研究課題/領域番号 |
23K17691
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分15:素粒子、原子核、宇宙物理学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
兼村 晋哉 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (10362609)
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研究分担者 |
高橋 智 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (60432960)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 電弱相転移 / 原始ブラックホール / 重力波 / ヒッグス粒子の物理 / 電弱対称性の破れ / ヒッグスセクター |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では電弱一次相転移で生成され得る原始ブラッ クホール(PBH)に注目した新方法を検討する。Subaru HSC, OGLE, PRIME, Roman望遠鏡等 の重力レンズ効果を用いたPBH探索は、今後数年で飛躍的進展が期待されるため、このタイミングでの本研究実施は大きな意義がある。宇宙物理と素粒子物理の新しい融合分野 の開拓であり、PBHを通じてヒッグスモデルやBSMを早期に探る可能性を明らかにする萌芽研究である。相転移ダイナミクスとPBH生成条件の精査、ヒッグスモデル判別等 の新しい挑戦に加え、加速器と重力波による電弱相転移検証にPBH観測を加えることのシナジーや相補性も研究する。
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研究実績の概要 |
本研究では電弱一次相転移で生成され得る原始ブラックホール(PBH)に注目した新方法を検討する。Subaru HSC, OGLE, PRIME, Roman望遠鏡等のマイクロレンズ効果を用いたPBH探索は、今後数年で飛躍的進展が期待されるため 、このタイミングでの本研究実施は大きな意義がある R5年度は、また電弱相転移のスピードが遅く空間的に相転移のタイミングが微妙にずれてエネルギー密度のコントラストが生じた結果、原始ブラックホールが生じる可能性をシンプルだが具体的な模型(シングレットスカラー場が追加された模型など)で研究し、相転移が極端に強くなくても原始ブラックホールが生じる可能性があることを示した。成果は論文としてまとめ、投稿中である。 現在加速器実験で測られている様々なヒッグス結合定数が標準理論の予言と誤差の範囲で一致していることから導入したnearly aligned仮説をヒッグス有効理論に加えると、様々な物理量に関係がつく。この仮説の下で、電弱相転移の際に発生する原始ブラックホールの量を計算し、同時に生成される重力波や、ヒッグス3点結合、ヒッグス粒子と光子対の結合定数等との相関関係を明らかにし、将来の加速器実験、重力波実験、加速器実験でどのように電弱相転移の物理が検証されるかを研究した。現在論文を準備中。 さらに、電弱一次相転移において、真空泡の運動方程式を解くことにより、より詳細に原始ブラックホール生成について解析を進めた。この解析により、従来議論されてきた原始ブラックホール生成の基準に関して新たな知見が得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では原始ブラックホール(PBH)の探索を用いて標準理論を超える新しい素粒子のモデルを検証する全く新しい分野を切り拓く。バリオン数 非対称性を説明する電弱バリオン数生成のシナリオ等では初期宇宙の電弱相転移が強い一次相転移であることが要求され、新モデルが必要とな るが、その中には相転移時に重力崩壊を引き起こし、太陽の十万分の1の質量のPBHが生成される可能性がある。もしPBH探索から電弱相転移の 素粒子モデルを検証できれば、将来の次世代加速器実験や宇宙空間での重力波実験を待たずに、早期に電弱相転移、ひいてはヒッグスの物理に 迫れることになり、画期的でその価値は計り知れない。次世代加速器実験や重力波観測への提言も含め、大きな波及効果が期待できる。本研究 では電弱一次相転移の際にPBHが生成される条件を精査し、具体的な素粒子モデルで生成されるPBHを解析し、近未来の探索実験での検出可能性 を明らかにする。 計画初年度であるR5年度は、研究計画に沿って、以下の3つの研究を並行して行い、成果を得ている。 1)ブラックホール生成の条件を具体的でシンプルな模型に適用し、相転移がどれほど強い一次相転移であることが必要かを調べ、論文にまとめた。 2)有効理論による電弱相転移由来の原始ブラックホール生成の物理と重力波スペクトルやヒッグス結合のずれとの相関関係を研究し、現在論文を準備している。 3)さらに、電弱一次相転移において、真空泡の運動方程式を研究し、球対称からずれている場合を含め、より詳細に原始ブラックホール生成について解析を進めている。 このように、論文としては未完成のものも含まれるが、着実に成果が出ている状況であり、計画初年度の研究として概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
R6年度は、今後数年で飛躍的進展が期待されるPBH観測を用いた電弱相転移の物理(ヒッグ ス物理)の新しい検証法を確立することを目指す。これまでの研究により、電弱一次相転移がゆっくり起きる場合にPBHが生成される可能性があることを素粒子の有効場理論とシンプルな具体的モデルに基づいて明らかにした。さらに初年度に開始した、電弱一次相転移由来のPBH生成条件を精査する研究を進展させ、具体的な素粒子モデルによる解析、検証可能性、次世代加速器実験や宇宙での重力波実 験との相補性とシナジーについての新研究を、概ね以下の順序で行う。 1. 宇宙初期の様々なPBH生成機構に関する既存の研究を参考に、PBH生成の専門家である柳氏 と電弱一次相転移からのPBHの生成条件を精査し、妥当性を研究する。 2. 電弱相転移の具体的でより現実的な素粒子モデル(実行可能な電弱バリオン数生成のモデル等) において、PBHの生成条件を満たす可能性を明らかにする。 3. マイクロレンズ効果によるPBH探索の現状と見通しを整理し、専門家の住氏と近未来のPBH探索実験 を用いた電弱相転移の素粒子モデルの検証区別可能性を検討する。 4. 次世代の加速器実験、宇宙重力波観測、そしてPBH探索を立体的に組合せ、電弱相転移と背後の素粒子モデルを総合的に探求する方法を確立する。 各段階で得られる成果は、それぞれ論文として出版し、メンバーが学会や国際会議等で発表する。
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