研究課題/領域番号 |
23K17711
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分17:地球惑星科学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
遊佐 斉 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, グループリーダー (10343865)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
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キーワード | 超高圧 / ダイヤモンドアンビルセル / 高速加圧技術 / 構造相転移 / 放射光X線回折 / 地球惑星ダイナミクス / 高速加圧 |
研究開始時の研究の概要 |
地球・惑星深部への物質科学的アプローチとなってきた超高圧実験は、地球中心圧力(364GPa)への到達に至っている。そして、更なる研究対象の拡大として、時間軸を取り入れた事象に対応するための、技術的ブレークスルーを必要としている。そこで、ミリ秒からマイクロ秒の時間スケールで、安全かつ簡便におこなう装置の開発に挑戦する。さらに、本装置を強力X線源と高速X線検出器を組み合わせることで、鉱物・高圧物質について、高圧下で、高速その場観察をおこなう技術を確立する挑戦的な研究に着手する。
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研究実績の概要 |
地球・惑星深部への物質科学的アプローチとなってきた超高圧実験は、地球中心圧力への到達に至っている。そして、更なる研究対象の拡大として、時間軸を取り入れた事象に対応するための、技術的ブレークスルーを必要としている。研究代表者は、積層ピエゾアクチュエータの優れた制御性と耐荷重性能に着目、高圧下での構造データを高精度で取得するためのDAC加圧技術開発をおこなっている。本研究では、ピエゾアクチュエータ加圧のもう一つの特徴である高速応答性に優れた加圧制御に着目し、さらに、放射光X線(SPring-8)における強力X線源の利用と高速X線検出器(LAMBDA)との同期をおこなうことで、瞬時加圧実験を実現し、1ミリ秒間隔の時分割その場観察実験(BaF2のfluorite型 - cotunnite - Ni2In型相転移)に成功した。その加圧速度は、大出力アンプの導入もあり、20 GPa/sから7 TPa/sに達した(2023年第64回高圧討論会2C03発表)。また、関連の研究として、十分な発光強度を有する新規圧力マーカー(Ga2O3:Cr)の合成に成功し、詳細に圧力依存性を精査することで、圧力スケールを決定した(ACS,Inorg. Chem.2024論文発表)。これにより、放射光X線のみならず、オフラインでの光測定により、高速加圧実験中の圧力検証が容易化すると考えられる。現在までに、瞬時加圧技術と高速X線観察の親和的導入に成功し、加圧速度に関して大きな技術的進展を達成できた。今後、X線のみならず、瞬時加圧時における時分割光測定も検討したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において、DAC用の超高速アクチュエータ制御による急速加圧装置を設計・試作をおこなった。動作試験の後、同装置を放射光施設(SPring-8)のビームラインに設置し、瞬時加圧中の試料の高速X線回折を取得することに成功した。高速動作時のピエゾ素子への損傷防止、加圧開始点とX線検出器トリガポイントの正確な同期の確立など、超えるべき様々な技術的ハードルが存在したが、全て克服することに成功した。また、初期の段階で未解明であった、十分な加圧レートを得られない問題に対しては、ピエゾアクチュエータアンプの大出力化により解決することができた。これにより、GPa/sオーダーに留まっていた加圧レートがTPa/sオーダーに大きく改善されることができたことは非常に大きなブレークスルーとなった。実験により取得される高速X線回折の時分割データは、今まで経験したことのない膨大なデータ量となる。その解析・描画に関して試行錯誤の上、効率的な方法を模索することができたことも重要な進展といえる。
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今後の研究の推進方策 |
高速加圧による構造相転移は、カイネティクスを伴うため、低速加圧とは違う相転移圧力点を示す可能性がある。また、一軸加圧という特徴を活かすことで異方的な格子力学的帰結により、準安定相の獲得に至る可能性もある。こうした高速加圧特有の現象について、その場観察により明らかにしていきたい。また、加圧時のみならず、減圧時に緩和する構造についても、時分割X線回折実験により緩和過程の追跡もおこなうことも計画する。現状、放射光実験のマシンタイムには限りがあるため、放射光X線以外のその場観察手段の検討もおこなっていきたい。その際、ラマン散乱等の光測定や可視領域での高速度観察などの手法の導入も考慮したい。高速度観察においては、対象物質からのシグナル強度(X線回折能やラマン散乱能)に実験的制限がかかるため、全ての地球惑星物質を対象にすることは困難ではあるが、類似結晶構造を有するモデル物質を中心に、高速加減圧時における構造の振る舞いについて、普遍的な現象の追跡をおこなっていきたい。今までおこなってきた実験により、7 TPa/sの加圧速度の達成に成功しているが、X線検出器速度はフレームあたり1 msecであるため、これ以上の高速現象について追跡することは、原理的に困難といえる。よって、高価なアクチュエータの破損を防ぐためにも、さらなる加圧速度の向上に注力することは目指さず、むしろ瞬時加圧下におけるレーザー加熱照射による高温実験技術を組み合わせる等、瞬時加圧下での高温現象の実験的再現等にも注目していきたい。
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