研究課題/領域番号 |
23K17825
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
須藤 祐司 東北大学, 工学研究科, 教授 (80375196)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | ピエゾ抵抗効果 / アモルファス / カルコゲナイド薄膜 |
研究開始時の研究の概要 |
ウェアラブルデバイスやバーチャル空間の発展に伴い触覚センサーの需要が高まっており、超高感度を実現する巨大ピエゾ抵抗薄膜の創成が期待されている。近年、二次元In2Se3物質や相変化材料として知られるGe2Sb2Te5アモルファス薄膜が優れたピエゾ抵抗効果を示すことが報告されたが、複雑な製造プロセスや低耐熱性など課題を残している。私たちの研究グループでは、Cr2Ge2Te6アモルファス相薄膜が、相中に内在するCrクラスターに起因して低い電気抵抗かつ高い耐熱性を呈することを見出してきた。本研究ではCrGTをキー材料として、相中に内在する金属クラスター制御による巨大ピエゾ抵抗効果発現に挑む。
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研究実績の概要 |
本研究では、材料中に金属クラスターを内在するCr2Ge2Te6(CrGT)薄膜をキー材料として、巨大ピエゾ抵抗効果を有するカルコゲナイド薄膜の創製を目指している。 CrGT薄膜は,スパッタリング法により柔軟なポリイミド基板上に室温にて成膜するとアモルファス相を呈する。一般的に、カルコゲナイドアモルファスは高い電気抵抗を示すが、本CrGTアモルファス薄膜は低い電気抵抗を有する特徴を持つ。引張試験機、半導体測定装置、レーザ顕微鏡からなる測定システムを用い、CrGTアモルファス薄膜のピエゾ抵抗効果を評価した。その結果、CrGTアモルファス薄膜は、引張変形に伴い多段階的にゲージ率が変化することが分かった。引張歪みが0.8%程度以下の時は、アモルファスCrGT薄膜のゲージ率は最大で110程度に達した。更に、引張歪みが0.8%以上では、そのゲージ率は10000以上に達することが分かった。特に、引張歪みが1%以下の領域ではそれら巨大抵抗変化は可逆的であることも分かった。引張変形下におけるXRDやラマン分光測定およびレーザー顕微鏡表面観察による評価を行った結果、1%以上の引張歪み下では、微細かつ均一にクラックが薄膜内に生じていることが明らかとなった。一般的には、機能材料のクラック発生や進展は、その機能を阻害するものと考えられるが、この結果はカルコゲナイドアモルファス薄膜のクラック発生・進展を利用することによって既存材料の限界を超える巨大抵抗変化を実現できることを示している。このクラックの発生挙動を基に、CrGT薄膜の破壊靭性値を見積もったところ、従来の材料に比べて低い値を示した。即ち、この低い破壊靭性値に起因して微細かつ均一にクラックが発生することにより大きな抵抗変化が得られると考えられるが、これはCrGT薄膜内に内在するCrクラスターに起因することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
引張試験機、半導体測定装置、レーザ顕微鏡からなる測定システムを用い、CrGTカルコゲナイド薄膜のピエゾ抵抗効果について調査を行った結果、CrGTアモルファス薄膜の低い破壊靭性値が微細・均一なクラック発生を誘起し、巨大な抵抗変化、即ち、ピエゾ抵抗効果を発現していると示唆された。この低い破壊靭性値は、CrGTアモルファス薄膜内に内在するCrクラスターと関連している可能性があるため、Crクラスターの量が少ない、高温まで加熱処理を行い完全に結晶化させたCrGT結晶薄膜についても同様の実験を行った。その結果、結晶薄膜では割れるまでの引張変形歪み量が大きくなることも確認できている。但し、CrGTアモルファス薄膜の方が一桁以上の低い電気抵抗を呈するためゲージ率はCrGTアモルファス薄膜の方が大きことも分かってきた。今後、更なる調査を行っていく。 また、得られた巨大な抵抗変化を利用することで高感度の歪みセンサーの実現が期待できる。そこで、CrGTアモルファス薄膜を用いて簡易的な脈拍センサを試作した。作製したCrGT/ポリイミド二層箔を手首に単純に巻き付け脈拍を計測したところ、脈拍に応答する明瞭な抵抗変化を確認でき、高分解な脈拍波形を得ることに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に引き続き、CrGTをはじめとするカルコゲナイド薄膜のピエゾ抵抗効果について調査を行う。これまでの知見により、薄膜に内在するCrクラスターが低い破壊靭性値を誘発している可能性が示唆されるが、このCrクラスターの量は、Cr濃度により制御できることが分かっている。そこで、今後は、Cr濃度を変化させたCrGTアモルファス薄膜を作製し、そのゲージ率や破壊靭性値に及ぼす組成依存性を明確にしていく予定である。同時に、引張試験下における局所構造変化を調査していく。具体的には、引張負荷下におけるXRDやラマン分光実験に加えて、XAFS実験を通して、引張変形によるCrGT薄膜の局所構造変化を評価し、Cr配位数や原子間距離を分析し、大きなピエゾ抵抗効果の要因を探る。 更に、薄膜内に微細・均一なクラックが無数に生じているにもかかわらず抵抗測定ができている。従って、CrGT/ポリイミド二層箔のどこかに導電パスが存在するはずである。それを明確にするため、CrGT薄膜に発生したクラックの形態(長さ,幅,深さ,数)を詳細に観察していく計画である。また、CrGT薄膜のピエゾ抵抗効果のメカニズムを解明するために、力学-電気特性に及ぼす種々なパラメータ依存性(CrGT膜厚、測定温度、引張速度など)を調査する。加えて、有限要素法を用い、引張試験中におけるCrGT薄膜にに生じる応力と歪みを定量化する。 また、引き続き、CrGT/ポリイミド二層箔におけるピエゾ抵抗効果の耐久性や再現性・信頼性の定量的実験を行い、センサーデバイスとしての動作性能を評価していく。
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