研究課題/領域番号 |
23K17626
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分9:教育学およびその関連分野
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
菊地 栄治 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (10211872)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2025年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
|
キーワード | 進路多様校 / 臨床 / 高校再編 / エンパワメント / 脱権力 / 臨床性 / 協働性 / コモン |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、「進路多様校」の多様なエンパワメント実践が生徒の卒業後の生活と意識に及ぼす影響を比較検証した上で、有意義な実践を持続可能にする条件(支援構造)を同定する。具体的には、行政施策や高校組織の実態と当事者の意味世界を十全に把握した上で、各校の文脈に応じて採り得る手立てを提示する。固定観念に縛られず当事者の経験と解釈を基に実践の意義を吟味し、実践や政策の意図を括弧に入れつつ、研究者や教師を含めた大人自身の認識が変えられていく関係性(臨床性)を重視する。あわせて、「進路多様校」が生徒の現実を真ん中に据えながら互いに学び合い協働的関係を構築する「もうひとつの高校づくり」の可能性を探る。
|
研究実績の概要 |
1.本研究課題にかかわる理論的な枠組みを構築するために、これまでの教育社会学研究のうち「格差研究」および「教師研究」に焦点を合わせて、とくに「脱権力」の視点から批判的なレビューを行った。人類学・経済学・哲学・行政学などの近接するディシプリンの分厚い知見に照らすとき、旧来の研究群の意識されざる前提が浮かび上がり、「進路多様校」を能力主義や実体論的な前提で考察することの限界が明確になった(日本教育社会学会全国大会で報告)。 2.「縮小期」の教育行政資料のうちとくにウェブ情報として入手できる「高校再編計画」や「高校教育関連審議会答申」等を収集し、設置主体(都道府県・政令指定都市)ごとに整理した。「少子化・過疎化→高校再編→高校間格差拡大→過疎化の進行・地域格差拡大」のプロセスは、機械的・数量的な判断基準にのみ依拠している段階を超え、丁寧な熟議が促されるケースも少なくない(なお、いったん責任主体を「地域に返す」という意味にとどまっている場合もある)。 3.本年度は、これまで学校づくりにかかわってきた大阪府立松原高校・同布施北高校に加えて、実践類型を意識しつつ大阪府立西成高校・和歌山県立南部高校・岩手県立大槌高校の3校を新たに加えて、各校の特徴をふまえた方法にもとづきつつフィールドワークを行った。小規模校の実態の特異性、各校の実践評価をめぐる恣意性、「進路多様校」の卒業生の所在把握の困難性などをふまえ、単純なパネルデータの量的・因果的分析の限界に気づかされることになった。数値に表せる研究成果を急ぐのではなく、学校づくりの当事者のエンパワメントを通して持続可能な教育実践の「支え」になるような研究を指向することの意義を深く認識するにいたった。その意味において、研究課題の「臨床的研究」の「臨床」とは何かをさらに徹底して考究していくことが不可欠の課題となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の3.で記したように、生徒のエンパワメントを促す取り組みの社会的意義をより丁寧かつ的確に把握する上で、単純な「パネルデータの蒐集」という旧来的な方法は必ずしも有効ではないことを確認することとなった。あわせて、各校の学校づくり等の諸実践に資する方法を当事者と協働して工夫していくことが知見の実践的有効性を高める上で有意義であると判断した。いずれにしても、研究の趣旨に照らせば比較的順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
当初想定していた高校が「高校再編対象校」になっていることが判明したため、対象校から除外することとした。あわせて、都市部の高校に対象が比較的集中していたことを反省的に捉え直し、大阪府立布施北高校の実践(デュアルシステム)を非都市圏で採り入れた和歌山県立南部高校を示唆的な取り組み校としてピックアップし、早速フィールドワークを実施させていただいた。今後は、本研究課題が「臨床的研究」にこだわったことをふまえて、質的研究に軸足を移しつつ実質的に意義のある研究として推進していきたい。
|