研究課題/領域番号 |
23K17811
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
宮前 孝行 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (80358134)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 帯電 / 表面 / 可視化 / 分子配向 |
研究開始時の研究の概要 |
帯電は、絶縁体表面に電荷が移動せずに存在している状態である。帯電現象は極めて身近なものであるが、その帯電機構については電荷担体、周囲雰囲気が帯電に与える影響、材料の違いによる帯電の差など、帯電した際の有機材料表面の分子レベルの構造との関連については全く不明である。本提案では、表面・界面選択的な振動分光法である和周波発生(SFG)分光を用いて、帯電表面の電荷状態、分子配向と帯電との関係、電荷存在時のバンドギャップ評価、表面帯電強度分布の可視化に挑むことで、帯電メカニズムを分子レベルで明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
帯電は、絶縁体表面付近に電荷が存在している状態である。帯電現象は身近なものであるが、その帯電機構については電荷担体、周囲雰囲気が帯電に与える影響、材料の違いによる帯電の差など、帯電した際の有機材料表面の分子レベルの構造との関連については全く不明である。本提案では、表面・界面選択的な振動分光法である和周波発生(SFG)分光を用いて、帯電表面の電荷状態、分子配向と帯電との関係、電荷存在時のバンドギャップ評価、表面帯電強度分布の可視化に挑むことで、帯電メカニズムを分子レベルで明らかにすることを目的とし、以下の研究を遂行してきた。 帯電と分子配向との関係を調べるために、製膜条件を変えて膜質を変えた種々のポリスチレン薄膜についてコロナ放電処理を行い、表面の分子配向と帯電特性との関係について検証した。表面抵抗率や残留溶媒量、表面構造など、製膜条件による膜質が帯電状態に影響を及ぼしていることが明らかとなった。 SFG分光では、測定する試料内の電界強度に応じてSFGの信号強度が変化する、電界誘起効果と呼ばれる現象が起こる。電界誘起効果は試料に作用する電界強度の二乗に比例するため、SFGの電界強度依存性は、試料に存在する電荷の状態を反映する。帯電の電位や帯電量を計測する表面電位測定などと組み合わせ、試料表面帯電の可視化を試みた結果、正負に帯電した境界領域に強い電界が存在していることが明らかになった。この結果はSFGが電荷分布だけでなく、不均一に帯電した表面における電界強度分布を可視化できることを示しており、分子配向挙動の解析と合わせることで、表面の帯電現象の機構を解明することに貢献できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、帯電と分子配向との関係を調べるために、製膜条件を変えて膜質を変えた種々のポリスチレン薄膜についてコロナ放電処理を行い、表面の分子配向と帯電特性との関係について検証した。同時に取得した表面電位の時間変化では、スピンコートにより作成したポリスチレン薄膜の表面電位減衰が顕著に見られ、表面低効率が高いほど有機される表面電位が高いことが示された。また製膜後の膜内への残留溶媒量も帯電の緩和に寄与していることが新たに示唆された。さらにSFG分光では、ポリスチレンのフェニル基の配向の違いが観測され、表面構造が帯電と表面低効率に関係していることが示された。 SFG分光を用いて、試料の帯電状態の可視化を進めるために、自動ステージを用いて不均一に帯電させた試料の面内マッピング測定を行った。SFG分光では測定する試料内の電界強度に応じてSFGの信号強度が変化する、電界誘起効果と呼ばれる現象が起こる。電界誘起効果は試料に作用する電界強度の二乗に比例するため、SFGの電界強度依存性は、試料に存在する電荷の状態を反映する。帯電の電位や帯電量を計測する表面電位測定などと組み合わせ、試料表面帯電の可視化を試みた結果、試料帯電により、SFG信号強度の増強が明確に観測され、帯電の面内マッピングが可能であることを示すことができた。また、正負に帯電した境界領域に強い電界が存在していることが明らかになった。この結果はSFGが電荷分布だけでなく、不均一に帯電した表面における電界強度分布を可視化できることを示しており、分子配向挙動の解析と合わせることで、表面の帯電現象の機構を解明することに貢献できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1. 表面に形成した化学種、分子配向変化追跡への挑戦 SFG分光法は、2つの異なる波長の光(赤外光と可視光)が試料に入射したとき、反転対称性がない表面・界面からのみ2つの光の和の周波数を持つSFG光が発生する非線形光学効果を利用した振動分光法である。反転対称性のあるバルクではSFGが生じないため、赤外分光などとは異なり、バルクの影響を受けずに材料表面だけを選択して調べることが可能である。種々の材料における帯電・除電時の状態変化や、試料の置かれた雰囲気の影響、さらには分子配向変化の有無をSFG分光で調べることで、帯電前後での反応や状態変化、官能基の違いと帯電との関連、帯電列の序列の起源を明らかにする。 2. 表面帯電強度分布の非接触計測への挑戦 SFG分光における、電界誘起効果を利用して試料表面近傍の帯電状態のマッピングを進めていく。電界誘起効果は試料に作用する電界強度の二乗に比例するため、得られるSFGの電界強度依存性は試料に存在する電荷の状態を反映する。本提案が対象とする帯電現象は、正または負の電荷が試料表面に存在する状態であり、有機デバイスと同様に、電荷が作る電界によりSFG信号強度が増強されることが期待できる。集光した光を用いて試料位置を面内スキャンしながらSFGの強度の面内分布を調べることで、非接触非破壊での表面の帯電分布の可視化と、周辺雰囲気が帯電に与える影響を解明する。 3. ギャップ内準位のエネルギー位置の検証 バンドギャップの大きい絶縁性高分子材料の帯電では、摩擦などの機械的な接触で価電子帯や伝導体へ電荷が直接移動することは考えにくく、ギャップ内準位を介して電荷移動が起こっていると考えられてきた。SFGの可視光波長を変えることで、SFG光波長がギャップ内準位と共鳴する2重共鳴SFGを活用することで、帯電列にある試料帯電とギャップ内準位との関連について検討を進める。
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