研究課題/領域番号 |
23K17625
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分9:教育学およびその関連分野
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研究機関 | 日本社会事業大学 |
研究代表者 |
田村 真広 日本社会事業大学, 社会福祉学部, 教授 (90271725)
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研究分担者 |
高山 亨太 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (00869919)
日置 淑美 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (00869977)
斉藤 くるみ 東京大学, 先端科学技術研究センター, 客員研究員 (30225700)
西田 昌之 東北学院大学, 教養教育センター, 講師 (40636809)
藤井 佳子 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (40974936)
日比野 清 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (50310222)
斉藤 みか 上智大学, 基盤教育センター, 助教 (60851805)
末森 明夫 日本社会事業大学, 付置研究所, 研究員 (20357255)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2025年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 情報アクセシビリティ / コミュニケーション / 施策推進法 / ろう文化 / ユニバーサルデザイン / 情報保障 / 教養教育 |
研究開始時の研究の概要 |
障害者への「支援」「配慮」という視点を転換し、情報アクセシビリティを非障害者の教養教育に位置付け、大学教育の質を上げつつ障害者の排除をなくす研究である。 国連障害者権利委員会は、日本の障害学生の障壁に対処する包括的な政策の欠如を指摘し、Academic Ableismの解消は喫緊の課題となった。情報アクセシビリティの学習は、障害を持たない大多数の大学生にこそ必須のリベラルアーツなのである。 コミュニケーションの本質、多様な技術(日本手話等)と人権感覚を身につけることは汎用的な能力である。すべての学生のリベラルアーツ教育としての情報アクセシビリティの教授法・教材開発を行い、全国の大学へ普及する。
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研究実績の概要 |
本研究は障害者に対する情報アクセシビリティを「支援」「配慮」と捉えるのではなく、非障害者の教養教育に位置付けることを目標としている。 研究の課題は、(1) 日本の高等教育においてどのようなアクセシビリティ弱者が存在するか。(2) 情報アクセシビリティの視点からAcademic Ableismの原因は明らかにできるか。(3) 教育の場でのフォーマルな情報、ノンフォーマルな情報、インフォーマルな情報は、対面授業、オンライン授業、ディベート、ディスカッション、フィールドワークやサービスラーニングでどのように現れ、どう保障されるべきか。(4) 情報アクセシビリティにどのような学問分野が貢献できるか。(5) 開発したカリキュラム・教授法・教材はどのような効果があるか。であり、2023年度は(1)~(4)の答えを得るべく主に先行研究の収集、最近の日本および世界の動向の調査を行った。特に2022年以降の新たな動向として「情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」および「国連障害者権利委員による総括所見」の考察にも力を入れた。前者については障害者と非障害者が同一内容の情報を同一時点において取得できるようにすること、情報通信ネットワークの利用を情報通信技術の活用が謳われたことが画期的であり、後者については、包括的政策の推進が勧告されていること、理解しやすい意思疎通様式の開発・推進の手段の中に言語学・認知科学への示唆が多く含まれていること、さらにはろう文化の尊重など文化人類学や人権学に貢献する視点が含まれていることに注目した。 特筆すべきは(3)について、教育の場での情報アクセシビリティの改善にITがどのように活用できるか、新たに重度の障害者のIT専門家の協力を得てデザインしてみた。教育現場におけるユニバーサルデザインが提案できる展望が開けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、カリキュラム・教授法・教材の開発を目指して、以下の点に関する資料収集を行った。 (i) マジョリティ言語とマイノリティ言語の関係、(ii) 読む脳、話す脳、音で読む人、触覚で読む人等と最先端の脳科学研究の関係、(iii) テクノロジーと情報の関係(手話を読み取り日本語音声に変える技術、PCテイカーの技術。絵や図のデータ化)、(iv) 文化とアイデンティティ、(v) マイノリティ―の文化・芸術(デフアート、ブラインドアート、琵琶法師、瞽女、ウクライナの全盲吟遊詩人、ろうパントマイム等および先住民の芸術等)、(vi) 外国人・ディスレクシア・自閉スペクトラム症のためのやさしい日本語、(vii) 差別と虐待の歴史:ナチスの障害者安楽死、スターリンによるウクライナ全盲吟遊詩人等の大虐殺、障害者・少数民族・ハンセン病患者への強制優生手術等)、(viii) 障害とインクルーシブ社会~誰もが必ず障害者になる高齢化社会、(vii) 情報アクセシビリティの国際比較~障害支援とサービスラーニング。 更に、2022年以降の「情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」および「国連障害者権利委員による総括所見」の考察も行った。この中から上記の(i)、(iii)、 (iv)、(vi)、(viii)に関する指摘・示唆が得られた。これらから日本の高等教育においてアクセシビリティ弱者が存在することが明確になったと言えるし、すなわちAcademic Ableismが存在することが証明されたとも言える。インクルーシブ教育を受けられていない原因は情報アクセシビリティにあることも国内外から指摘されていた。重度肢体不自由の当事者、全盲の当事者、ろう者の当事者の分担研究者および研究協力者の参加によりIT利用の情報アクセシビリティの改善への道筋が方向づけられた。
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今後の研究の推進方策 |
情報アクセシビリティが多分野に関連すること、それを教養教育に活かすことは、可能であることは示せたため、今後は実際にどのような教材にするのか、収集した資料のスクラップ&ビルドを行い、コンテンツの確定を目指すことになる。特にITについては、自らが使えるようになること、知識として知ること、他者に説明できること、研究に活かせること、自ら開発に携われること等々、様々な段階・レベルがある。教養教育とは何かに立ち戻りながら考察する必要がある。 教材開発に関連して効果的な教授法の提示を目指す。教育の場でのフォーマルな情報、ノンフォーマルな情報、インフォーマルな情報を想定して、対面授業、オンライン授業、ディベート、ディスカッション、フィールドワークやサービスラーニング(実習)など、多様な方法で効果的に学べるようにすることを目指す。支援する学習者、支援される学習者双方が、その関係性の中で、共感したり対峙したりすることで、視野が広がるようなカリキュラムを構築したい。今のチームだけに拘らず、様々な障害のある人や、興味をもつ非障害者に協力してもらう予定である。最終的にはすべての学生のリベラルアーツ教育としての情報アクセシビリティ論の教育モデル・教授法・教材開発のアウトカムが、教養科目あるいは初年次教育・人権教育の科目として全国の大学に採用されることを期待する。試案は積極的に公表し、また国際学会でも発表し、海外の最先端の情報も収集したい。本研究のアウトカムが教養教育として広く採用されれば、差別解消法義務化で苦労している全国の大学の支援者不足や理解不足も、いずれ問題ではなくなることが予想される。
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