研究課題/領域番号 |
23K17733
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分19:流体工学、熱工学およびその関連分野
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
井上 修平 近畿大学, 工学部, 教授 (60379899)
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研究分担者 |
井ノ上 泰輝 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (00748949)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
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キーワード | 吸着 / センサー / 拡散 / カーボンナノチューブ / 薄膜 / 電気抵抗 |
研究開始時の研究の概要 |
スパゲッティ上に重なったCNT界面への環境分子吸着がキャリアの移動度に影響及ぼすことを代表者らが解明した。効率的なCNT界面の形成は感度を大幅に増加させるため、無秩序なCNT薄膜では不可能であった吸着分子の特定が整然と積層された超薄膜では可能であると予想している。半導体式ガスセンサーは高温にする必要があり電源から離れての使用はできないが、超薄膜センサーは加熱が不要であるためユビキタスガスセンサーの実現とガス種特定という夢の技術に繋がる。身近な用途では防毒マスクにセンサーを組み込み、マスク寿命の見える化技術を確立することで安心安全な労働環境実現への一助となるよう高性能なセンサーの開発を行う。
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研究実績の概要 |
本研究の直接的な目的は、選択的分子透過膜無しに吸着分子を特定できるカーボンナノチューブ(CNT)を利用した超低電力ガスセンサーを開発することである。代表者は薄膜へのガス分子吸着の計測、分子スケールでの現象を明らかにするためにシミュレーションによる吸着挙動の可視化を、分担者は水平配向CNTの合成と格子状積層CNT薄膜の作製を行う。 これまでの成果から、ガス分子の物理特性(分子直径、吸着エネルギー、誘電率)がセンサーの過渡応答の挙動を決定することが予想される。そのため未知のパラメータ(吸着エネルギー)と過渡応答を明らかにすることが求められる。スピンコーティングで作製する多層CNT薄膜ではS/N比が不十分で吸着分子の物理特性に由来する過渡応答から分子種を特定することは難しい。薄膜を形成しているCNTが効率よく接点を形成していないこととバンドリングしていることが原因で、ガス分子に応答する接点の数がCNTの数に比べて少ないことが原因であると予想している。解決するためにCNTの交差点を太い紐から細い糸に変更し、網目状に積層する。分担者が基板上に水平配向したCNTを格子状に積層した薄膜を作製しサンプルを代表者のもとに届けている。 代表者は作製されたサンプルをセンシング部として応答を確認する。CNT積層基板が完成するまでの間に測定装置の改良を行い、既往のサンプルでの予備計測を完了した。装置の改良により測定時の圧力変動を大幅に抑えることが可能となり、測定精度が向上している。またシミュレーションによる極性、無極性分子の吸着に関して行った。孤立したカーボンナノチューブ界面への吸着は今回の実験の内容そのものであるため比較対象として重要なものである。またこれまでこのような報告はないため最終年度に向けて順調な成果が上がっていると考える。これらの内容は8月のASME関連の国際会議にて発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一回目のサンプルとして分担者より格子状にCNTを積層したサンプルが届けられている。代表者は既存の測定容器の改良を行い測定部とバッファー部の体積比を拡大することでより圧力変動の少ない条件で測定が可能となった。既存サンプル(吸引ろ過法により作成したCNTペーパー)による極性分子(エタノール、メタノール)と無極性分子(ベンゼン、ヘキサン)の測定を完了した。また実際に使用する状況を考え水との混合状態での測定も終えている。これらの情報は積層型孤立CNT薄膜の結果を比較するうえで必要不可欠なデータである。 また、分子スケールでの吸着挙動の違いを可視化するため分子動力学法によるシミュレーションを行った。分子の極性の有無により吸着の様相に特徴的な違いが表れることが確認できた。現時点では吸着分子数が少なくまだ十分ではない。力場にReaxffを適用しているがこれが適切であるかの検証が次年度の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
測定に関しては複数のサンプルを準備する必要がある。CNTの積層は分担者により可能であるが装置に組み込むときの接点(電極作成)に若干の課題が残る。サンプルによってCNTの積層範囲にばらつきがあるため基板ごとに対応する必要がある。電極はスパッタにて作成することができたが、装置内に設置する治具に適合しない場合は膜自体が安定しない。この場合は振動などがノイズとなってしまい、電気計測に悪影響を及ぼす。現時点では3Dプリンタにより治具を作成することを検討している。 シミュレーションに関しては力場を変更することを検討している。Reaxffは化学反応の再現まで考慮に入れた力場で化学吸着などを検討する場合には必要かもしれないが計算負荷が高く、多くの分子を入れた状態で行うことが難しい。CNTは化学的に安定であること、現在検討しているガス(第二種有機溶剤)はそこまで強い反応性を持たないため物理吸着で十分であることなどが理由である。GAFFやUFFの力場は計算負荷が低いためより大きな系への適用が可能となるためこちらで対応する予定である。ただし計算開始前の電荷の割り当てに現在問題が残っている。電荷の割り当てに非常に時間がかかるがこれに関しては分子動力学法の専門家に相談した結果、CNTを電荷の割り当て対象から除外すること(すべてのC原子が同等なので実際に電荷が0である)、吸着分子に関しては1分子の状態で電荷を割り当て、それを溶媒として配置することで解決できるとの説明を頂いており十分対応可能であると考えている。
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