研究課題
挑戦的研究(萌芽)
日本の霊長類学者は、単に世界で最初に野生霊長類の研究を行ったことにとどまらず、人付け、個体識別、長期継続観察など、その後、世界中の動物研究者が採用し、現在では空気のように当たり前になった基本的な調査方法も編み出した。その成立過程を明らかにすることは、科学史研究の大きな挑戦である。本研究では、現場で実際に調査を行った研究者たちの膨大な一次資料に基づいて、霊長類学成立の実態を明らかにする。
霊長類学は、ヒトを含む霊長類を対象とした学際的研究分野である。日本では、世界に先駆けて、1948年に、野生ニホンザルの野外研究が開始された。人付け、個体識別、長期継続観察という独自の方法を用いて、世界を驚かせる成果をあげたのち、世界各地の霊長類にその研究対象を広げていった。日本の霊長類学者は、ヒトの本性を明らかにするため、進化の隣人である霊長類を研究する、という明確な意識を持っていた。同じ問題意識から、自然に強く依存して生きる人々を研究する生態人類学も勃興し、ヒトの進化を、遺伝子や化石によらず、その暮らしの面から明らかにする研究が、車の両輪として推進されてきた。初期の霊長類学者が残した未整理の写真や野帳には、霊長類学の科学史的資料価値を有するものが含まれている可能性が高い。これらは、血縁による順位継承のメカニズムの解明や、チンパンジーでの単位集団の発見など、日本人霊長類学者の重要な研究成果の過程をたどる、重要な一次資料である。当初、公的機関に研究の拠点を持たなかった霊長類学者は、渋沢敬三ら多くの民間人に支援を受けて海外調査を実施し、財団法人日本モンキーセンターを作り、最終的に、京都大学に自然人類学研究室や霊長類研究所を設立するに至った。これら社会的条件も、日本発のユニークな学問である霊長類学成立の過程を探る重要な要件である。貴重な情報を含む一次資料群を整理・アーカイブ化し、日本の霊長類学がなぜ世界に先駆けて大きな成果をあげたのかを解明することを、本研究の目的とする。遺族から応募者らに寄託された4名の霊長類学者の資料の整理を皮切りに、存命の複数の高齢の霊長類学者についても聞き取りと資料の整理を進めていく。4名の霊長類学者は、川村俊蔵(1924-2003)、伊谷純一郎(1926-2001)、西邨顕達(1938-2018)、西田利貞(1941-2011)である。
2: おおむね順調に進展している
川村資料についてはデジタル化をほぼ終了した。西田資料についてはデジタル化を実行中である。また、宮城教育大学名誉教授の伊沢紘生から、各地のニホンザル、およびアマゾン地域での調査資料の寄託を受けた。
新たに加わった伊沢資料を含め、寄託された資料のデジタル化を推進する。京都大学総合博物館の協力を得て、まず川村資料についてデジタルアーカイブの公開を目指す。
すべて 2024 2023 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
American Journal of Primatology
巻: 85 号: 12
10.1002/ajp.23555
Forest Ecology and Management
巻: 545 ページ: 121306-121306
10.1016/j.foreco.2023.121306
巻: 85 号: 7
10.1002/ajp.23502
https://www.ecology.kyoto-u.ac.jp/~hanya/index.html