研究課題/領域番号 |
23K17869
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分28:ナノマイクロ科学およびその関連分野
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
塚越 一仁 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, グループリーダー (50322665)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
|
キーワード | フラーレン / 異方性 / 結合 / 導電性 / 2値スイッチ / スイッチ素子 / ナノデバイス |
研究開始時の研究の概要 |
フラーレン数個(~10個程度)を電極間に連ねて、フラーレン間を繋ぐ結合ボンドの“特定個所の結合・切断”を電極からの電流注入で誘起し、電気伝導の揺らぎを抽出する研究を推進する。隣接フラーレン間ボンドの結合・切断を、C60バルクの平均値ではなく、個々の振る舞いとして検出できる。異方性フラーレンC70や、フラーレン殻内に原子や分子を内包したフラーレンでの比較で応答モデルを構築し、結合反応の安定性や反応速度を推量する。構造依存の反応比較で、“最小エネルギーで動作する極限小の分子間結合1つで生じる伝導スイッチ”の化学基盤と技術が開拓できる。
|
研究実績の概要 |
本研究“電流注入による単結合ボンドの結合・切断スイッチのフラーレン異方性応答”では、フラーレン数個(~10個程度)を電極間に連ねて、フラーレン間を繋ぐ結合ボンドの“特定個所の結合・切断”を電極からの電流注入で誘起し、電気伝導の揺らぎを評価することで、形状の異なるフラーレンでの伝導機構を導出することを目的としている。 数nmから数10nmの電極を用意し、この電極間にフラーレン膜を形成して、電極からフラーレンに電流を注入することで、隣接フラーレン間ボンドの結合・切断が生じ、電気伝導に変化が生じる。この電気伝導特性に、フラーレンの電子状態や形状安定性に依存した特徴が反映されることが予想されることから、C60で得られる特性との比較で、フラーレン間の結合・切断や揺らぎ特性を見出せると見込んでいる。 そこで本研究では、C60とC70を導電材料とした素子を作製して、伝導を調べている。まず、従来のナノ素子の欠点である微細加工揺らぎによる特性再現性の不明瞭事項を払しょくするために、電極間間隔を膜厚だけで調整出来る電極を縦型にした素子構造の開発を行った。この縦型素子では、フラーレン膜厚の調整だけで、再現性良く3nmから30nm程度の電極間隔調整が出来るようになった。フラーレン1つのサイズはおおよそ1nm程度であることから、3nm素子ではフラーレン3個程度でスイッチが生じていることになる。 この縦構造素子の伝導特性を系統的に計測し、厚さに因る結合と切断の電流と電圧の傾向を得た。これを基準として、異形フラーレンとの比較を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
C60とC70を導電性を比較可能とする素子自体が、関連研究において未開発・未報告であり、素子作製の試行錯誤から研究を開始した。従来は、電子ビーム露光で2つの電極を数nmから数10nmの間隔でパターン形成し、金属膜蒸着とリフトオフにて、平面上に配列された電極を作製した。この電極上に、フラーレン膜を製膜することで、フラーレン素子とした。しかしながら、平面構造での電極間作製精度は常に揺らぎがあり、作製した電極間を電子顕微鏡観察が必要となる。多素子を造り、成り行きで出来た電極の分布から、フラーレン膜の伝導距離特性を論じることは可能であるが、更なる精密再現性のために2つの電極を重ねる縦構造の開発を試みた。この縦構造では、電極間に挟む膜の厚さで伝導長が決まることから、素子の膜厚に依存した特性を系統的かつ再現性よく研究するのに有意な構造である。 縦型構造のための下電極を電子ビーム露光にて形成し、1ミクロン幅の電極を形成した。これに、フラーレン誘導体を溶解した溶液をスピンコートした。溶液濃度、温度、スピンコート回転数、スピンコート時間を調整することで、再現性良く同等のナノ厚薄膜(3nmから30nm)を作ることが出来る。これに、上部電極を金属蒸着で形成した。 この縦型素子で、電極間隔をかえて特性を調べたところ、膜厚に依存したフラーレン重合と結合解重合に伴う伝導スイッチ特性が得られ、電圧ならびに電流が厚さに対して系統的に変化が得られた。 C60に代えて、C70を用いて初期実験を行った。同条件のC60膜と比較して、C70では、再現性良く動作電圧が低くなった。これは、C70が完全な球体ではなく歪んだ形状をしていることによる表面曲率の違いによって、表面曲率が高まる部位間での結合力が高まると推察され、当初予定した通りの現象である。 今後、計測素子数を増やし、初期実験で得られた差異を明確化し、結合エネルギーの差を検討する。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度にて、本研究を進める上で有効となる縦構造素子を再現性良く作製する技術を確立することが出来た。素子作製における膜厚や伝導チャネルを形成するパラメタの変化に対して、十分な再現性と特性追随性が確認できた。本年度は、この縦構造素子にて、C70膜での系統的な特性調査を進める。 まず、膜厚に依存したフラーレン重合と結合解重合に伴う伝導スイッチ特性を調べる。この系統的な結果の導出には、約50-60個の素子結果が必要であり、素子作製と計測を進める。予備実験にて、C60素子よりも動作電圧の低下傾向を見出しているため、系統的測定によって、具体的なスイッチ電圧の差を調べ、フラーレン間結合に必要な電圧を見出す。さらに、スイッチに要する電流も導出することで、定量的な特性の違いを見出すことが出来ると目論んでいる。 さらに、C60とC70のそれぞれの素子での温度依存性を調べる。これによって、温度によって生じるスイッチエネルギーのアシスト効果を明確化し、異なるフラーレンでの結合特性を数値として明確化することが出来るはずである。 そのうえで、それぞれの素子でのパルス電圧を導入したダイナミックスイッチ特性の計測を試みる。パルス電圧に対する追随性ならびにスイッチの揺らぎの差を計測することで、フラーレン異形に関しての特異性の導出を試みる。
|