研究課題/領域番号 |
23K17900
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉田 弘幸 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (00283664)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 電子親和力 / 電子分極エネルギー / 静電エネルギー / 機械学習 / 低エネルギー逆光電子分光 / 有機半導体 |
研究開始時の研究の概要 |
有機半導体電子デバイスは、軽量・フレキシブル・安価などの特徴をもつ次世代デバイスである。有機半導体の特徴のひとつは、有機合成により多くの新物質が次々と開発されることにある。材料合成やデバイス設計には、これらの新物質の電子伝導準位を表す電子親和力を精密かつ迅速に予測することは極めて重要である。本研究は、代表者が開発した低エネルギー逆光電子分光法(LEIPS)により蓄積してきたデータに基づいて、機械学習による有機半導体の電子親和力の精密かつ迅速な予測法を確立する。成功すれば、有機半導体デバイス開発を飛躍的に加速する。
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研究実績の概要 |
有機半導体の特徴は有機合成により多くの新物質が開発されることにある。高価な分析装置を持たない化学者が分子開発やデバイス設計に携わるため、電子伝導準位である電子親和力EAの簡便な評価法のニーズは極めて高い。 代表者は、それまで測定が困難であった有機半導体の電子親和力を精密測定できる低エネルギー逆光電子分光法(LEIPS)を開発し、有機半導体の電子過程を詳しく調べてきた。この結果、サイクリックボルタンメトリーで測定した溶液中の還元電位や単分子についての量子化学計算により見積もられるEAに、電荷-四重極相互作用に代表される「固体効果」を取り入れることで、正確に有機半導体のIEやEAを予測できることが分かってきた。本研究は、データ科学の考え方に基づき、機械学習により「固体効果」を予測することで、EAを精密に予測する方法を確立する。2023年度は、以下の2点をすすめた。 (1)固体のEAデータ収集を進めるための基盤整備を進めた。固体のEAは、LEIPSにより測定する。その際に、LEIPSスペクトルの立ち上がりと試料電流の立ち上がりから決めた真空準位の差からEAは決まる。2023年度までに、LEIPSスペクトルの立ち上がりを機械学習により決める方法を開発した。これを改良して精度を高めた。それに加えて、真空準位の自動決定法を開発し、これらを組み合わせることで、自動的にLEIPSスペクトルからEAが決定できるようになった。 (2)固体電子親和力を決定する要因を詳しく調べ、予測精度を上げるため、分子化学計算により検討した。「固体効果」は、電子分極と静電エネルギーに分けられる。このうち、電子分極をPCM法により計算した。その結果、これまで無視してきた中性分子に対する分極エネルギーが効くことが分かってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1-1 LEIPSスペクトルの立ち上がりを機械学習により決める方法を開発した。これを改良して精度を高めた。具体的には、SN比の悪いデータでは、ノイズを立ち上がりと予測することがあることが分かってきた。そこでデータの前処理にSavizky-Golay法による平滑化を行った。適切な平滑化を行うことで予測精度が高まった。また、スペクトルをシフトさせて訓練データを増やしたところ、0.1 eV程度シフトさせて21スペクトルを生成して訓練データに用いたところ、最もよい結果が得られた。 1-2 真空準位の自動決定法を開発した。真空準位は、基板に流れる電子電流のエネルギー依存スペクトル(LEET)から決定する。これまでLEETの変曲点を立ち上がりとするとよい結果が得られることが分かっている。これを自動化するため、LEETの一次微分に関数フィッテイングする方法を試みた。いくつかの関数を試して、3次多項式を使うとよいことが分かった。またフィッティングする範囲も適切に選ぶことが重要である。一方、試料帯電などの問題がある場合には、LEETに肩構造があらわれる。これを検出する方法として、1次微分をフーリエ変換すると確実であることがわかた。これらを組み合わせることで、自動的にLEIPSスペクトルからEAが決定できるようになった。 2「固体効果」のうち、電子分極エネルギーをPCM法により計算し、実験値と比較することで、量子力学計算から分極エネルギーが予測可能性を検討した。その結果、これまで無視してきた中性分子に対する分極エネルギーが効くことが分かってきた。特に、大きな極性をもつ非フラーレンアクセプターなどで顕著である。引き続き、検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
実験データの解析を進めて、固体の電子親和力データをまとめていく。これと並行して、より多くの分子のデータを集める。これまでのLEIPSの実験データは、太陽電池材料が多く、有機EL材料のデータが少なく、また精度にも疑問がある。最近、強い発光をもつ分子でもLEIPSを正確に測定する方法が分かってきたので、これを適用するなどの対策をしていく。 単分子電子親和力データ収集も今年度から本格的に進める。これには、量子化学計算ソフトGaussianを使って計算する。実験データがある分子から進めていく。
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