研究課題/領域番号 |
23K17780
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分22:土木工学およびその関連分野
|
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
堀 宗朗 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門, 部門長 (00219205)
|
研究分担者 |
大石 哲 神戸大学, 都市安全研究センター, 教授 (30252521)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2025年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
|
キーワード | 数値解析理論 / 高性能計算 / 曲線座標 / 構造力学計算 / 河道力学計算 |
研究開始時の研究の概要 |
自然災害の評価を念頭に,計算量を削減しても精度・分解能が確保できる効率的な数値解析のための理論を構築する.広域が対象となるため,高性能計算の利用が前提となる数値解析である.解析理論の要諦は曲線座標の利用である.これは「数値解析に適した座標系は何か」という学術的な問いの答えることも意図している.曲梁・シェルや河道・水系に適した曲線座標を微分幾何学に基づいて厳密に取扱い,この曲線座標での適切な微分方程式の導出と関数の離散化を考案する.直交座標の利用を前提とした従来の数値解析を超える,効率的な数値解析を実現する数値解析の理論構築を目指す.
|
研究実績の概要 |
曲面や曲線を3次元空間内の2次元や1次元多様体として扱う微分幾何学では,多様体上の偏微分方程式に対し,所与の曲線座標を利用する解析理論が整備されている.しかし,「多様体上の偏微分方程式に対し,どのような曲線座標を使えばその微分方程式が効率的に解けるか」という問いは微分幾何学の関心事ではなく,この問い自体,発せられることはなかった.土木工学の観点では,この問いの答えが,計算量を削減しても精度・分解能が確保できるという効率的な数値解析の実現に繋がる. 上記を考慮し,本研究の初年度では,「曲梁・シェルや河道・水系の数値解析に適した曲線座標は何か」という問いに答えることを目指した.シェルの場合,中立面は3次元空間内の2次元多様体である.微分幾何学に基づいた曲線座標の厳密な設定に成功した.この曲線座標の基底ベクトルは,従来,直感的に用いられていた中立面に直交する断面の法線ベクトルではない.さらに,シェルの薄さという形状の特徴を考慮し,シェルの厚さと曲率半径の比を使って曲線座標の漸近展開に成功した.なお,薄板のシェルでは漸近展開の第1項を使えばよいが,厚板のシェルは漸近展開の第2次項を使うことになる.漸近展開を利用すると,薄板と厚板の統一的な扱いが可能となった. 河道の場合,速度ベクトルに平行な基底ベクトルを持つ曲線座標を設定することに成功した.曲線座標は3次元であるが,第1成分の基底ベクトルが速度ベクトルと平行となり,他の2つの曲線座標の基底ベクトルは速度ベクトルに直交する.この結果,設定された曲線座標では速度ベクトルは一成分となる.支配方程式は複雑になるものの,速度ベクトルが一成分となることで数値計算の効率化が期待できる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目的は「曲梁・シェルや河道・水系の数値解析に適した曲線座標は何か」という問いに答えることである.中立軸・中立面が3次元空間内の1次元・2次元多様体となる曲梁・シェルの場合,側面や上下面でトラクションフリーの境界条件が満たされることから,数値解析に適した曲線座標として,主応力の方向に平行な基底ベクトルを持つ曲線座標が数値解析に適していると考えられる.所与の主応力場に対し,微分幾何学に基づいて,曲線座標を厳密に設定することに成功した.この曲線座標の基底ベクトルは,従来,直感的に用いられていた中立軸・中立面に直交する曲梁・シェルの断面の法線ベクトルではない.さらに,薄板の曲梁・シェルでは,厚さと曲率半径の比を使って曲線座標を漸近展開することで,より効率的な数値解析が可能であることを示した.漸近展開の第0次項が直梁・板,第1次項が薄板の曲梁・シェル,第2項が厚板の曲梁・シェルとなる. 河道の場合,曲面となる側面に沿って水が流れることから,速度ベクトルに平行な基底ベクトルを持つ曲線座標が数値解析に適した曲線座標となる.この曲線座標の第1座標の基底ベクトルが速度ベクトルと平行となり,他の2つの曲線座標の基底ベクトルは速度ベクトルに直交する.この結果,設定された曲線座標では速度ベクトルの非0の成分は常に一つである.3成分が必要な直交座標と比較して,速度ベクトルの成分が一つとなる曲線座標では,数値計算の効率化が期待できる.一方,曲線座標での速度ベクトルの成分の支配方程式には共変微分に伴う項が加わる.この項の数値解析が新たに加わることはデメリットであるが,計算負荷はさほど増加せず,3成分が1成分に落ちることとのメリットの方が大きいと判断している.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の第二年度では,適切な曲線座標を設定した上で,支配方程式を書き直し,その支配方程式を解く効率的な数値解析論を考案する.構造物の薄さや河川の細さに関して曲線座標が漸近展開できること,薄さや細さが0の極限では曲線座標が直交座標に漸近すること,の二点が重要であり,これを利用する解析理論とする.なお,曲線座標の支配方程式を漸近展開した場合,その第0次の式は直交座標の支配方程式と一致する.この漸近展開の性質は解析理論の検証にも有効である.また,曲線座標を使いながらも,漸近展開された支配方程式の数値解析は容易となる可能性がある.第0次の項が直交座標の支配方程式となることから,曲線座標は第1次の項から漸近展開された式に現れる.第0次の項が解析的もしくは簡単に数値解析で切る場合,曲線座標を含む第1次の項の扱いは容易となることが期待できるからである. 支配方程式は運動方程式に対応する.そして,直交座標の支配方程式には絶対に表れないが,曲線座標の支配方程式には,曲面や曲線が運動に及ぼす効果を表す項が含まれることになる.多項式と漸近展開の利用に加え,形状効果の項の取扱いを工夫することで,数値解析の効率がさらに向上する可能性がある.この点も踏まえ,数値解析理論の考案は,研究代表者が主に担当する. 本研究の第三年度では,構築された数値解析理論に基づいて,数値解析プログラムのプロトタイプを開発する.プロトタイプの結果と既存の数値解析の結果を比較するために,シェルや河道の高性能計算を使う数値実験を実施する.計算量を削減しても高い精度・分解能が確保できるという,曲線座標を利用する数値解析理論の効率性に関して,基礎的な検証を行う.数値実験は,富岳の利用も検討する.これは研究分担者が主に担当する.
|