研究課題/領域番号 |
23K17689
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 雅人 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (00726599)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2025年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | パートンシャワー / 量子アルゴリズム / 量子コンピューター / モンテカルロ / 量子的重ね合わせ / 量子計算 / 加速器実験 / 古典・量子ハイブリッド |
研究開始時の研究の概要 |
素粒子の加速器実験において重要なパートンシャワーはこれまで古典的なアルゴリズムで研究されてきたが、この方法では異なるファインマン・ダイアグラム間の量子干渉効果を本格的に取り入れることはできない。そこで本研究は運動量の情報を取り入れた量子パートンシャワーのための量子・古典ハイブリッド アルゴリズムを提唱する。また、上記アルゴリズムを実際の量子デバイスに実装し,回路の簡単化・改良を行う。また、標準模型を超える物理のシナリオにおいて、量子効果を取り入れたパートンシャワーの効果の、素粒子実験での検出可能性について定量的に議論する。
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研究実績の概要 |
計画の初年度にあたる本年は、量子的なパートンシャワーと記述する量子アルゴリズムにおいて、運動学的なデータ(つまり、例えば放出される光子・グルーオンの運動量のデータ)を取り込む量子・古典ハイブリッドアルゴリズムを構成することに成功し、その成果をUC BerkeleyのChristian Bauer氏、So Chigusa氏と共に共著論文として発表した。(arXiv:2310.19881 [hep-ph]としてプレプリントサーバーにて発表後、すでにPhys. Rev. A 109, 032432 (2024) として掲載済み。)この研究では当初の目的を大きく超える成果が得られた。まず、古典的なモンテカルロ法において知られていたベトー(veto)というテクニックを量子・古典ハイブリッドアルゴリズムに(おそらく世界で初めて)持ち込み、量子アルゴリズムを大幅に簡単化することに成功した。実際、量子回路において必要とされる2-qubitゲートの数はモンテカルロのステップ数について線形でしか増加せず、実用上も問題ないアルゴリズムが構成されている。さらに、始状態のエンタングルメントが小さい時には古典計算機でもシミュレートができるという驚きの結果が得られており、量子パートンシャワーのシミュレーションが研究開始以前と比べると圧倒的に現実的な問題になったといえ、この分野における一つのマイルストーンではないかと考えている。より広い文脈で考えると、今回の量子アルゴリズムはいわゆるダイナミックな量子回路の例になっており、そこでは量子回路の途中での測定が行われると同時にその結果が量子回路自体のパラメーターとしてフィード・フォーワードされ、さらに量子計算が続くこと設定になっている。このような回路の研究は将来的な量子誤り耐性を持つ量子コンピューターにとって不可欠なものであり、時宜に適ったものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画ではパートンシャワーに運動学的情報を取り入れた量子・古典ハイブリッドアルゴリズムを構成することを大きな目標としていたが、本年度の研究においてすでにそれを達成することができた。これは想定を大きく超える順調な進展である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の可能性として、まず今回構成した量子的なベトーアルゴリズムをより一般的な文脈で実現できないかを探りたい。古典的なモンテカルロ・シミュレーションにおいてはベトーの手法は幅広く用いられており、具体的にモンテカルロ法が適用される問題の詳細によらずに適用可能である。したがって、今回量子パートンシャワーにおいて議論された量子ベトーアルゴリズムは、量子効果が重要になるモンテカルロ・サンプリングが必要になる問題一般に広く適用できると期待され、例えば物性物理学における量子多体系の問題などでも適用が可能であると考えており、このような応用可能性を探りたい。一方、量子パートンシャワーそのものについてもさらに研究を進め、例えば始状態のエンタングルメントが大きい場合のシミュレーションや、また実際の量子デバイスおよび古典計算機でのシミュレータでの量子シミュレーションを実行することで、今回のアルゴリズムのノイズによる影響、またいわゆる量子エラー緩和(quantum error mitigation)の方法によりエラーを軽減することも試したいと考えている。
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