研究課題/領域番号 |
23K17654
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分12:解析学、応用数学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩木 耕平 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (00750598)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2025年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 位相的漸化式 / リサージェンス理論 / Stokes現象 / Painleve 程式 / クラスター変換 / 完全WKB解析 / パンルヴェ方程式 / BPS構造 |
研究開始時の研究の概要 |
重要な非線型微分方程式であるPainleve(パンルヴェ)方程式は長い研究の歴史を持つが、いまだにその全貌が解明されたとは言い難い。近年、位相的漸化式や共形場理論などの理論物理に起源を持つ数学的対象との関わりが明らかになり、その研究の歴史は新たな局面を迎えている。本研究ではBPS構造を用いてPainleve方程式の研究に新たな発展をもたらすことを目指している。
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研究実績の概要 |
理論物理学者の Marcos Marino (Geneva 大学) と共同で、位相的漸化式 (および位相的弦理論) の分配函数のリサージェンス性に関する研究を行ない, 分配函数に起こる Stokes 現象を明示的に記述する “予想公式” を発見した. この公式は, Stokes 現象により生じる指数関数的に小さな項を全次数に渡り明示的に与えるもので, これまで発見されていなかったものである. ただし, 我々の公式の導出において数学的に厳密ではない議論を重ねたので, 現時点では得られた公式は予想の段階であるが, 共同研究者 Marino らの先行研究においていくつかの例に関しては Pade 近似による数値実験で公式の有効性が確認されている. 理論物理の観点からは, これら指数関数的に小さな項の寄与は非摂動効果として理解されるべきもので, 近年活発に研究されている. 上記の予想公式は, 研究代表者の先行研究である 「位相的漸化式と Painleve 方程式の関係性」 に基づくある発見的な考察を通じて導出されたものである. 実は, 上記の予想公式を仮定すると 「Painleve 関数に対する Stokes 現象がクラスター変換を用いて記述される」 ということが導かれる. これは, この挑戦的研究の中で導出することを目標としていたものの一つであり, Marino とともに得た上記の公式はその核心に迫るものであるということが分かった. これらの成果に関する論文は執筆済みで, 既に数理物理学の論文も取り扱っている雑誌 「Symmetry, Integrability and Geometry: Methods and Applications (SIGMA)」 に掲載されている. また, スイスやカナダで開催された国際研究集会においても成果を発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように, この挑戦的研究の中で導出することを目標としていたものの一つである 「パンルヴェ関数の Stokes 現象とクラスター代数の関係性」 の確立に向けて, 重要な予想公式を初年度の段階で得ることができた. この予想公式の検証は、位相的漸化式や Painleve 関数のより深い理解へ繋がると期待される. 以上より, 研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は上記の予想公式の証明に取り組む予定である. 既存の WKB 解の Borel 総和可能性の証明手法を位相的漸化式に適用できるように一般化することで証明することを目指すが, まずは解決すべき命題を列挙し問題点の整理に取り組むことから始める. それと並行して, 位相的漸化式の分配函数のパラメータに関する漸近展開の研究にも取り組む予定である. すでに漸近展開の係数を機能的に求めるアルゴリズムの研究に着手しており, 例えば (不確定) 共形ブロックの展開係数が位相的漸化式から再現されることなどが部分的に確認されできている. また, 上記の漸近展開を楕円曲線のモジュラスで書き直すことで Eisenstein 級数による自由エネルギーの表示 (準モジュラー性) が得られることや, その表示が正則アノマリー方程式と整合していることも確認できた. これらの観察は楕円函数と Painleve 函数のより深い関係性について示唆的であり, 今後もこれらの結果について整理し, 論文としてまとめる予定である.
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