研究課題/領域番号 |
23K17373
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分37:生体分子化学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村田 道雄 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (40183652)
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研究分担者 |
篠田 渉 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (70357193)
花島 慎弥 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (50373353)
杉山 成 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 教授 (90615428)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,740千円 (直接経費: 19,800千円、間接経費: 5,940千円)
2025年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 6,760千円 (直接経費: 5,200千円、間接経費: 1,560千円)
2023年度: 16,250千円 (直接経費: 12,500千円、間接経費: 3,750千円)
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キーワード | 脂質二重膜 / 脂肪鎖 / 立体配座 / 固体NMR / 平均配向 |
研究開始時の研究の概要 |
生体膜には脂質ラフトで代表されるドメイン構造は、脂質の自発的な相分離に起因しており、その消長はシグナル伝達を司る膜タンパク質の局在などに決定的な影響を与える。一方で、脂質ラフトが脂質相分離によって形成される分子機構には不明な点が多い。最近になって、生体膜のドメイン構造は非常に小さく、短寿命であることが分かり、静的な描像では把握できない相状態が生物的に重要であるとの認識が広がっている。本研究では、分光学的実験と計算科学によって求めた脂質アシル鎖の平均配向を指標として用い、脂質膜ドメイン構造を司る相状態を定量的に評価することによって、細胞膜のドメイン構造について共通概念を確立することを目的とする。
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研究実績の概要 |
生体膜には脂質ラフトで代表されるドメイン構造が存在するが、脂質ラフトのような固いドメインが相分離によって形成される分子機構には不明な点が多い。この固いドメインは飽和脂質とコレステロールを多く含む。本研究では、分光学的実験と計算科学によって求めた脂質アシル鎖の平均配向を指標として用い、微小で短寿命の脂質膜ドメイン構造を司る相状態を定量的に評価することによって、細胞膜のドメイン構造について共通概念を確立することを目的とした。 本年度の主な実績は、脂質の標識体を化学合成を終えて固体NMRを測定したことである。本研究の目的である。固いドメイン(Lo相)の形成に必要な飽和脂質のNMRデータは、膜に対して脂肪鎖の平均配向が少し傾いていることを示しており、これは当初の予想をある程度裏付ける実験結果であると云える。また、分子動力学計算においても、当初の予想をある程度支持する結果が得られている。一方で、不飽和脂肪酸結合脂質(例えばPOPC)については、標識脂質の合成には成功したものの、飽和脂質のような明確な平均配向は示さなかった。今後、不飽和脂肪鎖についても、生体膜マイクロドメインを特徴づけるパラメータを見つけ出し、膜物性の定量的評価に道を拓くことを目指して行く。 一方、後述するように研究分担者の変更に伴って研究計画を変更することになり、本年度の研究計画の一部を次年度以降に実施することとした(今後の研究の推進方策の欄に示した)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である生体膜マイクロドメインを特徴づけるパラメータを見つけ出すためには、標識脂質を効率的に化学合成することが重要である。この点については、我々の過去の技術的集積を生かして、炭素13と重水素の2種の同位体を位置選択的に導入した標識脂質を調製するための合成ルートを確立することができ、研究に必要な同位体標識脂質を約10種類得た。また、これらを用いて固体NMRによって脂質二重膜中における重水素の四極子分裂と炭素13-重水素間の磁気双極子相互作用を高精度で測定することに成功した。これら実験データは本年度の成果として期待していたものであり、したがって順調に進捗していると判断した。 固体NMRの測定結果は、固いドメイン(Lo相)の形成に必要な飽和脂質が膜に対して脂肪鎖の平均配向が少し傾いていることを示しており、これは当初の想定に沿った実験結果であると云える。また、分子動力学計算においても、当初の予想をある程度支持する結果が得られている点も重要であると考える。本年度予定していた不飽和脂肪酸結合脂質については、標識脂質の合成には成功して固体NMRの測定を実施したものの、合理的な解釈には至っておらず、次年度以降にさらに検討する予定である(後述)。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はおおむね予定していた成果を挙げることができた。ただ、前述のように不飽和脂肪酸が結合した脂質については実験結果の解釈が困難であり、複数の平均配座が共存した系を適応する必要性があると考える。一方、この系では実験結果のみから脂質分子の立体配座と配向を一義的に決定することが著しく困難になる。今後、脂肪鎖の動的挙動(特に異方性の非対称性)を分子動力学計算からの示唆を大幅に取り入れて再検討する予定である。 研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での課題が生じたので詳しく述べる。申請時には代表者と所属を同じくした研究分担者が他大学に転出し、当該分担者の研究環境が変化したことにともなって次年度以降の研究計画を見直した。その結果、実験内容を一部変更して次年度以降に実施することにした。すなわち、脂質ドメイン構造における脂質間相互作用を記述するパラメータを検証するために、研究テーマとして当初予定していたものとは異なる実験系を新たに取り入れることにした。具体的には、リン脂質の脂肪鎖と挙動の異なる脂肪鎖として、リン脂質と構造の大きく異なる極性頭部を持つアシル化タンパク質の脂肪鎖に着目し、両者を比較することによって脂質に関するパラメータを明確化することとした。次年度以降に代表者が所属する機関において、新たな分担者とともに同位体標識を施したアシル化ペプチドを調製しすることを計画している。これらを固体NMR測定に供し、リン脂質について取得した実験データと詳細に比較することによって、脂肪鎖の深度や側方拡散における違いが分子挙動に与える影響を正確に評価する。すでに、予備的に行った実験では、脂肪鎖の極性頭部がペプチド鎖に置き換わった場合の影響について興味深い結果を得ており、今後は脂質マイクロドメイン形成における極性頭部の効果についてさらに実験を進めて行く予定である。
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