研究課題/領域番号 |
23K17367
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分35:高分子、有機材料およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中野谷 一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90633412)
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研究分担者 |
儘田 正史 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60625854)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,740千円 (直接経費: 19,800千円、間接経費: 5,940千円)
2025年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
2024年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
2023年度: 11,050千円 (直接経費: 8,500千円、間接経費: 2,550千円)
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キーワード | 近赤外有機EL / 重水素 / Near-Infrared / 近赤外有機EL素子 / エネルギーギャップ則 |
研究開始時の研究の概要 |
近赤外(NIR)光は、センシング用光源として利用されるなど、産業的な価値が大きい。そのため、NIR発光を示す有機EL素子(NIR-OLED)は、OLEDの特徴と組み合わせることで、ディスプレイ応用を超えたOLEDの新たな価値を創造することができると期待される。しかし、一般的なNIR発光色素の発光量子収率は、エネルギーギャップ則に阻まれ極めて低い値に留まっている。そのため、現状のNIR-OLEDにおけるEL効率は実用的な水準に達していない。そこで本研究では、高効率NIR発光分子の創出およびデバイス物理を開拓することで実用的なNIR-OLEDを実現し、OLEDの新たな価値を創造する。
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研究実績の概要 |
本研究の最終的な目標は、エネルギーギャップ則を打破する高効率近赤外(NIR:>900nm)発光色素群と高性能NIR-有機EL(OLED)を開拓し、社会実装に向けた開発までを一貫して実施することでディスプレイとは異なるOLEDの新たな価値を社会に提案することである。 R5年度においては、1)NIR発光色素に適した低エネルギーバンドギャップホスト材料の開発、2)マイクロOLEDディスプレイ用駆動回路基板とNIR-OLEDの融合、3)高効率NIR発光の実現に向けた重水素化NIR発光分子の開発に焦点を絞り研究を進めた。1)に関しては、熱・電気化学的に高い安定性を有する2,1,3-Benzothiadiazole(BT)骨格をベースとし、種々のドナー基を置換したホスト材料を合成・評価し、非対称ドナー基を有するPCz-BT-mCzPhが優れたOLED特性を示すことを明らかとした。2)に関しては、CMOS回路基板上にトップエミション型NIR-OLEDを融合したNIR-OLEDプロジェクターを試作し、発光ピーク波長940 nmで外部量子効率1%を示す高効率NIR-OLEDの開発に成功した。NIR-OLEDプロジェクターの画素数は230400画素であり、各々のピクセルをアクティブ駆動することができ、任意パターン・強度でNIR光を投影可能である。このプロジェクターを用いて、世界初となるNIR-OLEDを用いた物体表面の三次元計測にも成功している(Yamada et al., Sci. Adv. 10, eadj6583, 2024)。3)に関しては、NIR発光色素とホスト材料の両方を重水素化することで、軽水素体の場合と比較して、その発光量子収率がおよそ3倍に向上することを見出した。これは、発光分子のみならずホスト材料の分子振動も非放射失活過程の抑制に極めて効果的であるという事実を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
R5年度においては、NIR-OLED用狭バンドギャップホスト材料の開発にまず取り組んだ。ホスト材料にはバイポーラ特性が望まれるため、その骨格にはドナー・アクセプター構造を採用した。アクセプター基として高い熱・電気的安定性を持つ2,1,3-Benzothiadiazole(BT)基を、ドナー基にはHOMOを調整するために9-phenylcarbazole (PCz)、triphenylamine (TPA)、meta-linked triphenylamine (mTPA)、meta-linked phenylcarbazole (mCzPh)などを選択し、対称型D-A-D構造、非対称型D-A-D’構造を有する種々のホスト材料を設計・合成・評価した。その結果、非対称ドナー基を有するPCz-BT-mCzPhが優れたOLED特性を示すことを明らかとした。また開発したホスト材料を用い、CMOS回路基板上にトップエミション型NIR-OLEDを融合したNIR-OLEDプロジェクターを試作し、発光ピーク波長940 nmで外部量子効率1%を示す高効率NIR-OLEDの開発に成功した。NIR-OLEDプロジェクターの各ピクセルをアクティブ駆動することで、任意パターン・強度でNIR光を物体表面へ投影し、世界初となるNIR-OLEDを用いた物体表面の三次元計測にも成功している(Yamada et al., Sci. Adv. 10, eadj6583, 2024)。試作したNIR-OLEDは、300時間連続駆動しても劣化せず極めて安定性が高い。またさらに、NIR発光色素とホスト材料の両方を重水素化することで、軽水素体の場合と比較して、その発光量子収率がおよそ3倍に向上することを見出した。以上の研究進捗状況より、本年度までの研究進捗状況は順調に進展していると自己判断した。
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今後の研究の推進方策 |
R5年度実施の研究を通し、以下二つの重要な知見を得た。1)NIR発光分子自身の分子振動のみならず、周囲のホスト分子との振電相互作用がNIR発光色素の非放射失活過程に大きく影響をしていること、2)NIR-OLEDとマイクロディスプレイ回路を組み合わせることで物体表面の三次元計測が可能であること。R5年度で試作したNIR-OLEDの外部量子効率は1~2%であり、その出力パワーは3.8 WSr-1m-2程度である。今回検討を行った三次元計測において、NIR光源と物体との距離はおよそ7 cm程度であり、より実用的な応用に向けてはNIR-OLEDの高効率化が必要不可欠である。そこでR6年度においては、NIR発光分子の発光量子収率を高めることを優先課題として取り組む計画である。特にNIR発光色素とともにエネルギーアシスト材料として用いているTADF分子の重水素化について検討を進める計画である。NIR発光色素の開発に関しては、より長波長のNIR発光を得ることを目的として、現在ドナー基として用いているtriphenylamine基ではなく、さらにドナー性の高いフェノキサジン基などについても検討を進める計画である。またさらに、エルビウム錯体や白金錯体などの重水素化についても検討を進め、NIR発光色素の高効率化を目指す計画である。
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