研究課題/領域番号 |
23K17883
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分30:応用物理工学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
足立 智 北海道大学, 工学研究院, 教授 (10221722)
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研究分担者 |
俵 毅彦 日本大学, 工学部, 教授 (40393798)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 希土類添加結晶 / 量子メモリ / 超微細構造準位 / スピンコヒーレンス / スピン状態保存 |
研究開始時の研究の概要 |
近年,広域量子情報ネットワーク構築のための量子メモリ研究が盛んである.実用的なメモリ時間を実現するには,スピン状態保存プロトコルを用いて,メモリ時間をマイクロ秒領域の光学遷移コヒーレンスから秒オーダーのHF準位間コヒーレンスへの変換する必要がある.本申請では,ホスト結晶の核スピン揺らぎに不敏感でスピンコ ヒーレンスの長いHF準位対(ZEFOZ遷移)を探索し,スピン状態保存を達成することを目的としている.120ものHF準位間遷移から3次元空間全てで1次のゼーマン分裂が0となるマジック角を評価し,最適な準位対を探索する手法を確立することは電子デコ ヒーレンス制御に繋がる革新的な研究である.
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研究実績の概要 |
広域量子情報ネットワーク構築のための量子メモリの研究が盛んである.特に通信波長帯光子と相互作用するエルビウム (Er) 添加結晶は既存の光ファイバー網インフラが使える為,有望視されている.我々も同位体純化167Er:Y2SiO5(YSO)結晶を用いて,コヒーレンス時間等の基礎物性値測定,原子周波数コム量子メモリプロトコルの実証と高効率化を行なってきた.しかし実用に耐えるメモリ時間 (>1 s) を実現するには,光学遷移を使って書き込まれる量子情報をErイオンの超微細構造準位(HF)に転写する必要がある.これを実現し,かつオンデマンドの読み出しを可能とするプロトコルがスピン状態ストレージである.これによりメモリ時間をμsオーダーの光学遷移コヒーレンスT2optから秒オーダーのHF準位間コヒーレンスT2hypへの伸長が可能となる.本申請では,ホスト結晶YSOのイオンとドープされたErイオンからの磁気ノイズに不敏感なT2hypが長いHF 準位を探索し,スピン状態ストレージを実現することを目的としている. 2年の研究期間において,以下の3項目を実施する:A. ZEFOZ(Zero First-Order Zeeman)遷移の探索手法の確立,B.ラマンヘテロダイン分光による計算パラメータの実測,C. スピン状態ストレージの実証.ZEFOZとは1次のゼーマン分裂が磁場に対するエネルギー変化の微分(勾配)が零となる準位であり,磁気ノイズに対して準位エネルギー変化~0となるため,劇的なコヒーレンス時間の伸長が期待できる. 初年度はAを積極的に実施し,モンテカルロ法による零磁場および磁場下でのZEFOZ遷移の探索手法を確立した.項目Aの成果として,計算・理論として2件の国内会議発表および論文投稿準備,実験として3件の国内会議発表,1件の国際会議発表,1件の学術誌投稿(査読中)を得ている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2年の研究期間において,以下の3項目を実施する計画である:A. シミュレーションによるZEFOZ移の探索手法の確立,B.ラマンヘテロダイン分光による計算パラメータの実測,C. スピン状態ストレージの実証. 初年度はAを積極的に実施し,量子モンテカルロ法による零磁場および磁場下においてYイオンの核磁気モーメントと添加されたErイオンの電子磁気モーメントが双極子・双極子相互作用を通じて標的Er電子に及ぼす磁気ノイズを計算するとともに,すべてのHF準位間遷移の磁場変化を計算してZEFOZ遷移を特定し,それらのスピンコヒーレンス時間と遷移強度の導出に成功した.計算に用いた報告済みのg (g因子), A(超微細相互作用), Q(核四重極子相互作用)テンソル行列は非常に異方的な為,3次元的にエネルギーポテンシャル曲面を計算する必要がある.すべてのZEFOZ遷移に対して,特定の方向に磁場を印可するとスピンコヒーレンスが伸長するマジックアングルが存在することが明らかになった.それらの成果は,2件の国内会議で発表し,論文投稿準備中である.また,項目Aの実験的成果として, 3件の国内会議発表,1件の国際会議発表,1件の学術誌投稿(査読中)を得ている. Bについては,先行研究グループからこれまでの実験結果に基づいた最も確からしいg, A, Qテンソル行列が2023年に論文発表され,我々の試料でのエネルギー準位の実験結果とよく一致したため,Bを省略してCに挑戦している.項目Cは,未成功であるが,励起パワー不足等の条件が明らかになってきている. その他の成果として,これまで実証してきたAFC量子メモリの効率は0.2%[Yasui et al. , Optics Express 29, 27137 (2021)]であったが,AFCの作成方法および初期化手法の改善により,16.7%までの改善に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
これまで研究計画よりも速い進捗を得ているため,最終年度は以下の通りの研究を行う予定である. まずは項目AシミュレーションによるZEFOZ移の探索手法の確立で得た理論・計算での成果を“Dependence of spin coherence on Er concentration in 167Er3+:Y2SiO5”として学術論文に掲載させることを第一目標とする.競争の激しい分野であるため,掲載までには多くの時間を要すると考えられる. また,実験での成果として,新しいAFC作成手法の実証およびtime-bin量子ビットのメモリ実証を行った査読中の“Efficient operation of atomic frequency comb optical memory using optical frequency comb in 167Er3+:Y2SiO5 under zero magnetic field”を学術論文に掲載させるとともに,世界に先駆けてスピン状態ストレージを成功させることを第2目標とする.その他,メモリ効率の改善についても学術論文に投稿する予定である. 項目Cのスピン状態ストレージは,エネルギー準位の多いEr:YSOでは世界的に未だ成功していない.理論的には不可能ではないため,1年をかけて実証に至る条件を探索する.
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