研究課題/領域番号 |
23K17796
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分24:航空宇宙工学、船舶海洋工学およびその関連分野
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
川嶋 嶺 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (80794429)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 電気推進 / ホールスラスタ / 代替推進剤 / アブレーション / プラズマ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では昇華性固体推進剤を放電チャネル壁面に持つ、長寿命なホール型イオン推進機を新たに開発する。チャネル壁面をなす固体推進剤が昇華することによって推進剤を供給するコンセプトであるため本質的に壁面無損耗であり、長寿命となることが期待される。本研究ではアブレーション推進剤ホールスラスタを作動させ、固体推進剤の連続供給によるプラズマ維持が可能であるか明らかにする。その上でどの程度の固体推進剤が消費され、イオン化させるかを明らかにする。各種プローブによるプラズマ計測実験に加えて、固体推進剤のアブレーションモデルを組み込んだプラズマ解析によって、アブレーション推進剤ホールスラスタの物理現象を探る。
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研究実績の概要 |
(1)ホールスラスタプラズマへのPTFE挿入によるアブレーション実験 アルゴンガスにて作動中のホールスラスタへ推進機の外周方向からアブレーション推進剤としてPTFEを挿入する実験を行った。PTFE内部に熱電対を埋め込むことで温度履歴を計測し、このデータに対して1次元非定常熱伝導モデルを適用することで、PTFE表面の温度履歴を算出した。実験の結果、放電プラズマからの入熱によってPTFEの挿入後1分程度で表面温度はアブレーション温度である650 Kに到達することが分かった。実験におけるホールスラスタの作動電力は1250 Wであるが、その3.7%にあたる47 Wの熱がPTFE表面に入射していると予測された。実験の前後での固体推進剤の質量変化から、アブレーション固体推進剤の流量は0.8 mg/s程度と算出された。この流量はガス推進剤と同程度であることから、アブレーション固体推進剤の質量流量はホールスラスタを作動させる上で充分であることが分かった。 (2)アブレーション推進剤をもつホールスラスタの1次元プラズマ解析 アブレーション推進剤をチャネル壁面に持つホールスラスタの性能予測を行うため、ホールスラスタのプラズマシミュレーションの開発に着手した。アブレーション推進剤を持つ推進機の解析を行う上では、プラズマと固体推進剤表面との干渉をモデル化し、さらに固体推進剤内部での熱伝導を計算した上で、推進剤昇華量を算出する必要がある。2023年度はこの様な連成解析のコンセプトを実証し、さらに解決すべき課題を明らかにするため、単純化された1次元プラズマシミュレーションを実施した。1次元シミュレーションからは、期待される固体推進剤のアブレーション量は3 mg/sと通常のホールスラスタの推進剤流量と同じオーダーとなる結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はアブレーション固体推進剤をホールスラスタの放電プラズマに直接供給する実験を初めて行った。固体推進剤のアブレーション量は、過剰または過少でなく、ガス推進剤と同程度であってホールスラスタの作動に適したものであった。この結果は事前に予測していたものではあったものの、実験的に確認できたことは大きな進捗と言える。しかしながら、今年度はイオンビーム電流の計測が困難であることや、固体推進剤を供給した上での長時間推進機作動が行えなかったことなど、新たな課題も明らかになった。 ホールスラスタの1次元プラズマ解析も、シミュレーションのコンセプトを実証することができた。従来のガス推進剤のみを持つホールスラスタのシミュレーションに加えて、壁面熱流束による固体推進剤の熱伝導モデル、固体表面の熱分解モデル、炭素とフッ素のイオン化に関する化学反応モデルを実装することができた。数値シミュレーションの方針としては大変見通しが良くなり、今後はプラズマシミュレーションや各要素モデルを精緻化することに注力することができる。 以上から、実験、数値シミュレーションとも概ね計画通りの進展を見せている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は主に以下の2点について推進する。 (1)アブレーション固体推進剤における推進剤イオン化効率の計測 2023年度は固体推進剤が昇華され、充分なアブレーション量が得られることが分かったが、昇華した固体推進剤がイオン化された上で、有効に静電加速されて推進力に寄与しているかどうかは未確認である。次年度はファラデープローブと呼ばれるイオンビーム電流を計測する装置を用いて、推進剤から排出されるイオン電流量を計測する。アブレーションによって消費した固体推進剤量とイオン電流量から、推進剤イオン化効率を算出する。2023年度では予備実験としてホールスラスタの放電チャネル下流から固体推進剤を挿入したが、本来の提案ではホールスラスタのチャネル壁として固体推進剤を利用するものであった。2024年度は放電チャネルの一部を固体推進剤に置き換えた推進機を製作し、推進機作動実験を行う計画である。 (2)アブレーション固体推進剤を持つホールスラスタの2次元数値シミュレーション 2023年度は放電チャネルにおいて、軸方向1次元のプラズマシミュレーションを行ったが、固体推進剤と放電プラズマの干渉や、昇華されガス化した固体推進剤の挙動を正確に解析するには、軸方向-半径方向の2次元数値シミュレーションを行う必要がある。研究代表者は過去に軸方向-半径方向の2次元シミュレーションコードを開発した経験を持つため、この知見を活用する。固体推進剤表面でのシースを考慮することにより、壁面へと流入する熱流束を正確に予測する。プラズマシミュレーションと固体推進剤内部熱伝導モデルとを連成させることにより、表面から熱分解する固体推進剤量を算出する。昇華したガスは、10 mm程度の放電チャネル幅を移動する間にイオン化させる必要があるが、この時のイオン化割合を解析することが2024年度の目標となる。
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