱電現象とは質的に異なる新規な機能性をもつ熱電制御の開拓を目指す。ランダウ占有率2の量子ホールエッジチャネルに現れる朝永ラッティンジャー液体を主な対象として、非平衡状態の励起方法や測定手法を開拓し、長寿命の非熱的状態の自由度や制御に関する研究を進める。また、非熱的状態の活用により、高性能な熱電素子や熱電回路の原理実証実験を行い、エネルギーハーベスト技術への設計指針を得る。
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研究実績の概要 |
本研究は、可積分系の特徴を示す1次元系(朝永ラッティンジャー液体)と離散準位を示す0次元系(量子ドット)を結合した低次元電子系を用いて、この系特有の非熱的準安定状態とその輸送現象を探究することで、従来の平衡条件に近い熱電現象とは質的に異なる新規な機能性をもつ熱電制御の開拓を目指している。ランダウ占有率2の量子ホールエッジに現れる朝永ラッティンジャー液体を主な対象として、非平衡状態の励起方法や測定手法を開拓し、長寿命の非熱的状態の自由度や制御に関する研究を進める計画である。また、非熱的状態の活用により、高性能な熱電素子や熱電回路の原理実証実験を行い、エネルギーハーベスト技術の設計指針を得ることなどを目的としている。具体的には、AlGaAs/GaAs半導体ヘテロ構造の微細加工によりメゾスコピック量子ホール系の集積熱電素子を作製し、極低温での精密熱電輸送測定・時間分解熱電測定により研究を進めている。 令和5年度は、量子ドット熱電機関を用いて、量子ホール系の朝永ラッティンジャー液体の非熱的状態からの熱電変換実験を行った。この系での非熱的状態のエネルギー分布関数は、2成分のフェルミ分布関数でよく近似できることを確認し、この特性により高い起電力の熱電特性を示すことを、実験と計算によって確認した。また、熱緩和した場合の最大効率(カルノー効率)を上回る熱効率が期待されることを計算で確認した。これらの結果は、本研究を進める上で重要な知見である。さらに、量子ドット熱電機関の基本特性についても研究を進め、量子ドットの励起状態の影響について調べた。2つのトンネル障壁を非対称にする(非熱的状態側のトンネル速度を小さく、低温側のトンネル速度を大きく設定する)ことで高い発電電流を維持できることを、実験と計算によって確認した。これらの結果は、量子ドット熱電機関の特性を最適化する上で重要な知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、朝永ラッティンジャー液体の非熱的状態を活用した熱電制御の開拓を目指している。2成分フェルミ分布関数で近似できる非熱的状態を再現性よく観測できたことは本研究を進める上で勇気づけられる結果であり、その結果として、高い起電力の熱電特性を実験的に示したことは、重要な一歩である。さらに、熱緩和した場合の最大効率(カルノー効率)を上回る熱効率が期待されること(数値計算)は、今後の研究を進める上で重要な予言であり、今後の実験が期待される。 また、電子が幅広いエネルギー範囲に分布している非熱的状態(2成分フェルミ分布関数)において、量子ドットの励起状態の影響は重要な懸念である。励起状態によって、不要な熱流が発生し、発電効率が著しく低下する懸念があった。この問題を2つのトンネル障壁を非対称にする(非熱的状態側のトンネル速度を小さく、低温側のトンネル速度を大きく設定する)ことで解決できることを実験と計算によって確認した。これらの結果は、量子ドット熱電機関の特性を最適化する上で重要な知見となり、今後の研究にも活かすことができる。 このほか、量子ホールエッジ状態における高エネルギーの電子(ホットエレクトロン)の電子電子散乱過程を調べることで、電子間で交換されるエネルギーに上限があることを見出した。これは、単一電子状態のホットエレクトロンと多体電子状態の朝永ラッティンジャー液体との移り変わりに関する知見であり、朝永ラッティンジャー液体を活用する本研究においても重要な知見となる。 以上の研究の進展があったことから、本研究は順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度の成果をもとに、朝永ラッティンジャー液体の非熱的状態を活用した熱電制御の開拓を進める。量子ドット熱電機関を用いた非熱的状態からのエネルギーハーベスティングにおいて、熱効率を調べる方法について検討を進め、仕事を得る実験条件から類推する方法、実験的に測定する方法について研究を進める。熱緩和した場合の最大効率(カルノー効率)を上回る熱効率が得られることを示すことができると、インパクトの大きな成果に繋がると考えられる。 また、熱効率としては単一準位のみを用いた量子ドット熱電機関が好ましいが、励起状態を活用することで発電の電力を大きくできると期待される。このように、熱効率と発電量という観点で、系統的な研究を進めてゆく方針である。 量子ホールエッジ状態における高エネルギーの電子(ホットエレクトロン)について、令和5年度の成果をもとに研究を進め、ホットエレクトロンに対して高分解能なエネルギー分光を可能にする丘上量子ドット(hilltop quantum dot)を開発し、エネルギー分光手法を確立するとともに、電子電子散乱による交換エネルギー上限の評価を行うことができることを明らかにする論文の出版を目指している。この知見を活かして、朝永ラッティンジャー液体に、顕著に非平衡な非熱的状態を形成することができると期待している。 これらの研究を実施するため、所望の素子構造を設計し、電子ビーム露光などによりAlGaAs/GaAs半導体ヘテロ構造を微細加工し、メゾスコピック量子ホール系による集積熱電素子を作製する。得られた試料は、希釈冷凍機などの極低温環境において、精密熱電輸送測定・時間分解熱電測定を行うことで実験データを収集する。得られた実験結果は、非熱的状態を仮定した輸送特性や熱電特性の計算と比較することで、物理的な解釈に繋げる計画である。これらを総合して研究を遂行する。
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