研究課題/領域番号 |
23K17874
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分29:応用物理物性およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福山 寛 東京大学, 低温科学研究センター, 特任教授 (00181298)
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研究分担者 |
戸田 亮 東京大学, 低温科学研究センター, 技術専門職員 (20452203)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | サブミリケルビン / 冷凍技術 / 温度計 / 量子技術 / 超低温 / 量子科学 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、希釈冷凍機の普及によって10 mK(ミリケルビン)の極低温下での量子科学技術研究が世界中で活発に展開している。この実験環境温度のフロンティアをサブmK 温度域まで1桁以上拡張し、新たな発見や発明を促進するため、コンパクトで取扱いの簡便な0.8 mKの超低温を連続発生できる連続核断熱消磁型の「サブmKステーション」を開発する。まずプロトタイプを使った連続冷却原理の実証実験を行い、これを元に必要な改良を加え、高精度なサブmK温度計や簡便な自動温度制御プログラムも開発することで、その実現を目指す。
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研究実績の概要 |
サブmKステーションの主要構成要素(それぞれ2つのPrNi5核ステージ、断熱消磁用1.3T超伝導マグネット、Znの超伝導熱スイッチ)を統合したプロトタイプを製作して市販の希釈冷凍機に組み込み、これを予冷段としてテスト冷却を実施したところ、0.72mKの連続発生に成功した。これは、サブmK温度を希釈冷凍機のように連続発生できること、すなわち連続核断熱消磁冷凍(CNDR)法の有効性を示した世界初の実証例である。このとき1冷凍サイクルは、第1核ステージの励磁に20分、予冷に60分、消磁に30分、そして第2核ステージからのエントロピーポンピングに150分の計4時間20分であった。 続いて、実測したプロトタイプの熱的挙動を説明できる熱モデルを立ててシミュレーションを行い、各要素間の熱抵抗とそれらへの自然熱流入量を定量的に決定するとともに(1核ステージあたり1-5nW)、各温度で許容熱流入を最大化する最適運転サイクルすなわち冷却力を評価した。この他、核ステージの固定用銀フランジの適切な内部酸化アニールを実施して残留抵抗比を3400以上とし、フランジ自身の熱抵抗を半減させる改良を施した。また、3および4回目冷却テストで顕在化してきた熱流入量の突発的増加の原因を探り、これを機械振動由来と同定して核ステージの断熱支持機構を糸の張力を用いるタイプから特殊樹脂材によるより堅牢な3点支持に変更した。 こうした改良を経て5回目の冷却テストを実施した。超伝導リード線の不調から第2核ステージへの印加磁場が0.15 Tに止まるトラブルがあったものの、事前予測した冷却力とよく一致する実測値が得られたことから構築した熱モデルが適切であったこと、単発消磁によって0.34mKの最低到達温度を記録したことから銀フランジの熱抵抗低減が有効だったことがそれぞれ示された。また、熱流入の突発的な増加も解消できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初立てた今年度の目標を概ね達成することができた。まず、磁気作業物質PrNi5からなる小型の核磁気ステージを2つ使ったCNDR法でサブmK温度を連続発生できることを初めて実証した意義は大きい。維持温度に関しては目標性能(0.8mK)を上回る0.72mKをすでに達成できた。そして、目標とする既存の希釈冷凍機に後付けできるコンパクトなサイズ(W156×D84×H240)も、温度計を除き実現できている。一方、冷却力は、0.8 mKにおいて10nW以上という目標に向けて、改良点を明らかにすることができた。 このように、試作したCNDRプロトタイプはすでに実用機と呼んでも差し支えない性能を備えており、量子科学技術の研究開発においてサブmK温度域をユビキタスな実験環境としたいという最終目標に向けて、本研究はほぼ順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
CNDRのプロトタイプを改良して、当初目標の冷却力(0.8 mKで10nW以上)を実現する。具体的には、振動発熱をさらに抑制して自然熱流入を1nW未満まで低減すること、Zn超伝導熱スイッチの設計を見直して熱抵抗を半減する予定である。これまでのところ、自然熱流入は人間が活動する時間帯と相関して増減するような時間変化が観測されており、パルス管冷凍機とは別の外来振動由来の発熱が考えられる。ただし、希釈冷凍機全体を空気バネで除振する大がかりな対策ではなく、より簡便でコンパクトな除振機構を開発したい。 これまでの実験では、白金の核帯磁率がサブmK域でもキュリー則に従うことを利用した既存のPt-NMR温度計を用いてきた。これは高性能なサブmK温度計ではあるが、連続測温ができないことや特殊なエレクトロニクス(数百kHz以下の低周波に特化したNMRスペクロメータ)を必要とするなど、本研究の目的には必ずしも適した温度計とは言えない。そこで、希薄磁性合金を用いたできるだけコンパクトなプローブを、エレクトロニクスとしてロックインアンプだけを使う相互インダクタンスブリッジ法で計測する核磁気帯磁率温度計の開発を目指している。 これまでに構築した熱モデルをベースにして自動温度制御のための使い易い制御プログラムを開発し、非専門家でも十分使いこなせるサブmKステーションの完成形を目指す。
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