研究課題/領域番号 |
23K17667
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
家永 紘一郎 東京工業大学, 理学院, 助教 (50725413)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
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キーワード | 熱電効果 / 非平衡物性 / 第二種超伝導体 / 磁束量子 / エントロピー |
研究開始時の研究の概要 |
流体一般には、運ばれるエントロピーが高いほど粘性が高い、というトレードオフが知られ、熱電材料の性能向上を妨げる一因となっている。そこで、未解明である「粘性あたりのエントロピー」の最大化条件を調べるため、制御性に優れた系である超伝導体中の磁束量子を用いる。磁束量子はエントロピーを輸送でき、熱起電力を発生させる。さらに、高周波電流で磁束を振動させると粘性が減少する。エントロピーを維持したまま粘性だけを下げることができれば、熱起電力の増大が期待される。そこで本研究では高周波電流下という非平衡状態での熱電計測法の世界初の開発に挑む。得られた知見はスキルミオンや電荷密度波などの系へも波及する。
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研究実績の概要 |
本研究では,超伝導試料に直流の熱流を印加して熱電効果を測定する際に,同時に高周波電流を印加して試料中の磁束量子を交流駆動させることで,磁束量子のフローが熱電信号に与える影響を調べる.このため,磁束量子フローによる本質的な効果と,高周波電流の印加による発熱効果を分離する必要がある.そこで2023年度には,高周波電流をパルス状に印加して発熱を防ぎながら,その瞬間の熱起電力を計測するという測定方法を立ち上げた.試料には磁束が動きやすい超伝導体であるアモルファスMoxGe1-x(超伝導転移温度7K)を用いた.測定回路の試行錯誤の結果,パルス状に高周波電流が印加された瞬間の熱電信号をFFTアナライザーで時間分解計測することに成功した.さらに,発熱が生じない範囲の微小振幅の高周波電流を印加した時に,従来通りにナノボルトメーターで計測した熱電信号と時間分解計測した熱電信号が定量的に一致することを確認した.この測定系を用いて,高周波電流の振幅を増加させながら熱電信号を計測したところ,電流振幅の増加に伴って熱電信号が増大することが明らかになった.この起源を調べるために粘性と輸送エントロピーをそれぞれ見積もったところ,電流振幅の増加によって粘性が低下するだけでなく,予想外なことに輸送エントロピー自体も増加していることがわかった.「粘性が低下し,輸送エントロピーが増加する」という振る舞いは,これまで知られていたトレードオフを克服するものである.輸送エントロピーの増加は,磁束量子のフローに伴って磁束量子コア内部で電子励起が促進されることを反映したものと解釈される.以上の結果を踏まえて,今後は電流振幅をさらに増加させ,さらに温度や磁束量子の密度(磁場)などのパラメータを変えながら熱電信号を計測することで,最もエントロピー輸送効率および熱電信号が増大する条件を探っていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高周波電流をパルス状に印加することで発熱を防ぎつつ,その瞬間の熱起電力を計測するという測定方法を立ち上げることに成功した.この方法を用いることで,電流振幅の増加に伴って熱電信号が増大することが観測された.さらに,この熱電信号の増加が粘性の低下と輸送エントロピーの増加の両方に起因することが明らかになった.この「粘性が低下し,輸送エントロピーが増加する」という振る舞いは,これまで知られていたトレードオフを克服するものである.このように,研究は概ね順調に進行している.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果を踏まえて,今後は電流振幅をさらに増加させ,さらに温度や磁束量子の密度(磁場)などのパラメータを変えながら熱電信号を測定することで,熱電信号が最も増大する条件を探っていく予定である.さらに,本手法を用いることで,高周波電流が印加された非平衡状態における輸送エントロピーを計測できるようになった.駆動された磁束量子のフロー構造は電流振幅をパラメータとして非平衡相転移を示すことが知られているため,非平衡相転移とエントロピーの関係という未解明問題についても研究を進めていく予定である.
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