研究課題/領域番号 |
23K17306
|
研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
濱 広幸 東北大学, 電子光理学研究センター, 教授 (70198795)
|
研究分担者 |
南部 健一 東北大学, 電子光理学研究センター, 技術専門職員 (00422072)
武藤 俊哉 東北大学, 電子光理学研究センター, 助教 (10431496)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
25,740千円 (直接経費: 19,800千円、間接経費: 5,940千円)
2026年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2025年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2024年度: 10,660千円 (直接経費: 8,200千円、間接経費: 2,460千円)
2023年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
|
キーワード | 超放射自由電子レーザー / ファイバーレーザー / テラヘルツ / 光陰極型電子銃 / 自由電子レーザー / 超放射 / 光電場 |
研究開始時の研究の概要 |
誘導超放射とよぶ放射理論に基づくテラヘルツ周波数域の自由電子レーザー(FEL)を構築し、実験室レベルで発生可能な1MV/cmの光電場強度をはるかに超え、世界がまだ到達していない 100M V/cmの光電場強度を持 つシングルサイクルの光パルス生成を目指す開発研究である。超高光電場パルスはフォノンモードや磁性体中のスピン波励起するなど様々な非線形現象を引き起こし新たな機能の情報をもたらし、高温超伝導材料の多機能化や次世代通信・記録デバ イスのスピントロニクス技術に大きく貢献すると期待される。この新奇な誘導超放射FELシステムは、大型施設に依存せずに最先端の学術研究を推進すると強く期待できる。
|
研究実績の概要 |
テラヘルツ域の超放射を利用した自由電子レーザー(FEL)を実現するために、現在用いている東北大学t-ACTS施設の高輝度高周波電子銃を光陰極型に改装を進めている。超放射FELは目的波長よりも十分に短いパルス長を持った電子ビームとの相互作用で発振する。従来のプリバンチドFELと呼ばれている手法に近いが、t-ACTSno 電子バンチ長は目的波長の1/10以下であるため、電子が集群してゆくバンチング過程がないのが超放射FELの特徴である。t-ACTS加速器は25μm程度の非常に短バンチを発生でき、テラヘルツ領域の超放射FEL発振の可能性は高いが、電子ビームのバンチ電荷量が足りない。また、共振器を用いるFELであるため電子バンチは共振器を往復する光と同期していなければFEL相互作用が起きない。したがって、共振器中の光パルスの往復時間と加速高周波に同期して電子ビームを発生するためのレーザーシステム構築が本研究の最初のステージである。 本研究で開発するレーザーを光陰極に照射して電子を発生させるシステムにおいては、Yb(イッテルビウム)をドープした光ファイバーレーザーをオッシレータ(励振器)として用いることとした。近年の技術的進展が速いファーバーレーザーは非常にコンパクトでありまた容易に数ピコ秒のレーザーパルスを生成できるために、非常に適しているが、加速器の光陰極電子銃のドライバーに用いられている例はまだ非常に少ない。同期したタイミングでファイバーレーザー発振を得る前の技術的段階として、まずファイバー内部の縦モードに同期したモードロック発振技術を確立しなくてならない。高価な完成品を購入するのではなく、種々の関連パーツを取り揃えて開発を開始した。 一方では、超放射FELについては、従来のシミュレーションコードは対応できないため、新たに超放射FELに目的を絞った2次元計算コードの開発も開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ybをドープしたファイバーレーザーはコンパクトでありまた容易に数ピコ秒のレーザーパルスを生成できるために、本研究の目的に良く適している。t-ACTSの加速高周波(2856MHz)と40MHz(FELに用いる約4mの光共振器の往復光路長で決まる周波数)に同期するレーザー発振を得る前にモード同期発振運転を確立しなくてならない。研究グループメンバーはこれまでレーザーの経験がほとんどないことから、ファイバーレーザーの原理的な基礎を理解するために、基礎からファイバーレーザーを学んで理解することが非常に重要であるため、高価な完成品を購入せずに、レーザーシステム構築に必要な種々の関連パーツを年度末までに取り揃えて開発を開始した。ファーバーレーザーはファイバー長を精度良く調整する必要があり、ファイバーの切断と溶着を何度か行うがこのための装置を東京大学から借入れた。また励起光源であるフォトダイオードに反射光が侵入してこれを破壊する事故も発生したが、まずは習熟中である。モード同期発振はまだ得られていないが、非常に近い将来に達成でると予想できるので、ここまでの開発は概ね順調と言ってよい。 GENESYS1.3という最も広く使われている従来のFELシミュレーションコードは波長より短い電子パルスに対応していないため、超放射FELの計算はできない。そのため新たに目標を絞った2次元計算コードの開発も開始した。これはマックスウェル方程式の時間発展を逐次積分計算する手法を用いており、最初の取り掛かりとしてアンジュレータ放射を計算するところからコードを開発している。現在までにコード開発の進捗に大きな遅れは生じていない。
|
今後の研究の推進方策 |
光陰極電子銃の実用を早期達成するために、研究2年目にはYbファイバーレーザーのモード発振を確立し、電子の加速高周波に同期したオッシレータ発振を実現する。また、Ybファイバーレーザーは100フェムト秒のレーザーパルスの生成が可能であため、EO結晶(電気光学変調素子)と組み合わせたバンチ長測定システムを構築してレーザーの加速器応用を広げる。これまではビームをアルミ箔に衝突させて発生するコヒーレント遷移放射の分光測定を行い、ガウス形を仮定した対称なバンチ長を推定してきた。EO結晶によって非対称な形状もある程度観測可能と考えており、精密なバンチ形状を知ることができる。 現在保有している光共振器ミラー設置用の真空槽を用いたFEL装置全体の構成の詳細設計も2年目から開始する。またこの装置で達成可能な超放射FELをシミュレーション計算で見積もることも大きな課題である。この計算におけるCPU時間は非常に長いと見込まれるので、コード開発は3年目の完成を見据えて進展させる必要がある。また、超放射FEL理論の第一人者であるテルアビブ大学のAvi Gover教授と密な議論機会を儲ける予定であったがイスラエルの周辺における戦争の先が見通せないことから、当面は棚上げせざるを得ないが、状況好転の機会を逃さないようにしたいと考えている。
|