研究課題/領域番号 |
23K17359
|
研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水谷 泰久 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (60270469)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2025年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2024年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2023年度: 11,960千円 (直接経費: 9,200千円、間接経費: 2,760千円)
|
キーワード | 分子ヒーター / 光熱変換 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、①高効率なタンパク質ヒーターの開発、②細胞内オルガネラ選択的加熱の検証、③熱による細胞操作技術の開発の3つのステップで、新技術を創出する。①においては、熱伝導機構解明の知見に基づいて、熱放出速度の高いタンパク質を合理的に設計し、高効率なタンパク質ヒーターを作製する。分子内熱伝導の向上を計測から検証し、設計にフィードバックすることで熱伝導性の更なる向上を図る。②においては、①で開発したタンパク質ヒーターを細胞内分子ヒーターとして利用し、特定のオルガネラを選択的に加熱できることを検証する。③においては、②で開発したオルガネラ選択的細胞加熱技術を用いて、熱による細胞操作技術を開発する。
|
研究実績の概要 |
2023年度は2つのタンパク質について加熱能を調べた。 一つは、人工的に設計されたマルチヘムタンパク質である。このタンパク質は1本のポリペプチド鎖に2個のヘムが結合する。このため、体積当たりのヘム濃度を高くすることができるため、より高効率な分子ヒーターとして利用できることが期待される。まず、このタンパク質を発現するプラスミドを作製し、大腸菌で発現したマルチへむタンパク質を精製する手法を確立した。次に、質量分析および分光的定量法を用いて、ポリペプチド鎖とヘムの比を定量した。さらに、ラマン分光法を用いて水溶媒の温度上昇を観測した。マルチへむタンパク質を含む溶液に励起光として波長532 nmのCW光を照射し、波長405 nmのCW光でラマン散乱を観測した。2800-3800 cm-1のOH伸縮振動バンドに変化が見られ、この変化は水の温度上昇に帰属できた。実験結果から、100 mWのポンプ光照射により水溶媒の温度が5.0 K上昇することが明らかになった。 もう一つは、無蛍光性色素タンパク質であるShadowRである。このタンパク質はアミノ酸残基側鎖から自発的に発色団を形成するため、マルチヘムタンパク質中のヘムのような補欠分子属を必要としない。そこで、このポリペプチド鎖のみからなるタンパク質が光熱変換分子ヒーターとして作動するかを調べた。ShadowRを光励起すると、水溶媒のOH伸縮振動バンド強度が変化したことから、加熱光照射によって溶液の温度上昇が起きていることがわかり、ShadowRが分子ヒーターとして利用可能であることを実証できた。さらに、ShadowRは光励起後励起三重項状態を生じる結果、一重項酸素を生成することを明らかにした。この性質はShadowRがヒーターとしてだけではなく、一重項酸素の生成による細胞操作にも活用できる可能性を示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
天然のタンパク質だけではなく、de novoタンパク質にも対象を拡大し、ヘムタンパク質が高い加熱能を持つことを実証した。また、ShadowRについては、高い加熱能を持つことを実証したことに加え、一重項酸素生成能をもつことを明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度に作製したタンパク質分子ヒーターを細胞内分子ヒーターとして利用し、特定のオルガネラを選択的に加熱できる手法を開発する。オルガネラのサイズは可視光の波長よりも小さいため、オルガネラのサイズ以下に可視光を集光ことはできない。このため、オルガネラ選択的な加熱は、集光による空間分解では実現不可能であり、オルガネラ選択的にタンパク質ヒーターを発現させることによって初めて可能になる。 細胞質内で生合成されたタンパク質は、シグナルペプチドと呼ばれる、アミノ末端あるいはカルボキシ末端に存在する3から数十残基ほどのペプチド配列によって、細胞内での輸送および局在化が制御されている。タンパク質ヒーターにシグナル配列を連結した融合タンパク質を作れば、それはオルガネラ局在タンパク質ヒーターとして機能する。そこで、原理検証として、細胞内で発現したタンパク質を、シグナルペプチド配列に応じて特定のオルガネラに局在させ、この状態の細胞に対して光照射することによって、タンパク質ヒーターが局在したオルガネラのみを高効率かつ選択的に加熱可能であることを実証する。 これらに加えて、特徴的な立体構造をもつ他のヘムタンパク質についても加熱能を検証し、操作ツールとしてのタンパク質ヒーターの種類を増やしていく。
|