研究課題/領域番号 |
23K17323
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山下 太郎 東北大学, 工学研究科, 教授 (60567254)
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研究分担者 |
三木 茂人 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所神戸フロンティア研究センター, 室長 (30398424)
松枝 宏明 東北大学, 工学研究科, 教授 (20396518)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2025年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
2024年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2023年度: 11,830千円 (直接経費: 9,100千円、間接経費: 2,730千円)
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キーワード | 超伝導薄膜 / 光子検出器 / 遠赤外帯域 / 超伝導 / 薄膜 / 遠赤外 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、遠赤外波長帯の単一光子を検出可能な超伝導光子検出器(Far-infrared superconducting single-photon detector; FI-SSPD)の実現を目指す。光と電波の中間に位置する遠赤外波長帯は、物性物理や生命科学等の幅広い分野の進展の鍵を握る波長帯だが、これまで遠赤外波長帯の単一光子検出の報告はほぼ皆無である。本研究では、原子レベルの高均一な窒化物超伝導超薄膜技術と量子効率評価手法、微視的理論モデルを確立することで、物質同定に重要な指紋領域と呼ばれる波長10 - 20 μmの遠赤外光子を検出するFI-SSPDを世界に先駆けて創出する。
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研究実績の概要 |
初年度として、遠赤外光子検出に重要となるサブmeV超伝導ギャップの実現に向け、MgO基板上にエピタキシャル成長可能なNbN薄膜の成膜条件探索を行った。その結果、膜厚5nmで約13Kの転移温度が得られた他、成膜時の窒素分圧の調整によりサブmeVギャップを示すNbN膜の作製に成功した。また、優れたMgO基板との格子整合性により、より高い均一性が期待されるTiN膜の作製と条件探索にも取り組み、膜厚10nmで3.8Kの転移温度(超伝導ギャップで0.7meV)の薄膜作製に成功した。以上を受け、作製したNbN膜及びTiN膜をワイヤ状に加工したデバイスをGM冷凍機に実装し、予備実験として2 Kにおける近赤外波長領域(~1.5um)の光照射実験を行った。その結果、NbN及びTiNデバイスによる、明瞭な光子応答の実証に成功した。さらに、光子検出メカニズム解明や遠赤外波長帯域への設計最適化を見据え、物性パラメータやワイヤ線幅に対する光子応答性を体系的に調べ多くの知見を得た。評価システム構築に関しては、本年度はこれまで研究開発を推進してきた近赤外波長領域よりも長い波長となる中赤外波長光子(2~7um)を超伝導光子検出器に導入するための手法について検討を実施した。検出メカニズムの解明に関しては、時間依存Ginzburg-Landau理論とMaxwell方程式に基づいて、光子吸収後に生ずるvortex-antivortex対のダイナミクスに着目し、光子検出メカニズムを明らかにするとともに、従来考えられてきたホットスポットモデルなどの適用範囲や限界などを議論した。並行して光子照射実験で得られた実験結果をもとに、開発を進めている理論モデルの妥当性を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、目標であるサブmeVの超伝導ギャップを示す超伝導薄膜の作製に成功している他、予備実験として近赤外波長帯域の光への光子応答も達成している。特にエピタキシャルTiN膜による光子応答実証は、知る限り世界で初めての成果となる。これは当初計画していたNbN膜とは異なる予想外の成果であり、今後の均一性の高いデバイス開発における新たな候補材料となる。量子効率の評価システムの構築についても、まずは中赤外波長光子を極低温冷凍機内に実装された超伝導光子検出器に入射させるための中赤外ファイバを選定、購入し、中赤外ファイバを冷凍機内部に導入するための真空ポートを新たに設計した。さらに、冷凍機内に導入された中赤外ファイバと超伝導光子検出器との結合方法について検討を行っており、着実に進展している。さらに光子メカニズムの解明に関しては、初期の光子吸収による加熱領域(ホットスポット)の現象論的な導入を行い、その後の超伝導秩序と電磁場の時間発展を詳細に解析した。ホットスポット面積や諸パラメータの取り方に応じて、vortex-antivortex対のダイナミクスが抵抗発生による光子検出に重要な場合と、ホットスポットの拡大で抵抗領域が生じるような従来型のホットスポット模型に類似した振る舞いを見せる場合があることが明らかとした。得られた実験データとの比較により、今後の理論モデル開発の方向性も検討が進んでおり、順調にモデル構築が進展している。以上により、評価システム構築と理論モデルの順調な研究進展に加え、サブmeVの超伝導ギャップを示す超伝導膜に関しては、新材料TiN膜による近赤外光子応答実証に成功したため、当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
超伝導薄膜とデバイス化に関しては、本年度に得られた成膜条件や光子応答に重要となる物理パラメータに関する知見を元に、NbN膜及びTiN膜をより線幅の小さいワイヤ加工を行う等、設計最適化を進めることで、高い量子検出効率を有するデバイス開発を進める。理論チームとの議論も随時行い、デバイス設計をブラッシュアップする。評価システムについては、中赤外光子を導入可能な測定系を構築し、開発を進めているサブmeV超伝導ギャップの単一光子検出器の評価を進める。また、次のステップとして本研究の最終目標となる遠赤外光子を冷凍機中に実装された超伝導光子検出器にどのように導入するかについて検討および整備を進めるとともに、遠赤外波長領域に存在する黒体輻射の影響を抑えるための手法についても検討を行う。検出メカニズムに関しては、上記の進捗により現実的な光子エネルギーで実験的にみられるような光子検出の振る舞いが再現できており、先行研究でその定量性が問題視されていたところが解決できている。ここまでの段階で充分インパクトのある論文となるため、現在論文執筆中である。またホットスポット領域の熱拡散をより少し正確に取り入れた解析を進める予定である。
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