研究課題/領域番号 |
23K17821
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
吉岡 太陽 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (90596165)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2025年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2024年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 持続可能材料 / ナノ強化材 / ナノ複合材料 / シルク / シルクナノフィブリル / フィブリル階層構造 / 高タフネス / 小角X線散乱 / ナノ補強材 / 耐衝撃吸収性構造材料 / 脱石油素材 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究代表者らはこれまでに、カイコ、クモ、野蚕、ミノムシなど様々なシルクに共通する構造として、フィブリル階層構造の存在をX線散乱解析により明らかにしてきた。さらに、フィブリル階層構造は直径約5nmのシルクナノフィブリル(SNF)を基本構成構造単位とし、それらが束なることでミクロフィブリルを形成し、さらに高次のフィブリル階層構造を形成していることまでを明らかにしてきた。本研究では、3年間の補助事業期間中に、(1)SNFからの解繊・回収技術の確立、(2)SNFの特性解析、(3)ナノ強化材としてのSNFの性能評価と利用技術の探索、までを進める。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、カイコやクモ、ミノムシなど高タフネスシルクから、シルクナノフィブリル(SNF)を分離回収し、その特性を評価するとともに、SNFの高タフネスナノ強化材として利用する技術を探索することにある。目的達成に向け、(1)様々な天然シルクのフィブリル階層構造の把握、(2)SNFの解繊・回収技術の確立、(3)SNFの特性評価、(4)SNFのナノ強化材としての性能評価と利用技術の検討の4つの課題解決を相補的に進める。 初年度は、課題1を中心に取り組み、様々な種の天然シルクについて小角X線散乱法によりフィブリル階層構造の有無ならびにその発達度合いを評価し、フィブリル階層構造が良く発達しておりかつ比較的入手が容易なシルクとしてカイコ、ミノムシ、エリサン、テンサンの4種を選定した(2024年度のシルク学会で発表予定)。 課題2では、課題1で選定した4種のシルクについて、ボールミルによる粉砕後の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、各繊維ともに明瞭なサブミクロンスケールのミクロフィブリルの集合構造を確認した(2024年度のシルク学会で発表予定)。なお、本研究で目的とするナノフィブリルのスケールは10nm以下であり、これらの確認は2024年度に透過型電子顕微鏡(TEM)法を用いて進める。ところで、粉砕法のみによる解繊では得られるフィブリル長が短いという問題が見えてきた。解繊前には少なくともサブミリスケールの長さが確認できるのに対し、解繊後には数ミクロン長さに粉砕され、長繊維としての解繊が困難であることが示された。2024年度は、シルクの両溶媒と貧溶媒の二成分溶媒による溶媒剥離法[1]と粉砕法を組み合わせることで、よりマイルドな解繊を試みる。 [1] Wang Q. et al., ACS Mater. Lett. 2020, 2, 2, 153.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ここまでに、小角X線散乱法によりフィブリル階層構造が高度に発達した4種のシルクを選定し、粉砕法によるフィブリルの解繊に取り組んできた。いずれの繊維についても解繊初期の段階で、サブミクロン直径スケールかつ少なくともサブミリフィブリル長スケールの明瞭なフィブリル束がSEMにより確認できている一方で、それらの解繊が生じるまで粉砕を続けると、フィブリル長は粉砕により容易に数ミクロン長まで短くなり、当初の目的である長いフィブリルの回収に苦戦している。一方、両溶媒と貧溶媒を組み合わせた溶媒剥離法により、回収効率は悪いものの長いフィブリルの回収にも成功しており、2024年度は、溶媒剥離法と粉砕法を組み合わせることで、よりマイルドな粉砕を実現し、長いフィブリルの解繊・回収を試みる。また、本年度はSEM観察による確認までに止まっていたが、2024年度はTEMによる観察環境が整ったため、より解像度の高い観察に進めることができる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、溶媒剥離法と粉砕法を組み合わせた、マイルドかつ効率的な粉砕法を確立し、長いフィブリルの解繊、回収を試みる。また、観察手法をSEMからTEMに移行し、小角X線散乱解析にて得られているミクロフィブリルの直径50nm以下のナノフィブリルの解繊、回収に注力し、得られた成果は11月開催のシルク学会にて報告する。TEM観察により、50nm以下の解繊が確認されれば、4種のシルクそれぞれのナノフィブリル径の比較を纏めたうえで、それぞれのシルクに適したろ過回収法を模索する。 本研究代表者は、現在、科研費基盤研究Bにて人工シルク紡糸技術の開発に関する研究代表を務めており、その中で、昨年度の成果としてミノムシシルクのフィブリル階層構造が傾斜異方構造を有することを250nmφのナノX線ビームを用いた局所構造解析(欧州放射光施設(ESRF,フランス)での実験)にて明らかにした。そこで、本研究では、同様の局所構造解析を、ミノムシ以外のシルク(カイコ、エリサン、テンサン)についても試みる予定で、ESRFでのビームタイム獲得に向け計画書の申請を行っており、採択が得られれば実施する。また、2024年度中にナノフィブリルの解繊、回収法がある程度確立できれば、TEMを用いた電子線回折法によるナノフィブリル一本についての構造評価、AFMによる物性評価にも進める。なお、AFMによる物性評価は依頼試験を検討している。
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