研究課題/領域番号 |
23K17603
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分9:教育学およびその関連分野
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
樋口 和彦 広島修道大学, 人文学部, 教授 (80710110)
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研究分担者 |
渡邉 正人 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (60907773)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 仮想空間での学習 / 現実世界でのコミュニケーション / 共同注意行動の成立 / 学習モデル / 心理学と工学の融合 / 重度・重複障害児 / 視線入力装置 / ディスプレイ(仮想空間) |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、ディスプレイ内の仮想空間に対する重度・重複障害児の反応を、現実世界の他者とのコミュニケーションに発展させるための要件とその支援方法を検討する。重度・重複障害児の「仮想空間」と「現実世界」での応答の差の検証を行い、仮想空間と現実世界での活動を結びつけるための学習モデルを作成する。この過程で、工学系の研究者による「仮想空間での学習」、教育・心理学系の研究者による「他者とのコミュニケーション能力の育成」の2つのアプローチを融合し、「心理工学」というべき新たな展開を志向する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、ディスプレイ内の仮想空間に対する重度・重複障害児の反応を、現実世界の他者とのコミュニケーションに発展させるための要件とその支援方法を検討し、教育モデルを作成することである。重度・重複障害児の学習に取り入られるようになった「視線入力等による仮想空間での反応の育成」は、多くの学校・地域療育センター等で行われているが、視線入力を使用して表出した重度・重複障害児の行動は仮想空間内での反応にとどまっており、他者とのコミュニケーション行動に結びついていない。仮想空間で発現した反応をコミュニケーションとして発展させる方法を検討する必要がある。 本研究ではまず、仮想空間で、人の顔・表情や音声等の他者とのかかわりに関連する刺激を導入して評価尺度を作成し、被験者の詳細な評価を行う。次に、樋口(2021)の示した重度・重複障害児が、特有のやり方で共同注意行動を示すことを記した現実世界でのコミュニケーションの評価尺度で、被験児の詳細な評価を行う。これら2つの尺度を使用し、仮想空間と現実世界のつながりを検討する。 本年度は、特別支援学校及び地域療育センターを巡回し、視線入力を活用した支援の実態を観察した。その結果、次のような検討すべき問題が存在することがわかった。①キャリブレーションを正確に行わず視線入力装置を使用している状況がある、②視線入力装置による対象者の反応を人とのかかわりに拡大しようとする視点を持たず指導している場合がある、③人とのかかわりに関する理論(共同注意やコミュニケーションの発達等)の理解をせず対象者にかかわっている指導者が存在する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特別支援学校及び地域療育センターを巡回し視線入力を活用した支援の実態を観察した。視線入力装置は通販等で販売されているキットを利用することで容易に導入できる状況であった。また、方法を簡便に説明した資料も販売されており、重度・重複障害児の指導経験が少ない教諭や指導員からOTやPT等の専門職までもが視線入力装置を利用していた。 しかし、使用の実態を観察すると、次のような検討すべき問題が存在することがわかった。①キャリブレーションを正確に行わず視線入力装置を使用している状況がある、②視線入力装置による対象者の反応を人とのかかわりに拡大しようとする視点を持たず指導している場合がある、③人とのかかわりに関する理論(共同注意やコミュニケーションの発達等)の理解を持たず対象者にかかわっている指導者が存在する。 ①から③の起こる理由として次の要素が考えられる。①については、無料のソフトと通信販売等で安価に入手できる材料を使用し、視覚の認識過程の知識をもたず指導している例が多かった。②については、ほとんど応答が見られなかった重度・重複障害児の行動が変化すると、それだけで指導の目的を達成したと判断してしまっている。③については、指導者が人とのかかわりに関する理論(共同注意やコミュニケーションの発達等)の理解をもたないため、子どもの反応が発現した後、子どもに何を指導すればよいかイメージが持てない状況がある。 研究の計画では、ここまで述べてきた状況を作り出した原因を知るために、教員や指導員の状況をアンケート等でさらに検討する予定であったが、本年度の成果は、以上に留まっている。しかし、観察によって明らかになった事項は、アンケートでは知り得ない内容も含まれていた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度は、教員や指導員の視線入力装置を使用の意図を十分調査できなかったが、次年度は学校や地域療育センターと連携し、実際の指導を行っていくことにする。アンケート調査等を行わなくても、巡回による観察で、状況や実態はある程度つかむことができたと考えるからである。 研究の具体的な計画は、次の内容を考えている。①対象施設を巡回し、本研究のテーマに即した被検者の選定を行う。②担当する指導者に視線有力装置の使用方法を教授し、授業で利用できるよう支援する(特にキャリブレーションは正確にできるようにする)。③共同注意やコミュニケーションの理論を指導者に教授すると共に、対象者の人との応答関係を支援する方法を検討する。④②で発現したディスプレイ内の仮想空間に対する反応と③で発達した現実世界の他者とのコミュニケーションの関係を研究者間で協議する。 これらの計画に、様々な領域を専門とする協力者を招集し議論する。重度・重複障害児のコミュニケーション行動を専門とする研究者、視線入力等の研究を行っている工学系の研究者、視覚障害を専門とする研究者、対象者の担当者等で構成し、学際的な視点で検討していきたい。
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