研究課題/領域番号 |
23K17765
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
本多 周太 関西大学, システム理工学部, 准教授 (00402553)
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研究分担者 |
安藤 裕一郎 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50618361)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 仕事関数 / ゼーベック効果 / 第一原理計算 / スピン伝導 / スピンゼーベック効果 / 半導体スピントロニクス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,強磁性金属/半導体接合における仕事関数制御による界面抵抗の低減化と発熱によるスピン依存ゼーベック効果を利用した低消費電力駆動のスピントロニクスの実現を目指す。低仕事関数元素を強磁性金属に添加による電子状態変化と接合界面における低抵抗トンネル障壁に関して第一原理バンド計算を利用した電子状態計算と実験の双方から検討し低仕事関数かつ大きくスピン偏極した強磁性金属合金に着目し研究を行なう。
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研究実績の概要 |
スピントロニクスデバイスなどのスピン伝導を用いる素子において,低消費電力で大きなスピン流を流すことがデバイスの高性能化のために期待されている。デバイス動作時には無駄な発熱を伴い効率が低下する。この廃熱を利用した超低消費電力で半導体から強磁性体へのスピン伝導を可能にするために,強磁性体と半導体の接合系における半導体から強磁性体へのスピン注入に占めるスピン依存ゼーベック効果のスピン注入の割合を従来型からの増幅をはかることが本研究の目的である。 廃熱によるスピン依存ゼーベック効果増大の実現には,低仕事関数で高スピン偏極伝導が可能な強磁性金属材料の生成や,強磁性体と半導体の接合界面での界面抵抗低減が必要である。そこで,理論解析と実験において,強磁性金属に低仕事関数元素を添加して,低仕事関数かつ大きくスピン偏極した強磁性金属合金を探索する。 該当年度では,第一原理電子状態計算によって,不純物を添加した強磁性金属合金の仕事関数や,強磁性体と半導体との接合における電子状態が計算可能になった。これにり,低仕事関数の強磁性金属合金を得るために適した不純物元素の検討や,スピン流増大のための低界面抵抗接合の検討が可能になった。また,独自にスピン流のポテンシャルを導入したスピン依存ドリフト拡散伝導計算によって多層構造におけるスピン流の計算を可能にし,層厚の制御によりスピン流を増大できることを明らかにした。この成果は3月に論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低仕事関数に最適化されたスピン伝導磁性材料の探索のため,大容量メモリを搭載した計算機により計算を行なった。強磁性金属材料に低仕事関数元素を添加し,合金の仕事関数や,フェルミ準位近傍でのスピン偏極率について検討することが目的であった。理論計算においては,FeやCo,CoFeなどの強磁性材料からなる結晶構造の一部の格子点をSi,Asなどの半導体になりうる元素に置換しての第一原理計算において仕事関数を計算することが可能になった。また,仕事関数の計算では真空層を導入する必要があるため,それを活用し結晶の(100)面や(111)面など表面の構造が異なる場合でも仕事関数が異なる結果が得られた。これらのことから,不純物添加などで仕事関数を制御できることが計算で示され,計算パートにおいては順調に研究が進捗している。ただし,仕事関数の計算では厚い真空層のために,計算の収束が悪く,計算が失敗する場合が多いことがわかった。今後,たくさんの計算結果を得るため,計算の精度を上げて収束性の高い計算を可能にすることが必要である。さらに,計算においては,スピン依存ドリフト拡散法にスピンホール効果によるポテンシャルを独自に導入しスピン流の解析を行なった。強磁性体と非磁性体との多層接合構造において,強磁性体の厚さを薄くすることやスピン拡散長が長い材料にすることで,強磁性体へのスピン注入を増大できることを明らかにした。この影響は,非磁性層の伝導率が高いほど効果が高いことも明らかにした。また,実験においても,不純物を添加した磁性材料の作成を可能にした。これらの成果によって,次年度には目的達成に向けたスピン伝導実験が可能であり,研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,低仕事関数の強磁性金属合金の探索を継続しながら,強磁性金属と半導体の界面抵抗が小さいトンネル膜を,理論と実験の双方から探索する。例えば酸化チタン等はSiの伝導帯とのエネルギーギャップ差が小さく,低抵抗化が期待できる。同様の機能を有する絶縁体を探索し,特にスピン依存ゼーベック効果,電気抵抗,スピン偏極率,熱伝導率を評価軸として,最適な材料の探索を行う。原子配列を考慮し量子力学に基づいた計算によって結晶構造を精密に精査しスピン依存ゼーベック効果に適した物質や界面構造を探索する。電子状態計算においては,年度の初めには,仕事関数計算の結果を多く得るために,真空層が厚い場合の計算の収束性が悪い問題を解決する。計算に用いる波数点の数や,超格子の大きさを変化させて,収束性の良い計算構造を見つける。並行して,不純物の量や種類を変えて電子状態計算を行ない,界面抵抗や仕事関数を導出する。理論解析で得られた候補材料を本研究費で材料を購入し作製し実験で評価する。理論と実験とで仕事関数やスピン依存ゼーベック効果の値の相違を評価し,各値の差違を補正・定式化し高精度な理論予測を実現する。探索結果を実験に適用し,電力ゼロでのスピン注入もしくは電力印加スピン注入で従来以上の割合のスピン依存ゼーベック効果が寄与するスピン注入の観測を目指す。得られた成果を,学術論文誌や国内学会で公表する。
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